呼び方

カオが異世界へ転移して4年目頃話である。



-------マルク視点-------



僕はマルク。

もうすぐ、たぶん……6歳。


ある日の事、

リビングでペルペルをブラシしていたらヒマちゃんが話しかけてきた。

ペルペルは毛が長くフサフサしたおっきな犬だ。

ヒマちゃんは僕と同じくらいで、僕らはよく一緒に遊ぶ。

あと、僕らより小さいジュンも一緒。


「ねぇねぇ、マルちゃんは何で、カオじーさんの事を母たんって呼ぶの?」


ぶほっ


近くでこぉちーを飲んでいたヒマちゃんの父たんがこぉちーを吹き出した。

こぉちーは真っ黒で苦いオトナの飲み物なんだって。


「ひ、陽葵(ひまり)、カオ爺さんw、ぶはっ、いや、スマン。爺さんじゃなくて、カオオジサンだろがw」


「ん〜?カオージさん?」


「カオージ?ま、それでもいっか。爺さんなんて言ったら泣かれるぞ?、……いや、この世界じゃ爺さんの年齢か」


「母たんだもん!母たんは爺さんじゃないもん!」


「おう、悪い悪い、そうだな。マルクの母さんだな」


「マルちゃんはー、何でカオージーさんを母たんって呼ぶの?」


「だって、母たんだから」


「ふぅ。マルちゃんはまだ子供ね。お母さんは髪の毛が長くて、お化粧してて良い匂いがして、…あと、ん〜、あ!オッパイがある!」


「むぅ、母たんだって良い匂いするもん!いつもパン焼いた匂いとか甘いケーキの匂いする!」


「でも髪が短いじゃない。あと、オッパイないし。ほら、ジュンが小さい時、あつ子おばちゃんのオッパイ飲んでたでしょ?」


「僕もう赤ちゃんじゃない!ママのオッパイ飲まない!」


ジュンが怒りながらキッチンの方へ走って行ってしまった。

このお家にはオトナも子供もいっぱいいて、名前がいっぱいで大変。


ジュンの母たんは、みんなはあっちゃんママって呼んでる。けどヒマちゃんはあつ子おばちゃんて呼ぶ。

ジュンはママって呼ぶ。

ママとおばちゃんと母たんは一緒なの?


カアたんとカアサンは一緒だって聞いた。

小さいうちは『カアサン』と言えなくて『カアたん』や『カアしゃん』になるって、言ってた。

よし!僕ももうオトナ……、オトナじゃないけど、赤ちゃんでもない。

これからは母たんの事は母さんて呼ぶぞ。


「か、かぁしゃ、かあさん!」


ゲホッ、グホっ


「気管にコーヒーが入った、ゲホゲホ」


ヒマちゃんの父さん、大丈夫かなぁ。


「僕のか、かぁさんはオッパイ無いけど、他のみんなはオッパイあるの?」


「あるのよ、小さいけどあるの。あ、そっかマルちゃんは最近男子風呂だから見た事ないのね」


ずっと前はアリサねぇねと入ってたけど、今はかぁた、母さんとだから、見た事ない。


「おい、陽蒼、それ言うなよ。小さいとか。お姉さまやお母さま達に怒られっぞ」


ヒマちゃんの父たんが大笑いしていた。

何が面白かったんだろう。

まだまだ僕にはオトナの考えがわからない。

あのこぉちーを飲めるようになったら、わかるようになるのかな?


「あのねぇ、カオージーさんはマルちゃんと一緒に、男子風呂の日に入るでしょ?」


「う、うん」


「男子風呂の日に入るのは、おとこ。女子風呂の日に入るのはおんな、なのよ」


「へ、へぇ…」


「母さんはおんななの。だから男子風呂に入るカオージーさんはおとこ、おとこは母さんじゃなくて、父さんなのよ!わかった?」


「え、でも、でもでもみんな母た、母さんの事カアサンって呼んでるよ」


「違うのよ!かぁさんじゃなくて、カオさん!カオージーさんは名前がカオなのよ」


転げ回っていたヒマちゃんの父さんは、目尻の涙を拭きながら俺の耳に囁いた。


「いい事を教えてやろう。ちょうど今日は男子風呂の日だ。カオが母さんか父さんかの見分け方だ。……コソコソ」





その日、いつものように母さんと風呂に入った。


『いいか、男はな、胸は無い、そして足の間にぶら下がってるはずだ』


母さんの足の間に…、ぶら下がってる!

なんと、母さんは父さんだったんだ!



「……と、とぅさん?」


「ん?おう!何だ?マルク」


……父さんが嬉しそうに笑った。




--------カオ視点---------


いつものように一緒に風呂に入っていると、俯いていたマルクが突然、俺の事を父さんと呼んだ!


父さんだぞ?父さん!

マルクもドンドンと成長していくな。

つい先日まで俺の事をかあたんと呼んでいたのに。


よし!明日はお祝いに王都に買い物に連れて行こう。あ、一応、カンさんかミレさんに連絡しておこう。


『お父さん』が迷子になったら恥ずかしいからな。




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