取説を読まない男

カオは取説を読まない。

読むと三行目で眠くなってしまうからだ。

何でもとりあえず始めてみて、行き詰まったら調べる。

そんなカオだったから、自分のステータスをじっくりと見た事がなかった。


ある日キックが訪ねてきた。


「あの…ステータス、の事、話したいので、上で…」


「ん?3階?いいよ。 あ、皆んなはどうする?」


「とりあえず…ふたりで…」


頷いて、リビングで立ち上がると何かを察したマルクが俺の右足に抱きついてきた。


「あ、マルクも良い?」


「はい」


マルクを抱き上げて階段を3階まで上がった。

いつもキックが泊まってる部屋に入る。

何だろう、改まって…。恋愛の相談とか俺にするなよ?

恋愛の相談は既婚者にしてくれ。

ベッドに腰掛けるとキックは直ぐに話し始めた。


「あの…、ステータスの事なんです、けど」


「うん」


「カオさん、ステータスに載ってる魔法とか、全部確認しました?」


あ、ヤバ。

しようしようと思いつつ…、いや、ハッキリ言おう。

忘れてました。


「ええと、忙しかったから、まだ」


「そうか。俺、カオさんほど忙しくないから、触れるとこ調べたりしてました」


うわ、ごめん、キック。

俺忙しくない時もまったりくつろいで、ステータス確認は全然頭になかったわー。


「そっか、それで?」


「俺、あのゲームはレベル30あたりでやめたって前に、話したとおもう。DEの使える魔法って3つしかないんですが」


「あれ?30だと第二段階でもっと魔法増えてないか?」


「あ、俺…、30クエ失敗して、そこでやめたから」


「ああ、そっか。30クエストをクリアしたら第二段階の魔法が使えるのか」


「カオさん、前に56って言ってたから、45クエの魔法まで全て覚えているんですか?」


「うん。一応。と言っても俺はまったり生産系WIZだったから、覚えた魔法のうちほんの一部しか使ってなかったなぁ」


キックが1枚の紙を差し出した。


「…DEの魔法です」


-----

闇魔法

ハイブラインド:敵から姿を隠す事が出来る。持続時間30分。

シャドウベノム:影を伸ばして敵に触れ毒状態にする。

シャドウライトニング:影を伸ばして敵に雷攻撃を与える。

-----


ほお、凄いな。


「持続時間とか試したの?」


「いえ、書いてありました」


「……ん?書いて?」


「ステータス画面の『魔法』をクリックすると使える魔法の名前が出ていて、それに触ると詳細が表示されます」


俺はステータスを開いた。

魔法ーライトを触るー照明魔法。持続5時間。明るさを変えられる。

マジか……。

転移した事務フロアの資料庫の中で一生懸命時間を計ってた俺。

書いてあるじゃん、ここに、5時間って。

大丈夫。立ち直れ、俺!


「うん。で?」


「あの、俺、魔法は3つだったんですけど、最近ひとつ増えて…」


「はっ?増えた?」


「はい。あの、ダンジョンから戻ったら、気がついて…。シャドウスリープ」


「………。」


どう言う事だ?

ステータスには経験値やレベルなどの数字は一切載っていない。

だからゲームのようなレベル上げは無いと思ってた。

ある……のか?

いや、ゲームとは違うのか、ゲームなら30クエストをクリアしないと次の魔法は覚えられなかったはずだ。


これ……は、あれだ。ゴルダ案件だ。


「ええと、ゴルダに話そうか?あ、秘密にしたいか?」


「いえ、ひとりで抱えるのとか、無理なので」


「うん。一緒に行こう!ゴルダのとこへ」


俺たちは(マルたん付きで)ギルドのゴルダの元へむかったのだった。


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