【完結しました】黒炎の従者 最強に至れし元厨二病患者は、過酷な運命(勘違い)に巻き込まれる(自業自得)

加糖のぶ

一章 名もなき従者と運命の理

第1話 ある日の金曜日


「ふーん、ふふーん、ふふんふんふふーん。キ○タマキラキラ金曜日〜」


 男子生徒、名取海なとりかいは金曜日になると皆が口ずさむであろう歌?を歌い?帰路に着く。


 今日は推しの新人Vtuber「ユニ」ちゃんの生歌配信だ。バチャ豚とかキモオタとかチー牛とか言われても気にしない。だって底辺はどう下がろうが底辺として変わらないんだから。


 名取海という男子生徒は根暗で卑屈でうだつの上がらないぼっち。

 背丈は男性の平均と言われる175㎝前後ではあるものそれ以外…外見はまんま隠キャ。瓶底眼鏡にマスクで顔を隠し、髪の毛はボサボサ。


「…空が帰ってくるとうるさいから早目に部屋にハイドオンしないと」


 妹の名前を忌々しげに語り、十字路を左に曲がる――すると突如謎の光に包まれる。


「うほっ!?」


 某アニメのように「目が〜目が〜」など言えず、突然のことでホモのような奇声を発す。



“005 第五惑星地球 ダンジョン 構築”



 そんな機械的な声を他所に意識は落ちる。


 ・

 ・

 ・


「…う、うん、あー?」


 涎を垂らしだらしなく目を覚まし、戸惑いながらなんとか起き上がる。固い床で寝ていたことで背中を痛めたらしく、顔を顰めた。



“名取海 エクストラスキル【焔〈黒〉】獲得”



 先程と似た機械的な音声が頭の中に流れる。


「ス、キル…?」


 スキル。それもエクストラ…これってマンガとかゲームとかで使われる用語…だよね。地球がどうのこうのとか言っていたし…待って待って。待てよ。僕、したのでは?


 一旦落ち着き状況を整理した。その答えは「地球にダンジョンができてそのダンジョンに自分はいる」…という答えではもちろんなく「異世界転移をした」というチー牛的思考。


「やったやった! 僕の時代キタコレ!! 僕つえーできるじゃん。てか、ここどこ?」


 喜びも直ぐに失せ、周りを見回す。


 洞窟…? 周りに街灯はないのは、まあ、異世界だし。その代わり光苔?みたいなのが洞窟の壁に張り付いてる。キモチワルイ。


「…多分、危害を加える生物――とかは近くに、居ないかな」


 普段と異なりやけに冷静に判断した海は「警戒は怠らないけどね」と自分自身に言い聞かせてまずできることをする。


「ふっふっふ。スキル。スキルだよワトソンくん。そう、スキル。僕には(海的美声)がある!!…使い方は知らないけど」


 恐怖よりも好奇心が優った海は己が手に入れた唯一のスキルを確認。


「あれ、あれだよ…ステータスとか見れないのかな。えっと、ステータス!」


 しーん。


「うーん? 台詞が違うのかな? じゃ、ステータスオープン!!」


 しーん。


「…ウィンドウ! Windows!! ヒラケゴマ! デッメッションオーープンッ!!!!」


 しーん。


「なら――」


 ・

 ・

 ・


 格闘すること30分。


「ぜー、はー。ぜー、はー」


 く、くそぉ。知る限りの合言葉は試したけど全然反応する気配がない。てか、そもそもステータスとか見えない系なのかも。


 久しぶりに大声を上げ続けたことで若干過呼吸となりその場で尻餅をつく。


「詰んだ」


 真っ暗な天井を見上げて一言。


「あーあ、僕には異世界は難しいみたいだ…って、簡単に諦められればいいけど一生この洞窟の中はなぁ。魔物に襲われるかもだし…確か【焔〈黒〉】って言ったけ、うおっ!?」


 何気なしに呟いた途端、目の前に透明のウィンドウが出現。


 ********************


        ホロウ


 ・スキル 【焔〈黒〉】

 ・概要 黒炎を纏い黒炎を従う。

 ・身体能力向上、治癒能力向上。

 ※「格」が上がると更に上昇。


 ********************


 あー、なんか出たね。書いてあることはなんとなく理解できる。

 そして僕が手に入れたスキルが何故に【焔〈黒〉コレ】なのかわかってしまった。


「――まんまじゃんっ!!」


 洞窟内に轟かせる勢いで叫ぶ。


「さ、最悪だ。去年、卒業した黒歴史――厨二全開で考えた名前とスキルやめて…」


 違和感、覚えはなんとなくあった。それが今表面化されたことで理解してしまう。


「…大丈夫。ダイジョーブ。ここは異世界だ。地球じゃない。そうだろ。そうだ(確信)。あの頃を思い出して楽しまなくちゃ、損だよね」


 そうと決まれば話は早い。


「【焔〈黒〉】。わかんないけどなんかかっこいい。えっと、“焔よ彼の地を焦土とかせ!”とか言ったら何か出たりして…」


 洞窟の上空に右手を上げ、昔、自分で考えたかっこいい詠唱セリフを思い出し口にする。


「なーんて、何も起きるわけ――」


 ゴオッ!!


 自傷気味に笑う本人の意思に反し右手に熱い感覚を覚えた。その次の瞬間、何かが手のひらから発射された感覚。


 それは空を駆け上がる黒炎。


 カッ!


 数秒足らずでダンジョンの上空まで上がった黒炎は衝突と共に発火。


 シュドーンッ!!


 轟音と呼べる耳をつんざく音。


「――」


 声を失うアホ。



“エラー エラー まもなくダンジョンはします ダンジョン内に居る探索者を強制的に地上へ送還します エラー エラー”



 三度目となる機械的な音声を聞きながら目の前が真っ白になり――


 【超難関ダンジョン】破壊クリアにより《探索者:ホロウ》の格が上がりました。格が上がりました。格が上がりました。格が上がりました。格が上がりました。格が上がりました。格が――


 そのアナウンスは鳴り止むことなく。



“臨時アナウンス 《探索者:ホロウ》 によって【超難関ダンジョン】の一つは制覇クリアされました 地上に出現した魔物はダンジョンクリア者の意向により報酬として直ちに消滅します それに伴い、これにて初戦闘チュートリアルは終了となります これからの皆様の御健闘を心より願っています”



 海が意識を手放した次の瞬間、そのアナウンスは全世界に流れる。それは突如魔物が出現し、混沌とした世界を照らす希望となる。


 あるところでは、家族を守るために身一つで一人戦う父親。アナウンスと魔物の消滅を見て守り通した家族と抱き合い涙を流す。


 あるところでは、最愛の彼女が目の前の豚型魔物に陵辱されそうになっていたところ、アナウンスと豚型魔物の消滅を見て神に祈る。


 あるところでは、強スキルを手に入れたことで人々を守る運命になった少女は戦いの終焉に安堵し、その場に崩れ落ちる。


 あるところでは、つまらない日常を変えた世界に感謝し、魔物達を己が欲望の赴くまま殺し続けていた殺人鬼は自分の楽しみを奪ったホロウ邪魔者に殺意を抱く。


 あるところでは、愛しの兄、愛しの幼馴染を探すために邪魔をする魔物達を薙ぎ倒す少女達は想い人の身を案じ、走り出す。


 あるところでは――


 突如起こった『魔物の出現』は《探索者:ホロウ》という人物の手により終わりを告げた。当の本人は何億、何兆人という大勢の人々を助けたことなどつゆにも知らず。

 地上では『ダンジョン』の出現により機能しなくなった政府に変わり警察、自衛隊、強スキルを手に入れた人々が動く。今回の騒動は終わりであり、始まりでもある。


 ・

 ・

 ・


 約三時間という短くも長い時間を経て。


 そして、地上に生還した海とは…。


「ち、ちくしょぉーっ!!! 異世界じゃないじゃないかっ!!」


 目を覚まし、地上に生還する時に無くした瓶底眼鏡、マスクが無くなり素顔――中性的な見た目を晒したことに気づかない海は少し変わったもの見慣れた街並みを見て、落胆し、絶望し、無様に地面に蹲る。


「(チラッ)」


 横目で見ると大穴(誰かがダンジョンを破壊したことによりできた大穴)がポッカリと空いている。僕は何も関与していませんよと明後日の方向に無理矢理顔を背け、立ち上がる。


 ま、まぁ? ダンジョン?が出来たところが廃墟地帯でよかった的な? いや、別に僕が何かをしたわけじゃないから、関係ないけど。


「っし。ユニちゃんの生歌配信見なくちゃ」


 現実逃避をした海は動揺から街が破壊されていることに目を向けれずただ予め決めていた予定通り行動を移す。


「って、ハヤッ!?」


 普段通り軽く駆け足で走ったつもりなのに何故かそのただの一歩で周りの景色が変わる。


 う、ウォォォ。な、なに。はや、てか建物に、ぶつかるっ!?…ええい、ままよ!


 本能に従いジャンプ。


「うぇェェ!?」


 軽くジャンプしたはずが当たる直前だった雑貨屋の建物を悠に超え空高く舞い上がる。


「え、ま、街が…」


 崩壊した街並みを見て言葉を失う。


 ダンジョンが〜とかって本当のことだったんだ。僕が現在進行形で飛んでいることが真実を物語っているけど、夢オチじゃないのかよ。


 空高く飛んだことにより街の現状を知った。


「! あれは…誰かが襲われてるっ!!」


 思考を回しているとふと遠くで牛型の魔物?に襲われかけている人を発見。


 た、助けなくちゃ。この力なら、でも僕の(戦う)姿が人に見られたら…いや、見られる前に、気づかれる前に、やればいい。


 宙に浮く中、足に力を入れて空を蹴る。


 ソニックブームを起こしながらを進み、進み、救助者の元へ向かう。


 は、ははは。言葉通りよ。心の中で「出来る」とわかっていても実際自分で実現させるとすごいや。マンガやアニメの世界の超人になったみたいだ。


 女性がスマホ片手に足を振るわせ涙を流し目の前の牛型魔物に恐怖を抱く。

 その窮地に颯爽と上空から猛スピードで飛来した海は牛型魔物だけを仕留める威力の微力な黒炎を纏った右手を脳天から振り下ろす。


「――“焔”」


 その一撃は誰にも魔物すらにも観測させることなく標的の身体を跡形もなく黒炎で消す。


「…え?」


 女性が声を上げ、目を開けた時には既に魔物は跡形も無く消え去り、ただ空中に黒炎の残滓だけが残る。


 

 ∮



「――ぃ、家、帰ろう」


 人一人を助けたことに嬉しいと思いつつ初対面の女性。それも美人の女性との出会いでコミュ症を発動させた海は“今すぐにでも家に帰りたい”という衝動に駆られながら、自分の身体能力を慣らせるべくゆっくりと帰宅をする。


 無事何事もなく帰宅した海は何故か玄関先で鬼の形相で待っていた妹と幼馴染に怒られ、数時間に及ぶ説教の元理不尽な目に。

 当然ながら当初の予定だった生歌配信など見れない。世界の異変で生歌配信が予定通りに行われなかったことに喜べばいいのかわからず踏んだり蹴ったりな一日となった。


 そんな世界震撼から三年の月日が経つ。

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