第16話 偽りの魔王
魔の森に陣地を張っていた魔王軍を撃退すると、俺と師匠は一度休んだ。
魔王との決戦に備えて。
約二か月後、魔王城への突入。ついに、そのときはきた。
「師匠、今日から魔王城の攻略が始まるようです」
「ええ、それにしても……今までの魔王軍とは全く違うわね」
歴史にあるような激戦になっておらず、聖王国軍とポーラ帝国軍も魔王城へとたどり着いた。確かに、イレギュラーが多かった。
「きっと、俺たちに味方してくれているんですよ」
「そうだと、いいわね」
師匠は、心配性だな。でも、この世界で生まれこの世界の歴史を知っているとやはり楽観視は出来ないんだろう。いや、あんなに死にかけてるのに未だ楽観視してる俺がおかしいのかもな。ゾンビの身体になってから、死とかに鈍感になってるし……その影響かも。
「では、俺たちも行きましょうか」
「魔石は持った?」
「はい、しっかり」
「よし、それじゃ行くわよ」
*
断崖絶壁に造られた巨大な城、魔王城。
そこでは、人類と魔族の最期の戦いが繰り広げられていた。
そして、魔王の間。
――その場所で、今まさに決戦が行われようとしていた。
「師匠、この扉の向こうに」
「ええ、油断しないように行くわよ」
大きな音を立てて開く巨大な両開きの扉。そして、その向こうに見えたのは王座の脇に立つ存在だった。
「魔王が、いない?」
師匠に対して、静かに聞く。
「ええ、魔王は見当たらないわね」
つまり、魔王の間に魔王はいない。
「あなた方のお察しの通りでございます」
魔王の側近であろうか、その者は驚愕の事実を口にし始めた。いったい、何を言っているんだ?
「今世では、魔王様の復活の兆しはあっても……遂には玉座に座らなかった。いえ、見つからなかったのです」
「つまりは、魔王は復活していないってことか?」
「そうではございません、魔王様はこの世界のこの大陸のどこかに存在しています。ただ、気配が掴めない」
「だから、四天王は起きていないのか?」
「四天王は、魔王様がいなければ制御が出来ない代物ですので……起こすことは致しませんでした。私は、偽りの魔王――ビスとでもしておきましょうか。魔王様が、帰還するまでの間……守らせていただきます」
ビスとなる彼も、知っているのだろう。魔王は、来ない。そして、魔王国はまたも敗れるのだと。
「魔王ビス、貴様をここで倒す!」
「私も、そのつもりよ。貴方の事情がどうであれ、敵であるのだから」
「それで、よろしい。さぁ、来なさい。私を、殺してみなさい!」
――偽りの魔王ビスとの決戦は、こうして幕を開けた。
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