Day18 占い

「ねぇ、あんた根岸って言うんでしょ?占い当たるんだって?」

 昼休みにいきなりやってきた人物に私は困惑して「は?」と睨みつけてしまった。

 緩くカールさせた長い髪、しっかり上げてマスカラもしたまつ毛。文句なしに整った目鼻立ち。紛れもなく、隣のクラスの女子カースト頂点にいる嶋だった。

 誰も自分のお願いを断るはずがない──そんな強烈な笑みを浮かべた嶋。はらりと落ちる横髪まで憎たらしい。

「占いなんてできないし、信じてもない。テストのヤマなら協力するけど、個人的な相談は受け付けない」

 視線を外して猫動画の続きを見ようとすると、嶋は私のスマホを持っている手をどけて視界に割り込んできた。

「えぇ〜?そんな事言ってぇ、根岸本当は出来るんでしょ?ヤマ当てるなら占いだって当たるよぉ」

「統計学ならね。でも私あなたの事知らないから」

 テストのヤマが当たるのは先に勉強してるから。自分ならどこをテストに出すかと考えれば自ずとヤマはおおよそ当たる。全然知らない嶋の行動なんて考えようがない。

「ただ次の出会い教えて欲しいだけなのにぃ」

「余計に専門外。あなたの行動パターンを私は知らない」

 猫動画から目を逸らさずに答える。猫が廊下に落ちてるなんて可愛らしい季節が来たものだ。

「ね、この通り!叶ったらいちごミルク奢るから」

 パン!と強く手を打合せてじっと私を見つめる嶋。呆れて見返すと、嶋の向こうで固唾を飲んで見守るクラスメイトの姿が見えた。

 やたら視線の強い嶋に折れた私は、メモ帳を破り取って寿限無のフルネームを書き込み、くしゃくしゃに潰した。それから開いて折り目を確認するフリをする。

「……南西、バス停。アイテムはストラップのぬいぐるみ」

 でまかせだ。学校の南西にあるバス停は乗降数の多い場所だから、少しは可能性がありそうに思える。ぬいぐるみのストラップは落ちやすいから、男子に拾って貰えるかもしれないし。

「おっけー、ありがと!」

 南西、バス停、ぬいぐるみ、と呟いた嶋はお礼もそこそこにダッシュで教室を飛び出して行った。

 嶋の存在がうるさい、と思いながら手元の猫動画に目を向ける。

 そうだ、ついでに噂好きの男子に話を流そう。「南西のバス停でぬいぐるみを落とすと恋が叶う」って。嶋狙いの男子はたくさんいるだろう。その中に一人くらいお眼鏡に叶う奴がいるだろうから。

「『次の出会い』って事は……どれくらい保つんだか」

 一人呟く。

 五分後、私は嶋の彼氏はスタバの新作くらいのスピードで変わると知った。

 嶋はいつか地球の男に飽きて宇宙人と恋愛する日が来るのかもしれない。


(「Day11 飴色」の人物は根岸です)

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