第234話 明太子おにぎり&褒めごろし 🌱



 向田邦子さんが週刊誌のコラムデビューを果たしたとき、名随筆家として知られた山口瞳さんは親切に助言した「読者を飽きさせないために一話に三つのエピソードを組みこむべし」。が、あとで思った「まだ若いから、ネタが尽きるのではないか」。さらに思った「テレビドラマの脚本で鍛えられているから大丈夫かも知れない」。


 メディアミックス騒動でこの有名な逸話を思い出した。その後の向田さんの目ざましい活躍でオジサン作家の懸念は杞憂に終わるのだが、それは飛行機事故で早逝したからであったか、天寿を全うしてもネタが尽きなかったかは、だれにも分からない。「自分も彼女の才に嫉妬していたかも」というオジサンの自虐めいた小話の真偽も。


 ひとつ言えるのは、そうして緻密な計算のもとに構成された文体が必ずしも現代の感覚にそぐわなくなって来ていること。と書いて熱狂的なファンの機嫌を損ねるようなら、少なくとも捩花読者の目には、と限定してもいいのだが、テクニックが目立つ分素朴さに欠けるというか、もっと荒削りを残してもよかったんじゃないかな~と。



      🛍️



 つらつら考えてみたのは例によって夜半に目ざめて眠れないベッドの上で、静かなモーター音にうっすら目を開けて確かめると、寒冷地用ヒーターの黄色いランプが点灯して深夜電力の蓄電作業中を表示している。このところ季節の進行が加速したが、今夜から真冬にもどるそうだから、寒がりオバサンには安定した運転音が頼もしい。


 かゆっ!! お腹や脚が痒い、それも猛烈に。昼間、急に背中が痒くなり、掻くまいと思ってもつい爪を立てて痒さを増幅させていたが、見えない敵は全身の皮膚に侵攻を進めたらしい。こんなに痒いのはむかし到来物のハムに当たってジンマシンが出て以来のこと。痛さとちがって我慢できないこともないが、地味に安眠の妨げになる。


 ふと気づいた、これって明太子のせいじゃない?! このところコンビニおにぎりがマイブーム、それも好物の明太子に偏っていたが、あの粒々はれっきとした魚卵ゆえ悪玉コレステロールの呼び水になる。それにひょっとして添加物かなにかが痒みを? ギョギョギョギョ!! 明日からやめようと決心したら、気のせいか痒みが薄らいだ。



      🧩



 ……と、一応、三つのネタを組んでみたけど、果たして整合性がとれたかどうか。いや、バラバラだっていいよね、プロじゃないんだから書きたいように書けばいい。そう考えたとき、ちらと脳裡を過ぎるものがあった。向田さんをべた褒めだった山本夏彦さんの名台詞「突然現れて殆ど名人」あれって、もしかして褒めごろしだった? 




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