第186話 わたしの一着 🧥



 一人前に正月は所用があり(笑)五日になってようやくいつものカフェでいつものモーニングをゆっくり楽しむことができたヨウコさん。年末に取り寄せておいた稀少な古書を謹んでひもとかせていただきました(かつて未知の方にこの表現にお叱りをいただいたことがありますが、わたしはわたしの意志を通したいと考えています)。


 高邁な生き方を貫かれた大先達ゆえ、襟を正しての拝読を心がけていたのですが、新聞連載をまとめたエッセイ集の第一話が「わたしの一着」というくだけたタイトルだったので思いっきりズッコケました。で、お硬いイメージに反して軽妙洒脱で得も言えぬ可笑しみがある文章は文句なしの大好物、これは春から縁起がよさそうです。



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 で、その一着というのがすごくて、なんと洋服歴六十年というからびっくりです。 敗戦直後の物のない時代にアメリカの知人が送ってくれた紳士もの背広をレディスのスーツに仕立て直したもので、柄と軽さが気に入り、どこへ行くにもそれを着通し、さすがに肘がすりきれて来たけれど、そこに当て布をしてさらに着つづけていると。


 うわ、ますま好みだな~。高名な方なので華やかな場面に身を置くことも多かったでしょうに、継ぎをしたスーツをわるびれず着て行く、なんて格好いいのでしょう。間接的に何度か袖を振り合ったことがある面影を偲びながら、およばずながら自分も真似をさせていただこう、家のクローゼットで待つ上着を愉しく思い浮かべました。



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 仕事時代、貧乏性の自分としては思いきったシルクの上着。黒&深紅の色ちがいが二着。ふんわりと軽くて暖かいので、数年前からすりきれて来た袖口を同色の絹糸で繕いながら愛用していますが、ざっと数えて上着歴二十数年。六十年の四分の一ですから、まだまだ労わりながら着つづけて、生涯の友として寄り添いつづけたいなと。



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※ 被災地を告げる報道に「なみだも涸れて」という見出しがありましたが、それはちがうと思います。本当に怖かったり徹底的に追い詰められたりすると泣けません。強震の恐怖&会社の再建のふたつを突きつけられたヨウコさんの場合、夏の暑い盛りにも関わらず水が喉を通らなくなり、一か月で十キロも瘦せました。((((oノ´3`)ノ




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