第86話 少なきがよし ⛹️‍♂️



 自然詠が本流の俳壇で、ヨウコさんが属する結社の主宰には人事詠が多いのです。いわば亜流の立場で、現代俳壇の最高峰とされる賞受賞の栄誉に至った道程の至難、さらには大勢におもねず忖度せず粛々と歩んで来た一本道の尊さが偲ばれるのです。


 その主宰に見ていただいても即却下だろうね(笑)こんな独りよがりの句は……。

 分かっていながらも、胸のなかにふつふつと湧いて来る思いはどうしようもなく。


「分かるひと少なきがよし水の秋」わが胸に仕舞っておくだけの句のひとつですが、知らず知らず大勢に迎合 or 機嫌伺いしがちな自分への戒めのつもりでもあります。



      🔦



 仕事時代、商業主義に巧みに仕組まれたベストセラーの虚無を知り尽くしました。

 ミリオンセラーを謳われた小説が数年後にどうなっていたか……見尽くしました。


 山積みの本のまわりに書店員の手書きのポップが舞う、そんな平台を素通りして、ひっそりと目立たない、照明まで倹約された、奥まった文芸書のコーナーへ直行。


 そこには華やかさとは無縁の作者が紡ぎ出す極上の芸術世界が待っていてくれて。

 僭越にも「楽な暮らしをさせてやれずにごめん」詫びつつ愛でる自分だけの一冊。



      📚



 まったく僭越すぎてここに記すのもはばかられるのですが、宮沢賢治さんの実弟が著作のなかで生前の兄について「残念ながら、どうやっても理解してくれない人たちもいた」と認められたことを知り、やっぱりそうだよね~、しみじみ首肯しました。


 どんな偉人でも、有徳の方であっても、万人に好かれることはまずあり得ません。むしろ、個性的であればあるほど好悪が分かれるのもまた人情の道理かと存じます。ですから、およばずながらヨウコさんも最初に井戸を掘ってくださった恩人を筆頭に拙い作品&作者を深くご理解くださる一部の方々をこそ永久に大切にしたいのです。



      🏹



 とここまで書いて来たとき、籠り虚院蝉さんの連載『書く読む以外つまらない』https://kakuyomu.jp/works/16816927861008581265 の最新版で「『同士少女よ敵を討て』を早期にカクヨム公式で発見していたにもかかわらず、結果的に取り逃すことになった」と紹介されていた逢坂冬馬さんの作家に立つプロセスを知りました。


 で、過去のカクヨムさんのインタビュー記事をたどって「PVが期待していたより伸び悩んだとしても、たった一人、作者よりも自作を理解してくれているのではないかという熱烈な読者がつくこととかって、ままあると思うんです」の一文を見つけたときの驚きといったら!! なんとなんと、まったく同じことを思っているプロ作家がいらしたのです。真夜中にガッツポーズをしそうになりました。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ




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