第45話 ラジオ体操 🚶‍♂️

 


 筋トレをしようとテレビをつけたら、横浜の空き地でのライブラジオ体操だった。

 都会の一画にこんなに?! 驚くほど広いスペースに大勢の市民が集まっている。


 伴奏のピアノと共に壇上に立つのは見るからにプロの男女インストラクターたち。

 きびきびとテンポよく、可動域目いっぱいに模範的なラジオ体操を披露している。


 いまどきは壇上下の区別のないオシャレなウェアなので、それも楽しい見もので。

 気づけば自分までリズムに合わせていて、ランジの四拍が一拍になっていた。💦




      🧱




 ラジオ体操には、走馬灯の絵のような思い出がある、それも、つい数年前までの。

 秋の日が近づくとYouTubeで所作(とくに第二)を確認するのが年中行事だった。


 当時、所属する業界の集まりで大きな湖を一周するマラソン大会が行われていた。

 地元はもちろん東京や大阪からも若手社員が派遣されて来る一大イベントだった。


 いつのころからかヨウコさんに壇上に立って模範演技(?)をする役目がまわって来たのは、伝統ある会の幹部連にジム歴の長さが伝わったからだったかも知れない。


「ええっ、ラジオ体操なんて小学校以来のご無沙汰ですよ~」スタッフを通して辞退したが「まあまあ間違えても愛嬌だから」と聞き入れられず、毎秋の恒例になった。




     🏃




 たかがラジオ体操ではあるが、手足の先まで意識して正しく動かすのはなかなかの難行で、しっかり二番まで行うとかなりの汗をかいて、心身に充足感がみなぎった。


 ウォーミングアップのあと百人あまりの参加者がいっせいにスタートする。高齢者は目標二百メートル(笑)からOKで、ゴール後は温泉と食事会のご褒美があった。


 はじめのうちは半周コースで様子を見ていたヨウコさんもしだいに距離を伸ばし、そのうちに当たり前に一周するようになっていたが、閉業でその機会もなくなった。




      🍂




 伝え聞くところによれば、業界全体がふるわなくなってあちこちの企業が閉業した今日もなお、古手役員連の意地と努力で湖周のマラソン大会は存続しているらしい。


 毎年、銀杏の大木が金色の葉を散らす時期になると、広大な青い湖面を見晴るかすあの壇上で、だれがラジオ体操の指揮を執っているのだろうと、ふと思ったりする。




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