第36話 盆の月 🌔
「ハナちゃん夫婦は共依存じゃない?」そう言った◇をヨウコは激しく憎んでいる。
一家そろっておしゃべりな質のかけらがうっかり転がり出たのだろう、とは思う。
思いはするが、その軽薄な言葉の刃がどれほど人を傷つけるかに思いが及ばない。
よく言えばポジティブシンキング、少し色をつけて野放図な無神経、たまらない。
🍏
しれっと◇が口にするということはすなわち☆夫婦、◇の夫、▽夫婦も同じことを思っていて、たぶんだが、日常的にそういう会話がなされているということだろう。
――許せない!! (/・ω・)/
その後の関係性を慮って肯定も否定もせずその場をやり過ごしたことへの自己嫌悪が時間の経過とともにふくれあがり、溶解しようのない憎悪と化して何年にもなる。
💧
「おかはそれでもお姉ちゃんやわたしがいるからいいけど、わたしたち夫婦はいざというときだれにも頼れないんだよ」小柄で瘦せぎすな娘の目は真っ赤に潤んでいた。
ごめんね、ごめんね、丈夫な身体に産んでやれなくて……何十度目かの詫びを心につぶやいたぐらいで許されるはずもない、至らない母としての罪障がちりちりする。
💚
そんな娘に神は最高の贈り物をくれた。ひとつは結婚十余年を経ても「ハナさん」と呼んで大切にしてくれる最愛の夫、もうひとつはわが子であり同志でもある愛犬。
市井の片隅にひっそり生きてなんの主張もしない小さな家族の睦まじさを、よりによって共依存と揶揄するとは……体格も態度も声もでかい一家のDNAが疎ましい。
⛈️
今夏の気象はなにもかも異常で、すでに聞き飽きた感のある「体温を越える危険な暑さ」に加えて矢継ぎ早な台風の発生で、極端な蒸し暑さの終わりが見えて来ない。
この分では十五日の盆の月も望み薄だが、それはそれでひとつの風情というもの。
なにも陽気でにぎやかな景色だけが人生の妙味ではないのだから、むしろそれで。
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