第3話 飛行機は空を飛ぶ 🎐
マットがわりの長座布団(笑)に仰向けになって、両膝を抱えて胸に引き寄せる。
年季の入った腰痛悪化の予防に欠かせないヨガのポーズ・パヴァナムクターサナ。
遠出や映画鑑賞のあとで腰の張りを感じたとき、テレビが退屈なとき、なにもすることがないとき、ごろんと転がりストレッチやヨガをするのが習慣になって久しい。
朝のルーティンの筋トレをふくめ、毎日かなりの時間からだを動かしているので、ジムに通っていたころよりむしろ快調なくらいで、いまのところ痛いパーツはない。
健康なひとり暮らしをつづけるために、栄養や睡眠と並んで運動は不可欠なので、四半世紀のジムレッスン(週一のパーソナルをふくめ)で身についたものが役立つ。
🏋️♂️
そういえば、あの方どうしていらっしゃるかな……ジム友の面影が脳裡をよぎる。
ニューヨーカー、元軍人、日本企業の法務部門担当で世界を歩き、老後は当地で。
同年の米国人と気が合い、マシン筋トレの合い間にちょっとした会話を交わした。
アジアの戦地でマラリアに罹患したからコロナはフリーパスだと笑っていたっけ。
子どもはなくて、同じくニューヨーカーの夫人と市街地の高級老人ホーム住まい。
入居金三千万円、月会費三十万円は、夫婦でなのか単独なのか訊きそびれたまま。
お金持ちはいいよね~、至れり尽くせりのホテル並みの余生を愉しめるんだから。
そこへいくと、わたしら貧乏高齢者は、生かさず殺さず策の格好の贄だからね~。
子どもがいない日本人の先輩は、介護保険を活用した自宅介護のままの最期を切望しているが、子どもがいるヨウコさんも同じで、できれば自宅で息を引き取りたい。
🛫
リビングの壁の上部を小さく切り取った窓の外を、飛行機が斜めによぎって行く。
今日も人類は東西南北へ民族移動しているんだね~、鳥でもないのに空を飛んで。
大切な子どもたちが次々に巣立ち、たったひとりの家族になった犬も天に召されてから、だだっ広く、あらゆるところに死角が潜む古い二階家に帰るのが怖くなった。
むすめたちの生家をこわすのは申し訳なかったが、だれもいない真っ暗な家の鍵を開けた瞬間に頭髪が逆立つ恐怖に堪えられず、おもちゃみたいな平屋に建て替えた。
まだ現役だったのですべて地元の工務店任せにしたが、お願いをふたつだけした。
だれかが潜んでいそうな死角がないこと、堅牢な耐震&遮熱構造であること……。
意を汲んだ工務店の配慮で、極端に窓の小さな、シェルターみたいな家になった。
もう少し窓が広くてもよかったなと思わないでもないけど、それはそれで。(^-^;
🏠
飛行機はとっくに視界から消えている、うかうかしていればそろそろ北国だろう。
こういうとき、ひとりだけ取り残されたような気がするのは身勝手な被害妄想癖。
高所&閉所恐怖症に加え乗り物酔いが激しい体質なので、飛行機は大の苦手だし、それに、仕事時代、いやというほど出張して来たので、もう遠くへは行きたくない。
狭いエリア内の地方紙を定年退職した友人が、しきりに旅に出たがるのとは真逆。
ひと口に人生といっても航跡は十人十色だよね、その延長に当たる後半生も当然。
現在の自分は、心に流れる音楽を文に置き換えるのが日課、それ以上は望まない。
飛行機は空を飛んで、フリーランスはパヴァナムクターサナのポーズをするの図。
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