第137話 プランBの真意
《カーラ・レクソン
「どうしましょう……絶対〝罠〟に決まっているわ」
「どうしましょう、どうしましょう……あの〝小賢しい〟レティシア・バロウのことだもの。これは私たちを誘き寄せる作戦よ」
「嫌だわ、怖いわ。私たちを誘き寄せて、一網打尽にするつもりだわ」
「そうだわ。きっとそうだわ」
アンヘラとディアベラは互いにそっくりな顔を見合わせたまま、まったく同じことを考えているかのように言葉を反復させ合う。
だが同時に二人共酷く困惑しているようで、
「でも……
「もしかしたら、これも〝罠〟……? 私たちが誘き寄せられていると自覚するように仕向けた、二重の〝罠〟なのかしら……?」
「どうしましょう、わからないわ」
「わからないわ、わからないわ」
オロオロ、と糸の切れた人形のようにフラつき、激しく狼狽するアンヘラとディアベラ。
――レティシアちゃんに、なにか
どうやら二人は、何者かからリアルタイムの情報を共有されたらしい。
ちなみにだが、試験中に遠方の相手と会話する
それ自体が会得の難しい高度な魔法であるのと、もしどちらかのクラス片方だけが扱えるとなると、扱える側があまりにも有利になりすぎるから。
だからこの時点でAクラスはルール違反を犯しているけれど、まあ今更だろう。
それ以上に気がかりなのは……レティシアちゃんに動きがあったということ。
間違いなく、プランAが失敗したと悟ってプランBに移行したのだ。
レティシアちゃんが考えたプランB――。
それは〝絶対にレティシア・
即ち――〝レティシア・
わかりやすく表現すれば、普段アルバンくんがやっているようなことをレティシアちゃんがやる……という感じ。
レティシアちゃん単独での力押しによる正面突破――。
レティシア・
そして今まさに、アンヘラとディアベラは彼女の術中に嵌った。
たぶん
当然、彼女の下へ向かえば
ここで私たちを見過ごすせば、せっかくレティシアちゃんを迎撃しても、結局はAクラス本陣への強襲を許すことになってしまう。
そもそもの話、レティシア・バロウの下へ向かうこと自体が〝罠〟かもしれない……と考えが堂々巡りしているのだろう。
大方、遠方からアンヘラとディアベラに命令を出した人物も困惑しているはず。
Fクラスの動きを把握できても、レティシアちゃんの頭の中までは把握できないのだから。
逆に
今、彼らの情報認識は相互確認が曖昧で、グチャグチャになっているに違いない。
本当に向かうべきか――?
持ち場を離れる方が、より危険なのではないか――?
もしかしたら、自分よりもっと傍にいる味方がレティシア・バロウの下へ駆けつけてくれるのではないか――?
そんな淡い期待が綯い交ぜになっているのだろう。
これもレティシアちゃんの狙いだとは知らずに。
ましてや、プランAでFクラスを三チームに分けたのだって、陽動・奇襲以外に〝プランBのためにAクラスの戦力を広域に分散させる〟という狙いもあった――なんて知る由もないだろう。
〝自軍の動きが読まれる前提での戦術〟――。
ある意味では軍師の基本だし、戦史でも度々登場する戦術だけど、嵌ればここまで恐ろしいとは……。
アンヘラとディアベラの頭では色々な考えが錯綜し、もう決断ができなくなっているのだろう。
これを狙ってやったのだから……他者の心理を操るレティシアちゃんの手腕は、本当に凄まじい……。
そして同時に、彼女たちがこの反応を見せたということは――。
「ねえ……アンヘラ、ディアベラ……。あなたたち死なないくせに、どうしてレティシアちゃんをそんなに
「「――!」」
「当ててあげましょうか……。あなたたち、魔法使いが苦手でしょう……?」
ウフフ……とマスクの下で笑って、私は看破する。
「……さっきから、ずっと不思議だったのよね……。不死・蘇生という規格外の魔法を扱えて、それを維持し続けられるほどの魔力も有しているのに……どうして
「「そ、それは……」」
「あなたたち……実は〝ネバー・ダイ〟の発動中は、それ以外のあらゆる魔法が使えないんじゃなぁい……? 同時に……あらゆる魔法に対して、完全に無防備になる……とか?」
「「――――ッ!!!」」
二人揃って、これ以上ないほど驚愕の顔をして見せるアンヘラとディアベラ。
ああ、やっぱり……。
もしかしたらと思っていたけど、どうやら図星のようだ。
「あらゆる魔法がそのまま通るなら……足止めをする方法は幾らでもあるよね……。例えばこんな方法も……」
「カァー!」
バサバサッと羽根を舞い散らせながら、ダークネスアサシン丸が上方へと飛び立つ。
同時に私は魔力を練り、
「――〔影縫い・
魔法を発動。
すると、アンヘラとディアベラの身体がビタッと動かなくなる。
彼女たちの
「「! 身体が……!」」
「……こういう動きを阻害する魔法は、かなり有効でしょう……?」
〔影縫い・
便利な反面、影の動きが止まってくれないと狙いが定められないから、中々使わせてもらえなかったんだよね……。
これで大人しくなってくれれば、それが一番なんだけど――。
「ウフ……ウフフフフ!」
「無駄よ、無駄無駄! こんなのじゃ、私たちを止められないわ!」
力づくで拘束から逃れようとするアンヘラとディアベラ。
それに合わせ、羽根を突き立てられた影と同じ箇所の肉体が、ブチブチと音を立てて裂けていく。
……やっぱり、か。
〔影縫い・
羽根を刺された箇所を始め、全身を
もっとも、普通の人間であれば普通に死ぬだろうから、実質的に不可能とも言えるが。
それでもやってしまう――できてしまうのがアンヘラとディアベラという双子。
まさに怪物だ。
「アハハハ! 考えるのはもういいわ! あなたたちを殺して、レティシア・バロウの下へ向かえばいい!」
「そうだわ! それで全て解決! 最後にレティシア・バロウの首を落っことして――私たちの勝ちよ!」
「……いいえ、残念だけど……あなたたち
「「え……?」」
「
――――――――――
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