第135話 その先入観、利用させてもらいましょう
《レティシア・
「フゥ……これでヨシ、っと♦」
降伏したガスコーニュをギュッとロープで縛り上げたラキは、なんとも満足気に笑って額を拭う。
ガチガチに縛られたガスコーニュは、身動き一つ取れないようだけれど――。
『……おい、なんだこの縛り方は』
「なにって、亀甲縛り♥ ウチのオリジナルで逆海老縛りも混ぜてるから、手足も全然動かせないでしょ♪」
……ガスコーニュは、こう、とても不思議な縛られ方をしていた。
なんと説明すればいいのかわからないのだけど、まるで亀の甲羅に見えるような結び方でガスコーニュの身体を拘束し、さらに手首と足首を拘束したロープを背中側で連結。
お陰で彼は海老反りのようにピーンとお腹を張るような感じとなって、ゴロンと地面に横たわっている。
まるでタコ糸で縛られたローストビーフのブロックが、まな板の上でキュッと背筋を逸らして包丁から逃げているみたい……と思ってしまうのは、あまりにガスコーニュに対して失礼かしら……。
「ラキ……もうちょっと普通に縛ってあげてもよかったんじゃないかしら……?」
「フフーンだ、ウチに一発入れてくれたお返しだよ♠ それにウチ、こっちの縛り方の方が慣れてるし♣」
ラキはクスッと笑って微妙に卑しい目線をこちらへ向け、
「殿方ってさぁ、この縛り方大好きなんだよねぇ♥ なんなら、レティシアちゃんも覚えてみる? アルくんとの営みも盛り上がるかもよ?♦」
「結構です。こういうのは、
彼女のちょっとだけ下品な冗談を、普段のように軽く受け流す私。
――ガスコーニュとの戦いを制し、彼を降伏させた私とラキ。
弓矢を受けて負傷したラキだったけれど、どうにか傷口から矢じりを抜き取ることに成功。
ガスコーニュがあくまで
今は私の回復魔法で傷口も塞ぎ、応急処置は一通り済ませてある。
もう大事に至ることはないでしょう。
私は「さて……」と切り出し、
「ここはもう大丈夫そうね。ラキ、あなたはローエンを探して頂戴。私はプランBの予定通り動くわ」
「……ん、りょーかい♦ でもさぁ、ホントにやるの?♣
ラキは些か不安そうに言う。
まあ……彼女が不安に思うのも、無理からぬことでしょう。
ラキは言葉を続け、
「だってさぁ、プランBって実質――」
「……ねぇラキ、例えばだけど――もしあなたがAクラスを率いて私と敵対するなら、まずなにを警戒するかしら?」
「え? なにって……そりゃ奇襲とか陽動とか挟撃とか、そういう搦め手の戦術?♦」
「そうよね。けど搦め手を警戒するのは、私を〝賢しい人間〟と認識しているという前提があることを意味するのよ」
私はそう返すと、チラリとガスコーニュの方を見る。
「Aクラスの生徒たちが私を強く警戒し、〝レティシア・バロウの行動には必ずなにか裏がある〟と勘ぐってしまうことは、彼の戦い方を見て確認が取れたわ。良くも悪くも、Aクラスは私に先入観を持っている」
「だったら逆に――その先入観を利用させてもらおう、って?♠」
「ウフフ……どれだけ〝賢しい人間〟でも、賢しい行動ばかりするとは限らない――と思い知ってもらいましょう」
――――――――――
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