第110話 王家特別親衛隊


 王家を守る者の証である金鷲勲章を胸元に備えた、〝王家特別親衛隊〟――。


 騎士階級の者たちで構成されながら、王国騎士団には属さず独立した組織体系を持つ精鋭部隊。


 彼らはあくまでヴァルランド王家直轄の部隊であり、王家の完全なる独断で動かせる唯一の部隊とも言われる。


 その名が示す通り、国王や王家の人間を護衛するのが主任務。

 だが王家に仇成す反乱分子を積極的に監視・鎮圧したり、場合によっては民衆への弾圧行為も辞さないなど、その実態は国家公安組織に近い。


 騎士の中でも秀でた強さを持ち、尚且つ王家への高い忠誠心を持つ者だけがなれるエリート。

 それが〝王家特別親衛隊〟――なんだとか。


 ……で、そんな〝王家特別親衛隊〟が剣と軽装甲冑で武装して、五人編成でクラスの中に押し入ってくる。


 少なくとも授業風景の見学に来たって感じではないな。


「……」


 五人組の先頭に立つ、目元に傷痕を持った隊長らしき男。

 年齢は比較的若そうだが精悍な顔つきで、如何にも武人って風貌だ。


 彼はチラッとパウラ先生・・・・・の方を見た後、キョロキョロと教室の中を見回す。

 そして俺に視線を合わせると、


「貴殿がアルバン・オードラン男爵だな?」


「ああ、そうだけど」




「――貴殿に〝王家への叛逆〟の疑いありという報せを受けた。只今を以て、貴殿の身柄を拘束させて頂く」




「「「――ッ!?!?」」」


 隊長が放った言葉に、Fクラスの全員が騒然とする。


 中でも血相を変えたのはレティシアだ。


「ま、待って頂戴! アルバンは――私の夫は、王家への叛逆など企んでいないわ!」


「その真偽を決めるのは、我々ではなく裁判官の仕事だ」


「は~い! ちょっとストップ~!」


 パウラ先生が教壇から降り、二人の会話に割って入ってくる。

 いつものニコニコ笑顔を崩さずに。


「久しぶりだね~ホラントくん! 元気そうでなにより!」


「……お久しぶりです、先輩・・


「少し逞しくなったかな? それと、だいぶ強くなった・・・・・みたいだね!」


「ええ……先輩にご指導頂いていた頃から、もう何年も経ちましたから」


「うんうん、しっかりお役目を果たしているようで大変よろしい! ところで、アルバンくんの拘束令状は?」


「こちらに」


 ホラントという隊長は部下が持っていたケースから一枚の用紙を取り出すと、パウラ先生に手渡す。


 パウラ先生はその用紙を「ふんふん」と眺めて、


「ファウスト学園長への連絡は?」


「既に通達済みです。ウィレーム・バロウ公爵やユーグ・ド・クラオン閣下へも、あと一時間程度で連絡が行くでしょう。一足先に踏み込ませて頂きました」


「うんうん、教えた通りにできてるね! なら仕方ない!」


 パウラ先生は俺の方へと振り向いて、


「ごめんねアルバンくん! 先生、今はキミのことを助けられそうにありません!」


 ニコニコ笑顔で言った。


 いや、助けろよ。

 あっさり見捨てないでくれよ。

 アンタ腐っても担任の先生だろうが。


 あまり悪びれる様子のないパウラ先生に、思わず内心で悪態が漏れてしまう俺。


 っていうか、パウラ先生って〝王家特別親衛隊〟の騎士と知り合いなのか?

 今の会話を聞くと、まるで――。


 などと思っている内に、ホラントという隊長は俺のすぐ傍までやって来る。


「では、アルバン・オードラン男爵。大人しく付いて来てもらおう」


 籠手ガントレットに守られた腕が、俺の肩を掴む。

 刹那――。


「俺に、触るな」


 俺はホラントを、殺意に満ちた目で睨み付ける。


 この腕、今すぐ斬り落としてくれようか――そう視線で伝えるように。


「……ッ!」


 ホラントは思わず手を放し、後ずさりする。

 同時に、その背後で固まる〝王家特別親衛隊〟の連中。


「俺とレティシアを引き離そうとするとは、いい度胸だな」


 〝王家への叛逆〟、ね……。

 言っとくが、俺はまだそこまで過激なことは考えていない。


 だって面倒だし、なによりレティシアが嫌がるから。

 だから少なくとも、今はまだ冤罪だ。


 そう――今は、まだ。


 だが……俺とレティシアを引き離そうとするってんなら、それも真実となる。


 王家?

 〝王家特別親衛隊〟?

 そんな肩書き、俺にはなんの意味もない。


 俺とレティシアの幸せを邪魔するなら、全て敵だ。


 だから全て滅ぼす。

 なにもかも滅ぼす。

 なにもかも、だ。


 それに、これ・・を手引きした奴の正体も大方察しがつく。


 いつも、いつもいつもいつもいつもいつもレティシアを付け狙ってくる、例の王女――。

 本当にウザったくて堪らなかったが……いよいよ権力を笠に着て、本腰入れて俺たちを潰しに来たってか。


 ……上等だよ。

 そっちがその気なら、お遊びは終わりだ。


「殺す」


 剣を手に、椅子から立ち上がる。

 まずは目の前から始めてやろう、と。


 コイツら〝王家特別親衛隊〟を名乗るだけあって、ただの雑魚じゃなさそうだ。


 特にホラントって奴はまあまあ強い。

 パウラ先生も見抜いてたが、気配が強者のそれだ。


 でも――やっぱりレオニールほどじゃない。

 アイツの方がずっと強い。

 

 とはいえ五対一。

 油断すれば片腕一本くらいは危ういかもな――なんて思っていると、


「……オードラン男爵、さっさと逃げな」


 マティアスが立ち上がる。

 自身の得物である槍を手に。


「ヘヘ、どうやら借りを返すタイミングがやって来たってワケだ」


「そうだな。僕たちで時間を稼ごう」


 続いてイヴァンが立ち上がる。

 剣を片手に持って。


「王家に逆らうなど全く不本意だが、今の僕にとっての〝キング〟はオードラン男爵だ。僕には〝キング〟を守る義務がある」


 さらに続くようにエステルが立ち上がり、


「あらあら、仕方のねー殿方たちですこと。 まあ? 私も? 丁度ド派手なお喧嘩がしたかったとこでして、オーッホッホッホ!」


「じゃあウチも加勢しようっかな☆」


「わ、私も……! オードラン男爵を見捨てるなんてできません!」


「俺もだ」


「……私も」


「カァー!」


 最終的に――Fクラスの全員が、立ち上がった。

 明確な敵意を〝王家特別親衛隊〟へ向けて。


 ……なんだよお前ら。

 揃いも揃って、王家よりも俺を選ぶってのか?

 その意味がわかって――ないワケないわな。


 やれやれ……面倒くさい奴らめ。

 だが――思っていたよりもずっと、俺はいいクラスメイトに恵まれたのかもしれないね。


 Fクラスメンバーが一丸となって放たれる覇気。

 それは凄まじく、皆の気迫に当てられたホラントたちは額に冷や汗を滲ませる。


「き、貴様ら……! 総員、迎撃用――!」




「――――待って!!!」




 あわや一触即発――その空気を、レティシアの大声が破った。



――――――――――

☆3/08時点 サポーターギフトのお礼

@WELHAN様

いつもギフトありがとうございます!

もう半年以上連載して100話とか超えてるのに、まだ読み続けてもらえてる上にギフトまで頂けるのホントに嬉しい……!涙


初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)


☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。

何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m

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