第6章 因縁に終止符を

第104話 期末試験


「――アルバン・オードラン男爵は、ここで終わりだ」


 一人の紅髪の男が、洞窟ダンジョンの中でポツリと呟く。


 柄の両端に刃が付いた両刃剣。

 扱いが難しいと称される特殊な武器を携えたその男は、不敵な笑みを口元に浮かべる。


「これまで彼が率いるFクラスは快進撃を続けてきたが、それも今日まで……。この〝期末試験〟で、奴は無様な敗北を喫することになる」


 やや長く伸びた前髪をサラッと指先で流す紅髪の男。


 整った身なりと顔立ち、如何にもプライドの高い話し方、そして珍しい得物――。


 それだけでも、この男が貴族出身であるというのは明白であった。


「この僕、ヘカート・ヘカーティア率いるBクラスが引導を渡してやろう。ククク……あの〝最低最悪の男爵〟が頭を垂れる姿を見るのが、実に楽しみだ」


 ヘカートは、既に勝利を確信していた。

 自らが率いるBクラスの面々こそが最強である――そんな強い自負があったから。


 だが、彼には一点だけ懸念があった。


「しかし……レティシア・バロウ、彼女だけは注意せねばなるまいよ」


 ヘカートの口元から、笑みが消える。


「あの女は賢く、勘が鋭い。Cクラスも彼女の策略に嵌ったと聞く。となれば――真っ先に潰しておくべきだろう」


 中間試験のFクラスとCクラスの戦いの顛末を聞いていたヘカートは、レティシアがFクラスの頭脳であり司令塔であると知っていた。


 だからこそ、最も注意を払うべき危険な相手であると認識していたのだ。


我が家臣たちBクラスメンバーには、レティシア・バロウの首を〝最優先で刈り取れと〟命じてある。いくらオードラン男爵が強かろうと、あの女さえ消えれば猪騎士も同然……」


 ヘカートは自身の得物である両刃剣の刃を指先で撫で、


「ククク……今頃、家臣の誰かがレティシア・バロウを斬り捨てていることだろう。そろそろ死亡報告が――」


『――えー、えー、報告します!』


 洞窟ダンジョンの中に大音量の声が響き渡る。

 Fクラス担任である、パウラ・ベルベットの声が。



『うーんと……面倒くさいのでまとめてお伝えしますが、ヘカート・ヘカーティアくんを除きBクラス全員死亡!!! Bクラス、残り一名です!!!』



「……………………………………………………………………………………………………………………は?」


 ポカーン――と、ヘカートの口が半開きとなる。


 彼の脳は、耳から入って来た情報を全くと言っていいレベルで処理できなかった。


 というより、脳が情報を理解すること自体を拒んだ。


 一瞬「聞き間違いかな?」と真剣に思ったほどに。


「全……員……死亡……? それ……どういう……?」


 現実を現実として受け止められず、意識が明後日の方向へと飛ぶ。


 しかし――。




「……よくも、レティシアを狙ったな」




 そんな一声で、ヘカートの意識は無理矢理に現実へと引き戻された。


「――はっ!?」


「お前……レティシアを真っ先に仕留めようとしただろ」


 カチャリ、と剣の鍔が金属音を鳴らす。


「レティシアを狙う奴は……誰だろうと許さん」


 ザッ、と足が力強く地面を踏み締める。


「レティシアを狙う奴は……殺す」


 アルバン・オードラン男爵――。

 Fクラスの〝キング〟が目の前に現れたのだと判断できた瞬間、ヘカートは臨戦態勢を取った。


「きっ、貴様……! 何故!? どうやって家臣たちを……!?」


「Bクラスの奴らなら瞬殺だったぞ。お前がレティシアを狙わせたお陰で、彼女目掛けて一斉に集まってきたから……Fクラス全員でまとめて叩き潰した。それだけだ」


「ん……なっ……!?」


 ヘカートは開いた口が塞がらなかった。

 彼にとって、アルバンの言っていることは〝あり得ない〟の一言に尽きるからだ。

 

 我が家臣たちBクラスメンバーが瞬殺?

 まとめて叩き潰した?


 あり得ない――彼らがそんなに弱いはずがない――。


 もし事実だとしたら――Fクラスは一体どれだけ――。


 ヘカートは愕然とするが、


「……ク……ククク……!」


 すぐに不敵な笑みを浮かべ、両刃剣を構え直した。


「なるほどな……既に勝ちが決まったと思い込んで、〝キング〟が一人で堂々と会いに来てくれたというワケか!」


「ああ。わざわざ大人数で動くのなんて面倒だし」


「ククク、その油断が命取りよ! このヘカート・ヘカーティアがいる限り、真の敗北などあり得ん! 我が烈火の如き両刃剣、とくと味わうがいい!」


 ヘカートはアルバンに対し、勢いよく斬りかかる。


 ――両刃剣という武器の強みは、なんと言ってもその連撃速度。


 柄の上下に刃が付いているため、一度上部の斬撃をいなそうとも、次の瞬間には下部の刃が飛んで来る。


 故に、通常の剣と比べて非常に隙が少ない。


 手数の多さで圧倒することが可能となっているが、反面使いこなすには熟練を要する。


 そんな扱いの難しい特殊な得物を扱うからこそ、ヘカートは自分の腕前に自信を持っていた。


「デヤアアアアアァァァッ!!!」


 止めどない激しい連撃を繰り出していくヘカートの両刃剣。

 アルバンはそれを剣でいなしていく。


 まさに烈火の如き猛攻で、当初こそ自らの圧倒的優位性を感じていたヘカートであったが――徐々に気付き始める。


 ……あれ?

 こっちは両刃剣を使って、相手は普通の剣を使っているんだよな?


 なのに何故……こっちの連撃はいなされ続けているんだ?


 一度も、刃の切っ先すら胴体にかすりもしない。

 たった一本の剣で両刃剣の連撃を防ぐのは、至難の業のはずなのに――。


「このっ……!」


 徐々に徐々に焦りを感じ始めたヘカートは、連撃の速度を速める。


 しかしそれでも、アルバンの胴体には全く届かない。


 それどころか――アルバンは、汗の一滴すら流していなかった。


「ああ、こんなもん・・・・・か」


 実に面倒くさそうに呟き、


「じゃ、死ね」


 瞬きするよりも速いほどの一瞬。

 その一瞬で――両刃剣の上下の刃を、両断して破壊した。


「は……?」


 得物を壊された――とヘカートの脳が判断するのとほぼ同時に、アルバンの剣が流れるようにヘカートの首へ。


 スゥッと滑るように刃が首を断ち切り――ヘカートの身体は、一ミリも動かせなくなった。


 直後、


『Fクラス対Bクラスの期末試験、終~~了~~で~~すッ!!! 試験結果は、Fクラスの完全勝利ッ!!!』


 パウラ教員の声が、洞窟ダンジョンの中に木霊した。


――――――――――

第6章開始!


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