第101話 「ごめんなさい」は?


「くふ……くふふふふ……!」


 城下町の一角にある、薄暗い倉庫の中。


 カビの臭いが漂う空間の中で、ラファエロが引き攣ったような笑みを浮かべる。


 そんな彼の目の前には、気を失って地面に横たわる〝花嫁エイプリル〟の姿が。


「こんな……僕の暗殺者アサシンデビューがこんなに惨めだなんて……絶対に許せない……!」


 ラファエロはエイプリルの身体に跨り、両手で彼女の首を締め上げる。


 細い指が首筋に食い込み、暗がりの中に響くミシッという音。


 ラファエロが幾らまだ子供とはいえ、その腕力は分厚い刀身のマチェットを振り回せるほど。


 エイプリルのか細い首を締め上げて窒息させたり、なんならへし折ったりすることすら造作もない。


 実際、ラファエロはそうやってエイプリルを殺してやろうと思ったが――。


「あ……ああ……ダメだ、こんな殺し方じゃ全然満足できそうにないよ……!」


 怒りと興奮がまるで収まらないラファエロはハァハァと呼吸を荒くし、首から手を放すと――エイプリルの顔を両手で掴む。


「どうすれば、どうすれば僕は満足できるかな……? ああそうだ、コイツやあの花婿にとってなにが一番屈辱かを考えよう……!」


 瞳孔が開き、唇の両端が吊り上がり、指先を震わせるラファエロ。


 今の彼は、もはや完全に正気を失っていた。


「この綺麗な顔の皮を剥ぎ取るなんてどうかなぁ……!? それとも両手の指を全部落とすとかさ……! ああ違う違う、それじゃこの〝花嫁〟の心まで穢せないよね……!」


 自問自答を繰り返すラファエロは、ふとアイディアを思いつき――片手でエイプリルの乳房・・を鷲掴みにした。


「辱めてやる……! あの男マティアスよりも先に〝花嫁〟の純潔を奪って、身体に消せない痕を残してやる……! その上で死体を丸裸にして、街灯から吊り下げてあげるんだ! そうだよ、それがいい! アハハハ!」


 マチェットを手に取り、エイプリルのドレスを引き裂こうとするラファエロ。


 ――しかし、


「――いいワケあるかっつの」


 倉庫の入り口から声が響いた。

 

 そして一人の〝悪役〟が、月光を背に剣を携える。


「そんなだから、お前は姉ちゃんにも認めてもらえないんだろーが――この悪趣味なクソガキめ」




 ▲ ▲ ▲




 ――俺は剣をユラリと揺らす。

 月の光が反射し、銀の鋼が怪しく煌く。


 ……最悪だ。

 まったく最低の夜だ。


 こんなに月が綺麗な夜なのに、愛する妻レティシアの手を取ってダンスすらできないなんて。


 挙句の果てにクソガキの――クラスメイトの弟を教育しなきゃならんとは。


「ア……アルバン・オードラン男爵……!」


 俺の顔を見たラファエロは、まるで凶悪なドラゴンでも見たかのような顔をする。


 いや、ドラゴンを見たというより――〝死神〟を見たようなって感じの顔か。


「ハァ……最悪だよ、面倒くせぇよ、ふざけんなよ。お前とあのバカナルシスが来なけりゃ、俺は今頃レティシアとイチャイチャできてたはずなのに……」


 コツ、コツ、と一歩一歩足音を奏で、俺はラファエロへと歩み寄っていく。


「それがどうして、お前みたいな生意気なガキと一緒にいなきゃいけないんだ? ああ面倒くさい」


 ハァ~、と深く長いため息を漏らす俺。


 ラファエロは周囲をチラッと確認すると、


「……カーラお姉ちゃんは? 一緒じゃないんだ?」


「レティシアが〝弟と戦わせるのは忍びない〟だとよ。居場所の予想だけ俺に伝えて、今頃は貴族たちの介抱をしてるだろうさ」


「ふーん……」


 カーラがいない――とわかったラファエロは、先程までとは打って変わってニヤリと笑みを見せる。


「それじゃあお兄さん一人だけなんだ。随分と余裕じゃない?」


「余裕もクソもあるか。俺以外に連れてきたら、教育どころかイジメになっちまうわ」


「くふふ……随分バカにしてくれるねぇ」


 ラファエロはマチェットを構え直し、


「お兄さん一人だけなら、僕でもなんとかなるかもね? カーラお姉ちゃんさえいないなら――」


「おいクソガキ、先に言っておくぞ」


 俺はラファエロの言葉を遮り、喋り始める。

 これ以上コイツの話を聞くのなんざ、時間の無駄だと思って。


「……お前はエイプリルのみならず、レティシアまでも傷付けようとしやがった。だから俺は絶対に許さない。絶対に、だ」


 さらに一歩、俺は右足を前へ出す。


「だが、俺はお前と違って悪趣味じゃない。ガキをいたぶっても少しも面白くないし、弱い者イジメにも興味ない」


 続けて左足を一歩、前へと出す。


「でもカーラに〝世の中の怖さを教えてあげてほしい〟ってお願いされてもいるから――こう・・することにする」


 そして、剣の切っ先をラファエロへと向けた。


「俺はお前を傷付ける度に、お前の怪我を魔法で治す。致命傷を与えても、傷跡一つ残さず綺麗に完治させる。それを何度も何度も何度も何度も何度も繰り返して、お前が心から〝ごめんなさい〟できるようになったら……勘弁してやる」


「…………ハ……アハハ……」


 乾いた笑いが、ラファエロの喉から絞り出される。


 次の瞬間、


「な……舐めるなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


 憤怒で目を血走らせ、ラファエロが吶喊してくる。




 この後、時間にしておよそ小一時間。

 その間に――ラファエロは、世の中の怖さを十二分に味わうことになった。



――――――――――

生意気なショタめ、躾けてやる(ꐦ ´͈ ᗨ `͈ )


☆2/20時点 サポーターギフトのお礼

@WELHAN様

ギフトありがとうございます!

いつも本当に感謝しております……!!!


※お報せ

 これまで基本的に8:45(三日ごと)に投稿をしてきましたが、現在リアルの方が超超超忙しくなってきたため、投稿時間に関しては今後ランダムにさせて頂きます。

 できるだけ三日に一話更新は続けたいと思っておりますので、何卒ご理解のほどをよろしくお願い致します……。

 誠に申し訳ありません……!(吐血)


初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)


☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。

何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m

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