第91話 Fクラスは一心同体


 やっぱりレティシアは最高だ。

 流石は俺の妻。


 いやー、〝出来る女〟すぎるよなぁマジで。

 彼女を嫁に貰えた俺は幸せ者だよ。


 俺は腕組みし、一人で「うんうん」と頷く。


 ――レティシアの行った報復は効果てきめんだった。


 ナルシス派に付いていた貴族たち、その中でも影響力のある者数名の領地へ経済的なダメージを与える。


 それも〝権威〟を後ろ盾にした形で。


 結果、有力な貴族たちはこぞってマティアス派に鞍替え。

 それを見た他の貴族たちも「ヤバい」と実感し、つられるようにマティアス派へと寝返っていった。


 そうして僅か一週間も経たぬ内に、両派閥の勢力図は逆転。


 レティシア曰く、マティアス派:ナルシス派の比率は〝7:3〟まで傾いたそうな。


 これならマティアスがウルフ侯爵家の家督を相続するって流れで間違いないだろう。


 勝敗は決したと言っていい。


 にしても、後でウィレーム公爵とオリヴィアさん――ああいや、義父さん・・・・義姉さん・・・・にはちゃんとお礼をしなきゃな。


 ……彼らの協力がなければ、こうも簡単に事態を動かすことはできなかったはずだ。


 特にウィレーム公爵。

 レティシアと俺が助力を願い出たら、二つ返事でOKしてくれた。

「バロウ公爵家は娘と婿殿のために全面的に協力する」と。

 いいお義父さんだ、本当に。


 ちなみに、俺たちが暗殺されかけたことに関しては話がややこしくなるので言わなかったのだが、ウィレーム公爵もオリヴィアさんも既に知っていたっぽい。


 にっこりとした笑顔の裏で、明らかにブチギレてた雰囲気だったもんな……。


 笑顔で口裏を合わせてきっちりと報復する辺りが、なんともバロウ公爵家らしい。


 レティシアにしても、〝権威も権力も使える時は使う〟というスタンスなのが彼女らしいよな。

 まさに悪役令嬢。

 そういうところも本当に好きだ……。


 やっぱりレティシア最高。

 最高に綺麗だし、最高に可愛いし、最高に賢いし。


 もう最高すぎて最高以外の語彙が消失しそうだが、心から〝俺の妻最高〟と思うんだから仕方ない。


 どんだけ溺愛しても、全然し足りないくらいだよ。


 そんなこんなで、レティシアやバロウ公爵家のお陰でマティアスは事なきを得たワケだが――




「しばらくぶりだな、マティアス」


「……イヴァン」


「フン、聞いたぞ? 貴様らしくもなく、ずっと部屋に引き籠っていたそうじゃないか。さぞ腕も鈍ったことだろうに」


 クイッと眼鏡を動かし、いつものように憎まれ口を叩くイヴァン。


 そんなイヴァンに対し、


「んも~、イヴァンってば素直じゃないにぇ♣ マっちんがいなくなった後、いの一番にアルくんたちに助けを求めたくせにぃ♠」


「うんうん……男性同士の熱い愛情……小説のネタに最適……」


「んなっ……! ラキ貴様っ、言わなくていいことを言うんじゃない! カーラはいい加減、クラスメイトを小説のネタにするのをやめたまえ!」


 クスクスと笑ってからかうラキと、黙々とノートに文字を書いていくカーラ。


 ――今現在、ウルフ侯爵家の屋敷にはFクラスのメンバーが集っている。


 全員が全員、どうしてもマティアスの顔を拝まなきゃ気が済まないと言い出したためだ。


 もっとも、マティアスの奴はまだ王立学園に復学したワケじゃない。


 ウルフ侯爵家の相続が決まるまでは学園に戻らず、家督争いに集中した方がいいというレティシアの判断があったからである。


 まあ実際、一度爆殺されかけてるしなぁ俺たち。


 それを学園内でやられたら堪らんし、シャノアの喫茶店がまた標的にでもされたらもっと堪らん。

 打倒な判断だと思うよ、うん。


 ローエンやエステルは不服そうに、


「やれやれ……まったく水臭い奴だ。せめて相談くらい俺たちにすればいいものを」


「本当ですわ! 今やFクラスは一心同体、一蓮托生! お力添えならぬおパワー添えくらい、いっっっくらでもしましたのに!」


 などと言い――勝手にいなくなったマティアスに対し、意外にも冷たい言葉を浴びせない。


 しかしホント……Fクラスはいつからこんなに仲良くなったんだろうな。

 俺が〝キング〟になる前の時からは想像もできんわ。


 マティアスにとっちゃ、Fクラスの一員になれたことがなによりの僥倖だったのかもしれないな。


 イヴァンは「オホン!」と咳き込み、


「ともかくだ! ウルフ侯爵家の家督がマティアスに決まるまで、僕たちはキミとエイプリルを支援する。いいな!」


「ああ……助かるよ。本当にすまねぇ」


「礼など不要だ。僕たちはオードラン男爵に忠誠を誓った者同士なのだからな」


 小さく頭を下げるマティアスと、相変わらず素っ気なく返すイヴァン。


 ま、なにはともあれ――


「――なにはともあれ、後は〝月狼の戴日〟という日まで二人を守り切ればいいだけ……かな? オードラン男爵」


 ――俺の思考を読んでいるかのように、ニコリと笑いながらレオの奴が言う。


 ……コイツ、本当に時々怖いんだよなぁ。

 段々と俺の思考を読み取れるようになってきてる気がするというか、頭ん中を覗かれてる気がするというか……。


 それに心なしか、最近レオの主人公らしさが鳴りを潜めているような気もするし?


 はぁ……俺の考えがわかるのはレティシアだけでいいんだっつーの。

 いやまあ、俺が考えてることがわかりやすい顔してだけなのかもしれんけども。


「……まあそうなんだが、そう簡単にはいかないと思うぞ」


「え?」


「――このまま引き下がるとは思えないからよ。ナルシス・ウルフという男が」


 俺の言葉に、レティシアがさらに言葉を付け足す。


 そう……レティシアも俺も、その点に関しては全く同意見なのだ。


 レティシアは静かに腕組みし、


「マティアスから聞いた限り、かなり執念深い性格をしているようだから。……必ず、どこかで仕掛けてくると思うの」


「だな。やっぱり俺がナルシスのとこへ行って、先に首を刎ねてこようか?」


「ダメよ。政治の問題は政治で解決しなくちゃ、後々禍根になるわ」


「ごめん、冗談だ。ま、どんな手を打ってこようが叩き潰すまでだな」


 政治の問題は政治で解決、か。

 その言葉、俺たちを爆殺しようとしたナルシスの阿呆に聞かせてやりたいね。


 でも……ぶっちゃけ俺は、彼女が言うところの政治になんて興味ない。

 興味があるとすれば、オードラン領の執政に関わるモノくらいか。


 ――レティシアは、マティアスとエイプリルの味方だ。

 裏を返せば、マティアスとエイプリルの敵はレティシアの敵。


 彼女に仇成す者は、誰だろうと潰す。

 政治も権力も俺には関係ない。


 妻の敵は俺の敵だ。

 そして妻が守ろうとする物なら、俺も全力で守る。

 それだけなんだ。


 ナルシスがどんな手を使ってくるのかなんざ知ったこっちゃないが――やれるもんならやってみろってな。


 レティシアは「ふぅ」と小さく息を吐き、


「ナルシス・ウルフの動向には一応監視の目を付けてあるから、後手に回ることはないと思うけれど……。今は考えても仕方ないし、他のことに気を回しましょうか」


「? 他のことって?」


「それはね――エイプリルを〝ウルフ侯爵家に相応しい淑女〟にすることよ」



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