第61話 中間試験、開始


《ウィレーム・バロウ視点Side


「意外ですわね。いつもお忙しいはずのお父様が、学園の視察を申し出るなんて」


 となりの椅子に座る我が娘オリヴィアが、皮肉交じりに言ってくる。


 ――ここは王立学園が準備した、貴族たちのための視察会場。


 正面には大きな魔法映写装置スクリーンが設置され、集まった貴族が試験の経過を眺められるようになっている。

 当然、周囲には私たち以外の貴族の姿も。


「私は王立学園への出資者だからな。視察する権利くらいあろう。それを言うなら、お前も魔法省の仕事はどうした?」


「あら、将来有望な者を早期に見出しておくのも魔法省の立派な業務ですわ。たまたま・・・・、その役目が私に回ってきただけで」


 フン、よく言う。

 どうせ適当な理由で上司を説得し、半ば無理矢理に参加したのだろう?


 やれやれ……呼んでも誘ってもいないというのに、魔法省の伝手を使ってまで視察会に参加するとはな。

 我が娘ながら抜け目ない。


「それで? 最初の質問にお答え頂けますかしら?」


「どうして私が中間試験の視察に来たのか、かね? ……ヨシュアだよ」


「え?」


「彼に誘われたのだよ。〝ぜひ自分たちの戦いを見てほしい〟とな」


 ……あれは突然のことだった。

 ヨシュアが私を訪ねて来て言ったのだ。


『アルバン・オードラン男爵は〝最低最悪の男爵〟などではありません』


『私はリュドアン家の――騎士の血を引く者として正々堂々彼と戦い、そして勝利した上でレティシア嬢を貰い受けます』


『ウィレーム・バロウ公爵……あなたにはどうかご自身の目で、僕とオードラン男爵双方を見定めて頂きたい』


 あまりにも――あまりにも意外な申し出であった。

 ヨシュアの口からそれを聞いた時、頭痛で頭を抱えそうになったほどだ。


 しかし……彼の目は真剣だった。


 それにレティシアとの婚約を取り決めた時よりも、幾分か男らしい顔つきにもなっていたと思う。


 ヨシュア・リュドアンよ……貴殿に一体なにがあった?

 貴殿はなにを見たというのだ?


 あの〝最低最悪の男爵〟に――。


「えー、それでは皆様、大変お待たせ致しました! これより『マグダラ・ファミリア王立学園』Cクラス対Fクラスの中間試験を行います!」


 魔法映写装置スクリーンの前に一人の女教師が立ち、中間試験の開始を宣言する。


 彼女は確かパウラ・ベルベットという名だったか。

 Fクラスの担任をしていると。

 

「試験の内容は〝防衛ゲームフラッグ・ディフェンス〟、つまり時間内に旗を奪取するか防衛するかで勝敗が決します! ちなみに攻撃側オフェンスはCクラス、防衛側ディフェンスはFクラスとなりますね!」


 彼女が説明すると、次に魔法映写装置スクリーンにパッと地図の映像が映り込む。


 どうやらダンジョンの全体図を記した地図のようだが、広大で道が入り組んでいるのが見て取れる。


「試験は学園が準備したダンジョンの中で行われ、旗はダンジョン中央の古代集落跡エリアに設置されます! ここは広い上に侵入経路が複数あるので、攻撃側オフェンス防衛側ディフェンスも戦術と連携が求められます! 二つのクラスがどのように戦うか、期待してご覧ください!」


 なんともハキハキとした様子で楽し気に話すパウラ教員。


 それを聞いたオリヴィアは「ふぅん」と小さく唸り、


「面白い催しね。結果がわかりきっている、という点だけはつまらないけれど」


「ほう、お前はどちらが勝つというのだ?」


「決まっていますわ。我が妹レティシアと、その夫アルバン・オードラン男爵が属するFクラスです」


 ……我が妹と、その夫――か。


 ワザと言っているのであろうな。

 もはやあの二人は別れる運命だというのに。


「……ありえんな。Cクラスにはヨシュアがいるのだ。文武共に優れ、統率力も秀でる彼が負けるとは思えん」


「そうですわね、もしもFクラスにいるのがレティシアかオードラン男爵のどちらかだけだったなら、必ずヨシュアが勝つでしょう」


 僅かに賛同するオリヴィアだが、次の瞬間には余裕のある笑みを見せ、


「ですが……あの二人が揃っているならば、絶対に負けません。この試験、100%Fクラスが勝ちますわ」


「……そういうのは、演劇の悪役が使う台詞だぞ」


「フフ、なら尚更今のあの子たちにピッタリではなくて?」


 小賢しい言い回しを……。

 

 まあいい。

 結果など、魔法映写装置スクリーンを眺めていればわかるのだ。


 ヨシュアとオリヴィアが何故〝最低最悪の男爵〟の肩を持つのか――しかと見定めさせてもらおう。


「それでは試験開始前に両クラスをご覧頂きましょう! まずはCクラスから!」


 魔法映写装置スクリーンの映像が切り替わり、Cクラスの生徒たちが映り込む。


 誰も彼もがやる気十分といった様子。

 統率もしっかりと取られているらしい。


 特に腕を組んで両目を瞑るヨシュアからは、画面越しにも凄まじい集中力を感じ取れる。


 本気で勝ちにいく――。

 その気概と覇気が伝わってくるかのようだ。


「続きまして――こちらがFクラス!」


 続け様に映像が切り替わる。

 そして、魔法映写装置スクリーンに映った光景を見て――


「――――なん……だ……!?」


 私は言葉を失った。

 いや、私だけではない。

 隣に座るオリヴィアも周囲の貴族たちも、一様にあんぐりと口を開けている。


 魔法映写装置スクリーンに映ったモノ、それは――



 〝アルバン×レティシア夫妻最高!〟



 とデカデカと書かれた横断幕をなびかせる生徒の姿。


 さらには、

 〝アル×レティを応援し隊〟

 〝理想の夫婦ここにあり〟

 〝離縁反対!二人を認めよ!〟

 〝身勝手な政略婚を許すな!〟

 と書かれた看板を掲げ、ハチマキを巻いてオードラン男爵とレティシアを囲む生徒たち。


『見ていやがりますかウィレーム・バロウ公爵! 私たちFクラスは、オードラン男爵とレティシア夫人の離縁に断固として反対しますわ!』


『アル×レティを認めよ……! 抗議……抗議……!』


『お、お二人は、素敵なご夫婦です……! どうか、み、認めてくださぁーい!』


『〝キング〟最高! アルバン・オードラン男爵最高! オレはオードラン男爵のためならなんでもするよ!』


『アハハ、いい感じじゃんレオっち☆ ホラホラ、もっと横断幕を振って振って♪』


 ――魔法映写装置スクリーンの向こうで繰り広げられる抗議運動。


 もの凄い勢いの猛抗議だ。

 さながら過激な平民たちが起こすデモやストライキのようである。


 生徒全員、特に女性陣が鬼気迫る表情でこちらに訴えてきている。

 これは明らかに私へ向けてのメッセージだろう。


 しかし当のレティシアは両手で顔を覆い、どうにもこちらを見れない様子。

 きっと、というか間違いなく恥ずかしいのだろうな。

 逆にオードラン男爵は堂々としているが。


「……なに……してるの……? あの子たち……?」


 オリヴィアは愕然として開いた口が塞がらず、周囲の貴族たちからはどよめきが上がり始める。


 ……やはり、視察など来るべきではなかっただろうか?


「いやー、両クラスともやる気は十分ですね! それでは只今を以て――中間試験を開始致します!」


 しかし私の胸中など知ったことかと言わんばかりに、パウラ教員は試験の開始を宣言。


 直後、魔法映写装置スクリーンの向こうでCクラスの生徒たちが走り出した。




 ▲ ▲ ▲




 中間試験の開始が宣言されると同時に、旗が設置される古代集落エリアに一直線に向かう人影。


 Cクラスの中でも好戦的な性格の持ち主、アンソニー・ジェロマンだ。


「ヒャハハ! どうせFクラスなんて雑魚の集まりだろうが! 俺がとっとと終わらせてやるよ!」


 剣を肩に担いで単身突撃するアンソニー。

 彼は小馬鹿にするように「フン!」と鼻を鳴らし、


「しっかし、ウチの〝キング〟もどうしてFクラスなんて相手を選ぶかねぇ? 〝最低最悪の男爵〟と落ちぶれ令嬢が率いるクラスなんざ、構うだけでもゴミクズの匂いが移っちまいそう……おっと、レティシア・バロウはもう悪く言っちゃ不味いんだっけ」


 貴族出身のアンソニーは、内心ではアルバンとレティシアのことを酷く馬鹿にしていた。


 もっとも、それを自らの〝キング〟であるヨシュアの前で口に出すことは当然ない。

 一応、彼もレティシアがヨシュアの下に嫁ぐことは聞かされているからだ。

 なによりヨシュアの強さを知っているからこそ、下手なことを言わない。


 それでもアルバンたちの噂や悪評を真に受けていたアンソニーは内心で見下し、あまつさえレティシアと婚約したヨシュアのことも馬鹿にし始めていた。


「ヨシュアも物好きだよなぁ。ま、レティシア・バロウって顔はいいし、情婦として侍らせておくつもりなのかも――おっと」


 ――全速力で移動していたアンソニーの前方に、人影が見える。

 それがFクラスの何者かだと瞬時に理解したアンソニーは剣を構え、


「ヘヘ、最初の得物はどいつだ!? ローエンって奴か、それともレオニールって奴か!? まあ誰でもいい! 俺様の剣の錆びになりやが――!」


 ザシュッ


「――れ?」


 ほんの、一瞬の出来事だった。


 アンソニーの身体は一刀両断され、ダンジョンに張られた魔法陣の効果により瞬時に身動きが取れなくなる。


 つまり〝死亡〟扱いとなったのだ。


「やっぱり、レティシアの言った通りだな。正面から捨て駒・・・が突っ込んできた」


 そう言って剣をヒュンッと振り払う、アンソニーを斬り捨てた人物。

 そう――Fクラスの〝キング〟、アルバン・オードランである。


「な、なんで……どうして〝キング〟のお前が、こんなところにぃ……!?」


雑魚・・に説明してもしょうがないだろ。そこで固まりながら考えとくんだな」


 アルバンはそう言ってニヤリと笑うと、


「さーて……それじゃレティシアの作戦通り、遊撃手・・・として暴れてやりますか」



――――――――――

我々は抗議する(ノꐦ ๑´Д`๑)ノ


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