第57話 恋敵①
「「……」」
――俺は今、憎き恋敵と面と向かって立ち会っている。
場所は王国騎士団の室内訓練場。
そこには俺以外に、ヨシュア、クラオン閣下、そしてレティシアの姿が。
ここはいつもなら騎士たちが鍛錬で汗を流しているはずだが、今回に限りクラオン閣下の好意で貸切させてもらえることになった。
要するに、俺とヨシュアが殺し合いを始めても問題ない場所を選んでくれたってこと。
とはいえ流石に両者とも剣は持ってきておらず、丸腰ではあるが。
でも……正直に言ってありがたい。
今こうしていても、手を出さないよう自分を押さえるのに必死だからさ。
「アルバン、わかっていると思うけど――」
「暴力はなし、だろ。レティシアと約束したからな。大丈夫、ちゃんとわかってるよ」
不安そうなレティシアに対し、俺は念を押すように答える。
今回の会談に際し、彼女と約束した。
〝ヨシュアと喧嘩しないこと〟と。
とにかく今回に限り暴力はなし。
ヨシュアの方もクラオン閣下から厳しく言われてるみたいだし。
あくまで〝話をする〟ってのがこの会談の主旨だ。
……ま、そもそも話し合ってなにが解決するのかはわからんけど。
クラオン閣下は俺たち二人を交互に見やると、
「今日は二人ともよく集まってくれたな。まずは感謝申し上げよう」
「いえ、そんな……このヨシュア・リュドアン、クラオン閣下が及びとあればどこへでも駆け付ける所存です」
「へえ、よく言う。てっきり話し合いなんて応じる気はないと思ってたよ」
俺が言うと、ヨシュアは鋭い目つきで一瞬こちらを睨む。
だがすぐにフッと瞼を閉じ、
「……キミのクラスの、確かラキという名前だったか。彼女に言われてしまってね、〝一度オードラン男爵とちゃんと話してみろ〟と」
「ラキに?」
おっと、なんか意外な名前が出たぞ?
アイツめ、またなんか悪だくみを考えてたな……?
思えば俺とレティシアの夫婦の危機なんて、アイツにとっちゃ渡りに船だもんな。
そりゃ俺たちを裏切ってヨシュアに組してもおかしくはない。
しかし、そのラキに〝ちゃんと話してみろ〟と言われたって……?
なんか随分アイツらしくないというか……。
それじゃまるでヨシュアに協力するどころか、俺たちを応援してるみたいなんだが。
どうしちまったんだ、ラキの奴……?
――まあいいか。
真意は後で本人に聞くとしよう。
ともかく今は、ヨシュアをここに連れてくるきっかけを作ってくれたことに感謝しとこう。
「彼女は言っていたよ。キミがレティシア嬢をどれだけ大事にしているか、話せばわかると……。だから一応、話くらいは聞いておこうと思ってね」
「ああ、俺は彼女を――妻を本気で大事にしてるし、愛してる。俺にとっては世界で一番大事な人だ」
「……」
未だ疑わしい、といった目で見つめてくるヨシュア。
そうかそうか、まだ俺の愛を疑うか。
面白い。
「信じられないなら、証拠を見せてやろうか?」
「ほう、証拠だと?」
「そうさ、俺がレティシアを本気で好きだっていう証拠だ」
俺はそう言うと、親指でビシッと自分を指差す。
「いいかよく聞け、俺はな――〝レティシアの可愛いところ〟を千個は言えるッ!」
「――!?」
「ア、アルバン……!?」
驚いた顔をするヨシュアとレティシア。
だが俺は止まらない。
「まずレティシアは一見冷たい性格に見えて凄く優しくて周りを見てるし気配りができて褒めたり励ましたりするのも上手いし芯が強いんだけどちょっと寂しがり屋で二人きりだと甘えてくれるしそれなのにここ一番って時には本当に頼りになって尊敬できるし実は紅茶と甘い物が大好ってギャップが最高に可愛くて他にも他にも――」
「ま、待ってアルバン! それ以上はやめて……恥ずかしくて顔から火が出そう……!」
顔を真っ赤にして止めに入って来るレティシア。
なんだよ~、ここからがいいところなのに。
でもレティシアストップが出ちゃったなら仕方ない。
この辺にしておこう。
「それじゃあ、次は俺がどれだけレティシアを知ってて理解してるかって話をするか。彼女は紅茶が大好きなんだけど茶葉はどちらかというと安価な物の方が好みなんだけど淹れる時のお湯の温度にはうるさくてあと絶対に軟水じゃないと――」
「わ、わかった。もういい。キミが彼女のことを深く理解しているのは、よくわかった……」
ヨシュアは微妙に頭を抱えながら言うが、すぐに仕切り直すようにキッと目つきを元に戻す。
「……キミの噂は以前から聞いている。傲慢で不遜で怠惰で、身勝手極まりない〝最低最悪の男爵〟だと」
「別に間違ってはないな」
「ならば、そんな男がどうして一人の女性をそこまで愛する? いやそもそも、聞いていた噂と違い過ぎる気がする。キミは本当にアルバン・オードラン男爵なのか?」
「俺は俺だ。他の誰でもない」
そうとも、俺は紛れもなく〝最低最悪の男爵〟さ。
――ただ破滅しないために努力をして、レティシアを愛すると決めただけの、傲慢で不遜で怠惰な貴族だよ。
「改めて言っとくぞヨシュア。俺は世間からどう思われようが、例えバロウ家との関係を切られようが、レティシアと離れるつもりはない。彼女は俺の全てだからな」
ハッキリと言い切る。
事実、俺はレティシアのいない人生なんてもう考えられない。
彼女の隣にいることこそが、俺にとって最大の幸せなのだ。
レティシアと共に生き、共に死ぬ。
俺はそう決めたし、それ以外なにもいらない。
ヨシュアはそんな俺の言葉を受け、
「ならば聞くが、キミは彼女のために爵位も財産も全て捨てられる覚悟はあるか?」
「ある」
「……命さえも?」
「当然――と言いたいが、俺が死んだらレティシアが不幸になるからな。死ぬ気はない」
そう答えてやると、ヨシュアはしばらく考えるような様子を見せる。
そして数秒後に再び口を開き、
「……一点だけ謝罪しておこう。キミを〝最低最悪の男爵〟だと罵ったことについては、噂を真に受けた僕の落ち度だったかもしれない。すまなかった」
「え? そ、そうか………」
「どうやらアルバン・オードラン男爵は、僕が想像していたよりも遥かに高潔で愛情深い人物だったらしい。認識を改めさせてもらう」
なんか、えらい潔く手の平を返してきたな……?
コイツも頑固なだけの阿呆貴族ってワケじゃなかったってことか。
ま、もっともこの様子じゃ――
「だが僕と彼女の婚約は、両家で既に決められたことだ。今更なかったことにする気はない」
「だろうな。それじゃどうする? やっぱりレティシアを巡って決闘でもするか?」
「それも悪くはないな。だがその前に、やはり聞いておかねばなるまい」
ヨシュアはそう言うと、スゥッと小さく息を吸い――
「オードラン男爵、キミは妻を愛してやまないのだろうが――キミが愛すれば愛するほど〝レティシア嬢を不幸にしている〟と……そう自覚したことはあるか?」
――――――――――
最近「アルバンはヤンデレかもしれない」と思い始めました(*・ω・)
初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)
☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。
何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m
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