第45話 狩りの時間だ


「――それは本当なのか、レオ」


「ああ……すまない、オレが油断したばっかりに……」


 俺たちFクラスのメンバーは、コテージの中でレオニールから話を聞いていた。


 曰く――二人がミケラルドから襲撃を受けた、と。


 レオニールの方は無傷で済んだようだが、ローエンが負傷。


 現在パウラ先生とオリヴィアが魔法による治療を行ってくれている。


 ……やれやれ。

 昼間の授業で姿が見えないと思えば、こんなセコイやり方で襲ってくるとは。


 どうせ俺に叩きのめされた報復のつもりなんだろう。

 狙うなら大人しく俺だけ狙ってくればいいものを。


 レオニールの話を聞いていたレティシアは腕を組みつつ、


「でも……ミケラルドが”混合魔法”を使ったなんて信じ難いわね」


「レオ、念のために聞くが見間違いじゃないよな?」


「間違いない。以前より明らかに強くて禍々しい魔力を感じたし……まるで別人のようだったよ」


「……」


 レオニールの口調に嘘偽りは感じられない。


 まあ、そもそも嘘を吐く理由もないか。

 それにレオはバカ正直なくらい素直な性格だし。

 疑ってかかる必要はないだろう。


 いずれにしても面倒くせぇなぁ、と思いながら俺は後頭部で手を組む。


「にしても、魔法はともかくあの雑魚ミケラルドがレオニールの剣から逃げおおせるとはな。そっちの方が信じられんわ」


「……それは、オレのせいだ」


「え?」


「迷いが生じてしまった。斬る直前に。こんなんじゃ……オレはあなたの”騎士ナイト”失格だ」


 彼は悔しそうにギュッと拳を握り、


「次はもう迷わない。絶対に。約束するよ」


 決意したかのような、力強い口調でそう言った。


「あ、ああ……まあ、ほどほどにな……?」


 ――怖い。

 怖いわぁ。


 ぶっちゃけミケラルドより、お前の方がよっぽど怖い。


 やめて?

 その「主人公が決意を固めるイベントを消化した後」みたいな反応を見せるの。


 俺にとっちゃ、お前は大人しくしててくれるのが一番安心できるんだから。


 人を斬るのに迷っててくれるくらいが一番丁度いいんだって。


 現状は俺に懐いてくれてるみたいだけど、いつ主人公としての自覚を取り戻して剣を向けてくるかわからんからさ……。


 ほんっとに、あのミケなんとかクソ野郎……余計な真似してくれやがってからに……。


「――お待たせ、皆」


 そうこう話していると、コテージの中にオリヴィアとパウラ先生が入ってくる。


「施術は無事終わったわ。回復魔法で十分に治せる怪我だったから、明日には動けるようになっていると思う」


 落ち着いた口調で言うオリヴィア。

 それを聞いたレオニールもほっと胸を撫で下ろし、


「! そ、そうですか……よかった……!」


「ええ……だけど逆を言えば、決して浅い傷ではなかったとも言えるの。レオニールくんとローエンくんを襲った生徒には、明確な殺意があったと見るべきね」


 だろうな。

 レオニールの様子から、そんな気はしていた。


「パウラ先生、殺人って御法度じゃなかったっけ? これって規則違反じゃねーの?」


「そうですね! 彼の独断犯行だとしても厳罰が下されますし、Eクラスも大幅な減点は免れません! 学園からも、遅からずミケラルドくんの捜索隊が送られてくるでしょう!」


 相変わらずのニコニコ笑顔で語るパウラ先生。

 でも心なしか嬉しそうというか楽しそうに見えるのは……きっと気のせいだと思いたい。


 そんな彼女の発言にレティシアは引っ掛かりを覚えたようで、


「捜索――ということは、彼は姿を晦ましているのね」


「はい! この合宿が始まる直前から行方不明となっています! 王都や学園内では既に捜索が始まっていましたが、どうやら私たちに付いて来ていたようですね!」


「どうせ俺を逆恨みして、復讐のチャンスを伺ってたんだろ。あーあ、面倒くさ――」


「許せませんわッ!!!」


 バキャアッ!

 ――という、なにかがへし折れる音。


 うおっ、なんだ!? と驚いて振り向くと、エステルが目の前のテーブルを叩き割っていた。


 たぶん台パンするだけのつもりが、勢い余ってぶち壊したっぽい。


「闇夜に紛れて命を狙うなんて、お下品でしてよ! こんなの、私にとっちゃブチギレ案件ですわ!」


「エ、エステルさん、落ち着いて……!」


 激しく憤るエステルを、シャノアがどうにか宥めようとする。

 が、収まる気配はない。


「これが落ち着いていられますかってぇの! 大事なクラスメイトが殺されかけたんですのよ!? そんなにお喧嘩を売りてぇなら、買ってやろうじゃありませんの!」


 いつになく激怒し、金髪の縦ロールが激しく逆立つエステル。

 まさに怒髪冠を衝くとはこのことだろう。


 そんな彼女を見たマティアスは皮肉っぽく笑い、


「へぇ、なんだよエステル。お前いつからローエンに仲間意識なんて持ってたんだ?」


「べっ、別にいつからでもいいじゃありませんか! 仲間は仲間! それだけですわ!」


「へいへい、そういうことにしといてやる。ま、クラスメイトやられて黙ったままじゃ、余所に舐められちまうわな」


「ウチ、舐められるの嫌~い★」


「同感だ」


 マティアスに賛同するラキとイヴァン。

 イヴァンは続けてレオニール、シャノア、カーラを流し見て、


「キミたちはどうだ?」


「聞かれるまでもない。同じ想いさ」


「わ、私も……ローエンくんが可哀想、だとは思います……」


「……右に同じ」


「――と、皆の意見は一致しているようだが……どうする、”キング”よ?」


「んえ?」


 ――全員の視線が、一斉に俺へと注がれる。


「……つまり、なんだ? Fクラスでミケラルドを狩り出そうってのか?」


「そういうことだ。どうせ彼は罰せられる運命にある。ならその裁きを僕たちが下しても、問題はあるまい」


「そりゃあ、そうかもしれんが……」


「だが決めるのはキミだ、オードラン男爵。キミの一声に、僕たちは従おう」


 えぇ……俺が決めるの……?


 いや、まあ、俺か。

 そうだわな。

 一応Fクラスの”キング”だもんな、俺って。


 つっても――やらない理由もない、か。


 放っておいたら他のメンバーも狙われかねない。

 なにより、レティシアが狙われる可能性だってあるんだ。


 ……いや、むしろ積極的に狙ってくるかもな。

 それだけは許せん。


 やるならやるで構わんが……念のため彼女だけは安全地帯にいてもらうか。


「はぁ、わかったよ。だがレティシアだけは――」


「当然、私も狩りに参加するわよ?」


「え」


「クラスメイトが大怪我をさせられて、怒っているのは私も同じだもの。ミケラルドに目にものを見せてあげましょう」


 そう言って不敵な笑みを浮かべるレティシア。


 それを聞いて、エステルが拳を突き上げる。


「ぃよっしゃあ! それではFクラス総出の”ミケラルド狩り”、おっぱじめますわよ! 今晩中にカタを付けてやりますわッ!」


――――――――――  

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