第41話 かつての同僚
こうして始まったオリヴィアの魔法指導。
魔法省の役人を務められるほどなのだから、その手腕に疑念はなかったが――実際は想像以上だった。
「そう、自分が魔法を使う様子をイメージするの」
「おへその奥から魔力を湧き上げて、それを放つ感覚で」
「魔法とは、確かに個々の持つ才能に左右されるものではあります。でもそれが全てではありません。あくまで大事なのは、反復練習と想像力、そしてちょっとの工夫なのです」
――オリヴィアの指導はわかりやすく、尚且つ的確だった。
小難しい用語を使ったりだの、自分の実力を見せつけるだのといったことを一切せず、完全な魔法初心者でも理解できるように基礎を教えていく。
お陰でたった一日で、D~Fクラス全員の魔法レベルが上達。
Fクラスの中で言えばローエンやエステルなんかはやや魔法を苦手としていたのだが、その二人も魔法の出力を上げることに成功。
これは地味に驚異的なことだと思う。
それと――
「いい感じねシャノアちゃん。とっても飲み込みが早いわ」
「そ、そうでしょうか……?」
「ええ、あなたは魔力量も多いし
「え、えへへ……」
中でもシャノアは素質があるらしく、飛躍的な成長を見せていた。
勉強でも武術でも”良い教師と出会うとたった一日で人は化ける”などと言われることがある。
これから彼女がどういう魔法使いになっていくのか、楽しみだな。
▲ ▲ ▲
《オリヴィア・バロウ
「――流石、
背後から話しかけられる。
ライモンドの声だ。
「……言っておくけれど、お世辞を言ってもなにも出ないわよ」
「そんなつもりで言ったワケじゃありません。事実を事実として述べただけです」
相変わらずの微笑を浮かべ、ライモンドは私の隣にやって来る。
――私とライモンドは、一応顔見知りだ。
元々、彼は私と同格の役職に就いていたのだから。
まさかこんな形で再会するとは……。
私個人としては、できれば会いたくもなかったのだが。
「しかし驚きましたよ。Fクラスが魔法省から特別講師を招待したいなどと言い出したかと思えば、まさかあなたが派遣されてくるなんて」
「あら、未来ある学生に魔法を教え伝えるのも立派な業務ですもの。頼まれれば喜んでやらせて頂きますわ」
「フフ、実際は妹君に会いに来ただけではありませんか?」
――相変わらずデリカシーのない。
私は昔から、相手に対してあまりに配慮が欠けるライモンドが好きではなかった。
「お好きなように解釈してくださって結構よ。ただ、無責任な真似はしないとだけ言っておきましょうか」
「それは重畳」
「それより……あなた王立学園の教師なんてやってたのね。魔法省を追われてから、一体なにをしているのかと思っていたけど」
「私、天才魔法使いですから。居場所など幾らでもあるのですよ」
あけすけに言ってのけるライモンド。
やっぱり、こういう自信家な部分も相変わらずね。
「その言い草だと、あまり反省していないようね。――魔法省が”禁忌”とした魔法に手を出したことを」
「ああ……あれは惜しかった。あともう少しで、歴史を覆す大魔法が生まれていたというのに」
――その言葉を聞いた瞬間、私はいつでも攻撃魔法を放てる心の準備をした。
場合によっては、今この場で彼を罰しなければならない――そう思って。
「とはいえ、流石に反省していますよ。ですから研究からも手を引いて、こうして粛々と教務に就いているワケですし」
「……」
「そんなことより……あなたの妹君夫妻、レティシア・バロウとアルバン・オードランですが――あれは素晴らしい」
突然話題を変えたかと思うと、彼は感嘆とした様子で言う。
唸るように、恍惚とするように。
「あの二人は可能性の塊だ。オードラン男爵の魔力は言わずもがな、レティシア嬢からもあなたに負けず劣らずの才を感じる……。我がクラスに編入されなかったのが、残念で仕方ありません」
そう話すライモンドの瞳には、好奇心が宿っていた。
魔法を研究する者ならば誰しもが持ち得る、しかし明らかに異常な好奇心。
私はその眼から、以前と変わらぬ危うさを感じ取った。
「……そうならなくて幸運よ。人を
「おっと、失言でしたか? これは失礼、ですがこちらに悪意はありませんよ」
ハッハッハと笑って、彼は一歩前へ出る。
「それにほら……あの二人は婚約して間もないでしょう? その幸せを、教師の私が壊すはずないじゃないですか」
微笑でそう言って、「さあ、次の授業項目へ移りましょう」と生徒たちの下へ歩いていった。
――――――――――
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