第28話 舐めないで
《レティシア・
「さて……どうしたものかしらね」
檻の中で腕を組み、考える。
どうすればここから脱出できるか?
――倉庫の中はほとんど密室。
光が差し込まないため、どこに出入り口があるのかもわからない。
幸いにもゴロツキ集団のほとんどは外の見張りに就いているらしく、私たちの監視は僅か二名と手薄。
檻の扉には如何にも頑丈そうな南京錠が付けられており、さらに鎖まで巻かれている。
ちょっとやそっとでは壊せそうにない。
そして監視の片方が腰から鍵を下げており、おそらくはアレが檻の鍵だろう。
……明らかに、監視の目を内ではなく外に向けてる。
私たちのことはもうあまり警戒していないのかしらね。
これは不幸中の幸いかも。
うん……そうね……。
どうにか、あの二人を誘導できれば――
「レ、レティシア様……私たち、どうなっちゃうんでしょうか……」
不安そうな顔でシャノアが聞いてくる。
すっかり怯え切っており、その肩は小刻みに震えている。
「も、もうやだぁ……! どうして私がこんな目に合わなきゃいけないのぉ……!? わ、私はただ、頑張ってるだけなのにぃ……!」
グスっグスっと泣き出すシャノア。
……可哀想に。
きっと彼女は、母親と喫茶店のことを一番に考えてずっと努力を続けてきたのだろう。
王立学園に入ったのだって、母の期待に応えようとしたからに決まっている。
本当は、喫茶店を継げればそれでいいはずなのに。
それなのに、その努力の果てが
あまりにも不条理だ。
……その気持ち、私にはよくわかるわ。
私も一度、不条理に挫けた人間だからね。
私は彼女に肩に優しく手を置き、監視に聞こえないよう小声で話す。
「安心して、必ず私がここから出してあげる。だから泣くのはお止めなさい。あなたは誇り高い王立学園の生徒でしょう?」
「で、でもぉ……」
「私に考えがあるの。とにかく、今はチャンスを待ちましょう。決して絶望しては駄目」
……本当は、私だって不安で泣きたいくらいだ。
アルバンに助けてほしい。
アルバンなら来てくれる。
そう信じて、助けを待つ無力なお姫様を演じたくなる自分が、心の中にいる。
でも、彼に私たちの居場所がわかるはずもない。
ゴロツキたちだって、私とアルバンが別れるタイミングを狙っていたに違いないのだ。
このまま待っているだけじゃ、それこそ敵の思う壺。
行動しなくては。
それに、もし本当にアルバンが来てしまったら――血の雨が降ってしまう。
……絶対
アルバンにとって、町のゴロツキ百人なんて”虫けら以下”のはずだもの。
絶対に容赦なんてしない。
夫を殺戮者にしないためにも、先んじて脱出しないと。
…………そうよ。
必ず、あの人の下へ帰ってみせる。
「おい、なにをコソコソ話してやがる」
私たちが話していると、監視の二人組が様子を見にやって来る。
ちなみに、監視役をやっているのは最初に喫茶店で遭遇したあのゴロツキ二人だ。
「クソガキ同士が惨めに慰め合いか? 泣けるねぇ」
「……こんな状況じゃ、話でもしてないと気を紛らわせられないでしょう」
「耳障りなんだよ! ったく、こっちは腕をやられて、ただでさえイライラしてるってのに……!」
ゴロツキの片方は、アルバンに腕を握り潰されそうになったのを相当根に持っているらしい。
……。
…………。
辺りに他の人影はない。
大きな物音を立てなければ、外の者たちを呼び寄せることもないかしら。
――試してみてもよさそうね。
「ふぅん……ちょっと痛い思いをしたくらいでそんなにグチグチ言うなんて、随分と狭量なのね」
「な、なんだと!?」
「そこまで悔しいなら、もっと私たちに暴力を振るってみればいいのに。それができないのは、いずれ私たちを他国の娼館にでも売り飛ばす気だからでしょう? だから必要以上に傷物にできない」
できるだけ口の端を吊り上げ、煽るように言う。
シャノアが「レティシア様……!?」と驚いた顔をするが、敢えて気にしない。
さあさあ、乗って来て頂戴な――。
「檻の中の女子供に意趣返しもできなくて、どんな気持ちかしら? 本当、
――ブチッ
ゴロツキの男から、そんな音がした。
案の定、頭に血が上りやすい性格だったようだ。
「……じょ、上等じゃねぇか……ッ! そ、そ、そんなにいたぶってほしいなら、望み通りにしてやるよッ!」
彼は腰から下げた鍵を掴み、乱暴に南京錠を開ける。
そして鎖を解くと、檻の扉を開いた。
「おい、馬鹿! なにやって……!」
「うるせぇ! このクソガキ、大人を舐めたらどうなるか思い知らせて――ッ!」
ズカズカと檻の中に入って来るゴロツキの片割れ。
大きく腕を振り被り、私を殴り付けようとしてくる。
「――ッ」
しかし――私はその腕を回避すると同時に掴み、足を払って彼の重心を崩す。
「――――あれ?」
そのまま片手で顎を押してあげると、私より大きな身体はクルリと宙で回転し――頭から地面に落下した。
「ぼげぇッ!」
頭部から首にかけて激しく強打し、あっさりと気絶するゴロツキの片割れ。
ふぅ、上手くいってよかった。
セーバスにこっそり学んだ”護身術”が、まさかこんな形で役に立つなんてね。
「あら、痛かったかしら。ごめんあそばせ」
「なっ……!? ク、クソ――!」
もう一人のゴロツキは、仲間を呼ぶため走って逃げようとする。
ふん、そうはさせるものですか。
「――〔ウインド・インパクト〕」
私は風属性の魔法を発動。
すると目に見えない風の衝撃波が、ゴロツキの背中に直撃した。
「ぐへぇッ!」
初歩的な魔法だから檻を破壊できるほどの威力はないけれど、人を失神させるには必要十分。
ほとんど音を発することもなく、ゴロツキは二人共気絶。
ま、ざっとこんなものね。
「檻が空いたわ。早く次の行動に移りましょうか、シャノア」
「…………」
茫然とし、あんぐりと口を開けたまま動かないシャノア。
どうしたのだろうか?
「シャノア?」
「あっ、す、すみません! 凄く驚いたというか……まさかレティシア様がこんなにお強いなんて思わなくて……!」
「強くなんてないわよ。アルバンに比べたら、私は無力も同然だもの」
「そ、そんなことありません! レティシア様も、十分にお強くて素敵です……!」
「あ、ありがとう……?」
目一杯褒めてくれるシャノア。
な、なんだか少し照れるわね……?
――って、駄目駄目。
気を引き締めるのよ、レティシア・オードラン。
正念場はここからなんだから。
「それじゃあシャノア、なんでもいいから燃やせる物を集めましょうか」
「え? す、すぐに逃げないんですか?」
「ええ、どうせ外は見張りで一杯だもの。簡単には逃げられない。だから――”人寄せ”をしなくちゃね」
▲ ▲ ▲
「カァー!」
「……あそこに、レティシアさんたちが、いるって」
――俺はカーラの案内の下、レティシアが捉えられているらしい倉庫の近くまでやって来る。
正直ここに来るまで半信半疑であったが、倉庫の様子を見て確信した。
あそこに彼女はいる、と。
これ見よがしに武装した”
明らかになにかを守っている様子だ。
数はざっと百前後。
有象無象が、よくもウジャウジャと湧いたもんだ。
「……アイツらが、レティシアを攫ったんだな?」
「カァー!」
「……そうだ、と言ってる」
「そうかそうか……アイツら、そんなに死にたいんだな」
俺は剣の柄を握り締める。
――殺す。
一人残らず。
よくも、よくもレティシアを攫ったな。
誰一人として生かして帰さん。
命乞いしようが、泣いて謝ろうが絶対に許さない。
これから行われるのは、虐殺だ。
貴様らの死を以て、罪を償わせてやる。
「俺のレティシアを……返してもらうぞ」
そう呟いて、一歩足を前へ出そうとする。
だが、その時だった。
突如――倉庫の天井が吹き飛び、爆炎が上がった。
――――――――――
※【お報せ】※
当作品とは別作品になりますが、お報せがあります。
ぜひ↓を覗いてみてください(゜ロ゜)
https://kakuyomu.jp/works/16817330658674188001
☆8/1時点 サポーターギフトのお礼
@sc-tsc-p様
@cherry31313様
@ymabenifty様
ギフトありがとうございます!!!
頑張ります!!!
(でもなんでこんなにギフトくれる人が沢山いるのかわからんくて怖いよぉ……!)
★おすすめレビューのお礼(8/1時点)m(_ _)m
@maruwo32様
@algiers-cape様
作品のレビューコメントありがとうございます!
初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)
☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。
何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m
※次話は明日の8:45に予約投稿済みです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます