第26話 悪役男爵と主人公、共闘す
「が――あ――ッ!」
歪な棍棒で殴り飛ばされ、凄まじい勢いで広場の壁に激突するイヴァン。
同時にグシャッ!という生々しい音が広場に木霊する。
「イ――イヴァンッ!」
『ウボオオォォ……!』
イヴァンを殴り飛ばしたサイクロプス。
その一つ目がギョロリと動き、今度はこちらを捉える。
早くも俺を次の標的に決めたらしい。
――とその時、僅かに遅れてレオニールとラキが広場に到着。
「――ッ! なんだ、このデカブツは!?」
「サイクロプス……!? どうしてこんなヤバいモンスターがいるのかなぁ……!?☆」
流石の二人も驚きを隠せない様子だ。
当たり前だろう。
サイクロプスはモンスターの中でも個体数が少ない。
しかも大抵の場合、人里から離れた高難易度のダンジョンにのみ生息している。
無論、その希少性に比例して危険度もかなり高い。
少なくとも、王都の付近にあるダンジョンにポンと出没するような奴ではないのだ。
片田舎であるオードラン領内のダンジョンにだって生息してないくらいだし。
なんでこんな厄介なモンスターが、転移魔法で飛ばされてくるのかね……。
「……イヴァンが生きてたら、後で色々話を聞かないと、だな」
俺は剣を構え直すと、
「ラキ、お前はイヴァンの介抱を。レオは俺と一緒にコイツを仕留めるぞ」
「仕留めるって……たった二人でかい!?」
「なんだ、怖いのか?」
「……いいや、むしろ光栄だね」
煽る俺に対し、不敵な笑みを見せて返すレオニール。
ああ、やっぱり主人公はそうこなくっちゃな。
「ちょ、ちょっと! ウチだけ除け者!? ウチも手伝うってば!」
「だから手伝わせてんだろーが、イヴァンを連れてけって。お前がいても邪魔なだけなんだよ」
「……もしかしてだけど、ウチを庇ってくれてる?」
「気色悪いこと言ってると叩っ斬るぞ、この寝取り女」
「フン、可愛くないの」
渋々といった感じで、ぶっ飛ばされたイヴァンを抱えて広場を出るラキ。
さて――これで思う存分暴れられるな。
『ウボボオオォ……!』
「コイツを野放しにしてたら、この先どんな被害が出るかわからん。確実に仕留めるぞ」
「御意に、我が”王”よ」
俺と肩を並べ、剣を構えるレオニール。
やれやれ……まさかこんな形で主人公と共闘することになってしまうとは。
運命の悪戯って言うには、趣味が悪すぎる気がするね。
『ウボボボボオオオォォッ!!!』
――咆哮と共に襲い掛かってくるサイクロプス。
俺たちを叩き潰すべく歪な棍棒を振り下ろしてくるが、二人共ヒラリと回避。
「挟撃するぞ! 奴の視線に注意しろ!」
左右に別れ、サイクロプスを挟み撃ちにしようと動く俺とレオニール。
だが、ギョロリとサイクロプスの視線がレオニールを捉えた。
「気を付けろレオ!
――これこそが、サイクロプスを驚異的なモンスターたらしめる理由。
次の瞬間、一つ目の前に魔力の光が収束し始める。
そして収束が最大になった刹那、サイクロプスは莫大な出力の”魔力光線”を発射した。
「くぅ……!」
レオニールは魔力光線を辛くも回避。
だがその威力は凄まじく、広場の壁や床を粉々に破壊していく。
サイクロプスの魔力光線は、上位種ドラゴンのドラゴンブレスにも匹敵する威力とまで言われている。
あんなものが直撃すれば、まず絶対に助からないだろう。
「次の発射までタイムラグがあるはずだ! 一気に仕留めるぞ!」
「御意!」
息を合わせ、サイクロプスに斬りかかる。
まずレオニールがアキレス腱を切断し、地面に膝を突いた瞬間に俺が棍棒を持つ右腕を斬撃。
皮膚と骨が硬すぎるため斬り落とすには至らなかったが、サイクロプスの手から棍棒を離させることには成功する。
『ウボオォ……!』
「
流石は手強いと評判のモンスター。
一筋縄じゃいかないか。
ならば、
「――〔エアリアル・ブレイド〕」
俺は風属性の魔法を発動。
剣が風の刃をまとい、
『ウボオオォォッ!!!』
魔力の再チャージが終わったらしく、今度は俺に視線を合わせるサイクロプス。
奴の一つ目は、魔力の光を収束し始めるが――
「させないよ」
レオニールが、サイクロプスの眼前に飛び出す。
そして魔力光線が放たれるよりも早く、その一つ目に斬撃を浴びせた。
『ウボボボアアアアォォ……ッ!?』
大事な目をやられ、痛みでのたうち回るサイクロプス。
よくやったぞ、レオ。
「これで――終わりだ」
俺はサイクロプスの背後に回り込み、首元まで跳躍。
そして――奴の首目掛けて、風の刃を振るった。
『ウ……ボォ……!』
巨大な一つ目の頭が、胴体と分かたれる。
頭はそのまま地面へと落下し、サイクロプスは完全に絶命した。
俺たちの完全勝利、である。
「ふぅ~……手間かけさせやがって」
「やったなオードラン男爵! 流石はオレの”王”だ!」
レオニールもニコニコと喜び勇んで、こちらに駆け寄ってくる。
「そっちもな。よく俺の動きに合わせてくれた」
「当然さ、オレはあなたの”
まるで忠犬のように胸を張るレオニール。
うん……その忠義は嬉しいんだけさ……。
やっぱりやめてほしいなぁ、”
普通に恥ずかしいから。
――なんて思っていると、ようやくエステルたちが広場に到着する。
「ちょっと、一体なにがあったんですの!? 向こうでイヴァンが――ってこれ、おサイクロプスではありませんこと!?」
「あ、ようやく追い付いたか」
「どうして『暁ダンジョン』にサイクロプスが……? いや、それより――」
「まさかお前ら、たった二人でサイクロプスを倒しちまったのか……!?」
驚愕で目を丸くするエステル、ローエン、マティアスの三人。
ま、驚くのも無理ないわな。
最初に出てきた時は俺だって驚いたし。
「説明は後だ。それより、イヴァンは向こうにいるんだな?」
俺は剣を鞘に納めることなく、エステルたちがやって来た方角へと足を向ける。
広場から少し離れた安全地帯。
そこには大怪我をして横たわるイヴァンと、それを介抱するラキの姿があった。
「アルくん……」
「イヴァンの様子はどうだ?」
「酷い怪我だけど、すぐに手当てすれば助かると思う」
「ふーん、喋れるか?」
「え? ま、まあ辛うじて意識はあるみたいだけど――」
「そうか」
――俺は剣を振るい、イヴァンの喉元に刃をあてがう。
「ちょ、ちょっとアルくん……!?」
「答えろイヴァン。さっきのはどういうつもりだ?」
「……」
「答えないなら首を刎ねるぞ」
「フ……本当に容赦がないな、キミは……」
ようやく口を開くイヴァン。
ぶっちゃけムカついてるのですぐに殺してやってもいいのだが、一応は情状酌量の余地を与えたい。
さっき様子が変だったしな。
「僕は……どうやら”
「”
「キミたち夫婦を疎んじる者だよ……。キミたちがクラスの権力を握らないよう、僕に話を持ち掛けてきた男さ……」
ああ……そういうことか。
王立学園には、マウロを陥れた俺とレティシアを排斥しようとする輩が一定数いる。
所謂”アルバン・オードラン批判派”の奴らだ。
大方イヴァンは、そいつらと取引でもしたのだろう。
アルバンを陥れるのに手を貸すぞ、って。
見返りは精々Fクラスの”
全く、つまらん話だ。
つまらん上に、反吐が出そうだな。
「で、サイクロプスをけしかけて俺を殺そうとしたワケか。生憎だったな、殺せなくて」
「……それは、違う。僕はサイクロプスのことなんて、知らなかった……」
「……なに?」
「本来なら……雇われたゴロツキ共が、キミとレティシア嬢を襲う手筈だったのに……」
「俺と――レティシアを?」
――なんだ?
なにか、背筋がゾワゾワする。
なんだか嫌な予感が――
「カァー! カァー!」
その時である。
ダンジョンの中に、突如カラスの鳴き声が木霊する。
「な、なんだ? カラス……?」
見上げると、俺たちの頭上を飛び回る一羽のカラスが。
……カラスって、ダンジョンの中にいるものなのか……?
よくわからんが……。
「カァー!」
不思議に思っていたのも束の間、カラスはバサバサと滑空してくる。
そして、俺の背後に佇む一人のクラスメイトの肩に止まった。
マスクで口元を覆った目つきの悪い女――
カーラ・レクソンの肩に。
「……お帰り、ダークネスアサシン丸」
「カァー♪」
「うおッ!? お、お前いつの間に……!?」
全く気配がなかったぞ!
ま、まさかこの俺が背中を取られるなんて……!
っていうかコイツ、普段から存在感なさ過ぎるんだよ!
声だって今初めて聞いたぞ!
一周回って怖いわ、マジで!
「カァー! カアァー!」
「……! それ、本当……?」
カーラはカラスの言葉がわかるのか、なにやら意思疎通をする素振りを見せる。
そしてカラスの声?を聞き終えると、
「……アルバンくん……大変なことが、起きたみたい……」
「た、大変なこと……?」
「うん……レティシアさんと、シャノアさんが……誘拐されちゃった、らしい……」
――――――――――
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何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m
※次話は明日の8:45に予約投稿済みです。
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