【✨書籍化決定✨】怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました【悪役✕結婚】

メソポ・たみあ

第1章 悪役男爵と悪役令嬢

第1話 怠惰な悪役貴族


「あ、俺って悪役貴族だったわ」


 ふと、気付いた。

 自分は悪役貴族だと。


 ここはとあるファンタジー小説の世界。

 そして自分は敵役。

 いずれ破滅の運命にある。


 マジか。

 どうしよう。


「ア、アルバン様……! 誠に申し訳ございません!」


 え?

 この女性、なんでいきなり謝ってんの?


 あ、思い出したわ。

 廊下で給仕のメイドさんとぶつかって、頭から熱い紅茶を被ったんだっけ。


 火傷……はしてないらしい。

 ふぅ、よかった。


「私めの不注意でこのような……! 如何なる処罰も甘んじて受けさせて……!」


「だ、大丈夫だから。そんなに謝らないで」


「……え?」


 驚いてポカンとするメイドさん。


「ん? あっ」


 俺も「しまった」と口元を抑える。

 普段の俺はこんなこと言わないんだった。


 ――俺の名前はアルバン・オードラン。

 貴族であるオードラン男爵家の当主だ。


 年齢は十五歳。

 体型はぽっちゃり肥満。


 その性格は最悪の一言。

 傲慢・不遜・怠惰……といったクズの要素が凝縮されている。


 誰に対しても見下した態度で接し、

 気に入らないことがあれば権力にモノを言わせ相手を痛めつけ、

 そのくせ面倒と思ったことは一切やらない極度の怠け者。


 にもかかわらず天性の才能の持ち主で、大概のことは上手くこなせてしまう。


 それ故に努力という言葉を知らず、半端な自尊心があるため余計に厄介。


 貴族社会からも嫌われており、言わばヘイトキャラを絵に描いたような人物なのだ。


 幼い頃に病で両親を亡くし、親の愛情を受けられずに育ったために、こんな歪んだ性格に育ったらしい。


 とにかく他者に謝るという行為をしないので、メイドさんも呆気に取られたのだろう。


「あ、あ~、面倒くさいなぁ~! 怒るのも面倒くさい!」


「ア、アルバン様……?」


「面倒くさくて怒る気にもならないから、もう行っていいぞ。俺は部屋で着替えてくる」


「! あ、ありがとうございます!」


 見逃してくれたことに気付いたらしく、メイドさんは頭を下げて去っていく。


 ……ギリギリ、アルバンっぽく振舞えただろうか?


「服がビチャビチャだ。俺の部屋は、っと」


 記憶を頼りに自室に戻り、いそいそと服を脱ぎ始める。


 すると、ブヨブヨにたるんだお腹が露わになった。


「うわ、なんだよこの腹。太り過ぎだろ」


 アルバンは怠け者なので、基本的に一日中食っちゃ寝している。


 だから太ることはあっても、痩せることはない。


「……このままじゃ駄目だろ」


 自分がアルバン・オードランだと気付いた上で、一つ明確に言えることがある。


 このままじゃ、俺は破滅するってことだ。


 ファンタジー小説の中では、王立学園に入学した後に爵位を剝奪されて没落。


 確か主人公と決闘して負けたのが原因だったっけ?

 なんか断片的にしか覚えてないけど。


 ともかく今の生活を続けていては駄目だ。

 路頭に迷って死にたくない。


 そう思った時――


 コンコン


「! 誰だ?」


『失礼致しますアルバン様、セーバスでございます』


 部屋の扉がノックされ、向こうから老いた男性の声が聞こえてくる。


「うむ、入れ」


 俺が許可をすると、ガチャリとドアが開けられる。


 そして白髪と白髭が似合う老紳士が姿を見せた。


 彼はセーバス・クリスチャン。

 オードラン家に仕える執事であり、怠け者なアルバンに代わって家を支える大黒柱だ。

 

「先程給仕の者が粗相をしたと聞きましたが、お怪我は――って、アルバン様!?」


「え? な、なに?」


「アルバン様がお一人で着替えを……! いつもは給仕が手伝わねば、肌着も着ようとなさらないのに……!」


 ――あ、そうだったわ。

 極度の怠け者であるアルバンは、自分で服すら着ようとしないんだったわ。


 でもこれで驚かれるとか、怠惰にも程があるだろアルバン・オードラン。


「ど、どうなされたのですか!? やはりどこかお身体の具合でも――!?」


「ち、違う! そうではない!」


 俺は慌てて否定し、


「きゅ、給仕を呼ぶのが面倒くさくなったのだ! 服なんて一人で着替えた方が手っ取り早いだろう!?」


「アルバン様……! うぅ、爺やは感動ですぞ……!」


 泣き出しちゃったよ、この老紳士。


 まあ長年こんな怠惰な性悪に付き添っていれば、そんなリアクションにもなるわな。


「そうだ、セーバス」


「ぐすっ……なんでございましょう?」


「俺、痩せようと思う」


「はい……?」


「それとお前は剣の心得があったな。減量のついでに、俺に剣術を教えてくれ」


「ア……アアア、アルバン様!? やはり頭を打たれたのでは!? でなければご自身の口からそのような……!」


「お、落ち着け! 俺は断じて頭など打っていない!」


 熱い紅茶は引っ被ったけど。

 まあ頭を打ってはいないしノーカンで。


 それより、ここでちゃんとセーバスを説得しておきたい。


 ――アルバン・オードランは、変わらなければ駄目だ。


 天性の才能にかまけて努力を怠っては、ファンタジー小説と同じ結末になりかねない。


 破滅を回避するために、できることからちょっとずつ初めていこう。


 まずはダイエット。

 そのついでに剣術を学んで身体を動かせば一石二鳥だ。


 とはいえ、「破滅を回避したい」なんて理由ではセーバスも納得できまい。


 なにかそれっぽい理由をこじ付けて……。


「えっと……今のままでは、”嫁”も娶れんと思ってな」


「嫁……ですか?」


「剣も握れず肥満な身体とあっては、いずれ縁談の場で面倒くさいことになるのは必定。俺は面倒が嫌いだ」


「アルバン様ほどの地位であれば、ご縁談に困ることはないかと思われますが……」


「セーバス」


「は、はっ!」


「何度も言わせるな。やると言ったらやる」


「! そこまで固いご決断を……!」


 セーバスは驚きと共に、いたく感銘を受けた様子だった。


 彼はしばし目を瞑り。


「……かしこまりました。不肖セーバス・クリスチャン、全力でアルバン様のお手伝いをさせて頂きます」


「遠慮はいらんからな。剣術指南も殺す気でやってくれ」


 でないと、この体型は絞れそうにないし。


 ……アルバン・オードランが痩せたら、どんな姿になるだろうな?


 ちょっとくらいモテたりして?

 破滅エンドを回避できたら可愛いお嫁さん欲しいなぁ、なんて。


 あ、なんか妄想したらやる気出てきたわ。


「面倒くさいから半年だ。半年で痩せて、剣術もマスターしてやる」



───────────────────

※重 大 発 表


この度――

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