22 サスペンダー公爵令嬢に見せつけるヴァルナス皇太子殿下

「ヴァル! なぜ、ずっと会ってくれなかったのよ? あら、いやだ。なんであなたがここにいるの?」


 ここは宮殿の大食堂ではなく、ヴァルナス皇太子殿下のプライベートルームだった。そこで私達が食事をしているとは思わなかったのだろう。サスペンダー公爵令嬢は途端にしかめっ面になり私を鋭く睨みつけた。


「サスペンダー公爵令嬢。俺の最愛に挨拶をしろ。無礼だろう」


「私はこの国の公爵令嬢ですわ。この女はこの国の者ではありません。わたしが挨拶する身分ではないです!」


「挨拶するべきがそうでないかは俺が決める。ステフは俺の番で王太子妃になる身。君は王太子妃より偉いのか? どうなんだ? 早くカーテシーをしろ」


「っ・・・・・・ステファニー様にご挨拶申し上げます。サスペンダー公爵家のシンシアでございます」


 悔しさで声を震わせながら彼女は私に嫌々ながらも言葉を紡いだ。


「サスペンダー公爵令嬢も一緒に食事をすると良い。さぁ、私とステフの前に座れ。適当に自分で取って食べろ。さぁ、ステフには俺が食べさせてやろう。こちらにおいで」


 隣に座っていた私を膝の上に乗せ、ヴァルナス皇太子殿下のお皿にのっている物を一緒に食べた。私には彼が食べさせ、彼には私が食べさせる。それを見ていたラヴァーン皇子殿下はクスクスと笑いながらも、サスペンダー公爵令嬢に声をかけた。


「兄上からステファニー嬢を引き離そうだなんて命が惜しくないのか? 君がわたし達の従姉妹でなければ処刑されていたぞ」


「その女はヴァルナス皇太子殿下には相応しくないです!」


「ステフが相応しくないというなら、サスペンダー公爵令嬢はもっと相応しくないだろう? 俺が君の男遊びを知らないと思うか?」


「あ、あれはただの暇つぶしです。本気ではありませんし、気持ちは常にヴァルナス皇太子殿下にあります」


「俺は他の男と遊び歩く女性は愛せないし信用できない。それ以前に、君にはなんの興味もないのだよ。はっきり言おう、迷惑なんだ。それから、君は複数の女性から訴えられているぞ」

 途端に顔が青ざめていくサスペンダー公爵令嬢は、私を憎悪の眼差しで見つめる。でも、私は顔を上げてまっすぐに彼女の目を見つめ返した。


 もう迷わない。ヴァルナス皇太子殿下は私のもので、私はヴァルナス皇太子殿下のものだ。私はルコント王国の王太子妃教育まで受けたジュベール侯爵令嬢よ。このようないい加減な女性に負けて、絶対に身を引くなんてしないわ。私がヴァルナス皇太子殿下の愛を完全に受け入れた瞬間だった。

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