2 優しいレオナード王太子殿下
王太子妃教育が次の日から始まった。まずは王室の歴史や伝統に、正しい振る舞い方を教わる。
「王太子妃としての品格や風格を身につけることが大事です。常に背筋を伸ばして優雅に華麗に魅せなくてはなりません」
マナー講師のコートニー先生はきつい顔立ちのメガネをかけた女性だった。少しでも期待に応えられないと、とてもおおげさにため息をつかれたわ。それがとてもお母様にそっくりで、私を憂鬱にさせたの。
「まぁまぁ、こんなこともすぐにできないとは先が思いやられますね? かつてのキャサリン王妃殿下はすぐに習得なさったと聞きましたよ?」
「も、申し訳ありません。これでもがんばってはいるのですが」
「がんばっているのはわかりますわ。しかし、結果がでなければ意味がないのです。がんばることは誰にでもできますからね」
そう言われてしまえば反論もできなくて・・・・・・重い足取りでジュベール侯爵邸に帰ると、今度はお母様が私に詰め寄ってくる。
「今日の王太子妃教育での先生の反応はどうでしたか? もちろんジュベール侯爵家の娘として相応しい賛辞をいただいたわよね?」
答えることができずに戸惑っていると、察したお母様がとても深いため息をついたわ。
「全く、いつになったら完璧になれるのかしら?」
「申し訳ありません」
お母様も私の為に叱ってくださっているのよ。だから、私のせいなんだ。なんでも完璧にできなければいけないのに・・・・・・
翌日は基礎的な政治学や経済学の知識を深める為の講義を受けた。毎日、毎日、学ぶべきことが増えていく。そうして先生方はどの方も厳しくて、誰も手放しでほめてくださることはなかった。
「本日は良い出来でした。また次回もこうであれば良いと切実に思いますよ。なにしろ最初の頃は酷かったですからねぇーー」
上達したり進歩しても、未熟だった頃を何度も引き合いに出されて、ほめられた気はしない。
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王太子妃教育も2年目になると、身についた知識は多いのに、それと同じぐらい劣等感が植え付けられていく。
「最近少し元気がないね。なにか悩み事があるのかな?」
「いいえ、ただ私はあまり優秀ではないようでして、先生方にもお母様にも満足にほめられたことがないのです」
私は情けない自分に泣きそうになった。レオナード王太子殿下は愚痴っては良い存在ではなくて、私がお支えする立場なのに、優しい声音で聞かれれば思わずすがりたくなるのよ。
「こっちにおいで」
私をそっと引き寄せて、背中を優しくなでてくれる。その温かいぬくもりは、私をどんな言葉よりも安心させた。頭を撫でられ、よしよしと、まるで小さな子供のようにあやされた。
「うっ・・・・・・うっ・・・・・・。私はこれでも、とてもがんばっているのです」
「もちろんさ。ステファニーはとてもがんばっている。だから安心して。僕がほめてあげる。ステファニー、君はとても偉い子だよ。僕の自慢の婚約者だ」
レオナード王太子殿下の思いやりに触れた私は心が温かくなり安堵する。この方の婚約者になれた私はとても幸せよ。それに、度々声をかけてくださるキャサリン王妃殿下は、私をお茶に誘いバーガモットや蜂蜜漬けのフルーツをふるまってくださるの。
「ステファニー、レオナードから聞きましたよ。覚えが悪くても悩む必要はありません。とてもがんばっているそうではありませんか? 私は心から応援していますよ」
優しいキャサリン王妃殿下にありがたい気持ちでいっぱいになる。だから私はがんばるの。ところが私の専属侍女は・・・・・・
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※バーガモット:中世のスパイスケーキでシナモンやナツメグなどのスパイスが使われた、香り高くて味わい深いお菓子です。
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