第17話 おれの神様の言う通り

 おれの神様ってやつはどうにも偏屈で、気弱なくせに変なところにやたらこだわりがあったりする。たとえばポテトチップスは絶対にコイケヤだし、寝るときはサテンのパジャマじゃないと落ち着かない。よく泣く。いつまでも昔のことでクヨクヨしてたりする。そのくせ無精髭ボウボウで、神様なのに、ちっとも神々しさなんて持ち合わせてない。

 たとえばおれが会社で嫌なことがあって、猫背で帰ってきたときも、「腹減った」と呑気に飯を催促する。おれの神様なんだから、仕方ない。ときどき他人の神様を羨ましく思うが、それでもやっぱり、よくよく考えてみると自分の神様が一番、愛着が湧く。

 だって神様って、おれの心だから。

 腹が減ってるのは、おれなんだから。

 神様は云う。

「わたしは全て上手くいっている、って、いつも唱えたほうがいいよ」

 宗教かよ。いや、神様ってのはそりゃ宗教だが、宗教の始まりはそもそも哲学や科学と根っこはおんなじなんだ。だから、おれは神様の言う通りにしてみる。仕事はミスするし、恋愛沙汰はここ数年ご無沙汰だし、貯金も少ないし、容姿もよくないけれど、それでも両親は健在で、友達はいて、仕事をしてて、こうやって疲れてんのに飯を作ったり食ったりできる。飯を美味いと感じることができる。

 なんだ、意外とうまくやってんじゃん。そこそこの幸せ。おれには宝くじが大当たりするよりも、今日の親子丼が美味いってだけで、充分幸せなんだ。


 わたしは、全て上手くいっている。


 心んなかでそう唱えてみると、神様は笑った。不細工で駄洒落が好きで、要領の悪い奴だけど、憎めないんだよなあ。八重歯も可愛いし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る