第11話 悪食探偵

  あくじきたんていさん、あくじきたんていさん


  ぼく/わたしのなやみを、食べてください


*  *  *  *  *  *  *  *  *  *


 悪食探偵あくじきたんていさんは、なんでも食べてくれるそうです。仮名屋敷かなやしき三十五丁目二番地に住んでいて、いつも暇そうにしています。どうして探偵でもないのに探偵と呼ばれるのかは、本人にもよく分かっていません。

 きっと人の悩みを解決してくれるからでしょう。悪食探偵さんはなんでも食べてくれるので、人の悩みも食べてくれるのです。困ったときはあなたも呼び出してみてください。たとえば会社のお金を横領したとか、望まぬ妊娠をしたとか、人を殺してしまっただとか、そういうときにも悪食探偵さんは活躍してくれます。

 ならば探偵というよりは、もはや怪人ではないでしょうか。となると、怪人というのは探偵とは敵対するものですから、どうにも不思議なことになります。けれど、悪食探偵さんは探偵なのです。

 悪食探偵さんがどうして悪食なのか。

 それは彼が戦争中に拷問され、餓死したことに由来します。が、五国共和だの満州大学だの、今の子供たちはそんなことを学校では習わないのですから、あんまりここで詳しく話す必要もないでしょう。広く世間に知られているのは、悪食探偵さんがなんでも悩みを食べてくれる、ただそれだけです。

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