第9話 順調なダンジョン探索――メイドさんのスカートには秘密がある
突撃してくる乗馬埴輪二体。
それに対して、レーネとカナの対応はある意味対照的だった。
「きええい」
レーネは人型埴輪の剣をそのまま両手持ちの剣で弾き飛ばし、体勢が崩れた埴輪たちの隙をついて、まず馬に返しの一振りを当てる。
その威力は強く、たちまち馬の体を砕くと上に載っていた人型埴輪が転げ落ちる。
それに対して、さらに踏み込んで上段からの振り下ろし。
鮮やかな連続攻撃によって乗馬埴輪を完封していた。
それに対して、カナは、まず躱す。
ただ躱しただけではなく、足をうまく馬の後ろ脚にひっかけ、その場に転ばす。
人型埴輪も転げ落ちるが、その時点では人型埴輪も馬埴輪も動くことができる。
足を引っかけられた馬より、うまく受け身をとった人型の方が立ち上がるのが早いが、そこに距離を詰め、人型の胸に回し蹴り。
一撃で貫通すると、そのまま人型埴輪は崩れ去る。
ちょうどその一瞬前に立ち上がった馬型埴輪は――なんと和之の方に突進してきた。
――まずいっ!
和之は……しかし直感ともいえる衝動に体を動かされ、馬型埴輪の突進を住んでのところで躱す。ひらっとしたメイド服のスカートの裾が引っ張られる感触を味わいながら、なんとかケガなしで乗り切った。
「和之様っ!」
レーネが慌てて和之と馬の間に割り込む。
間近で見たレーネの剣は、土人形を砕いたと思えないほどぴかぴかの新品に見えて光を反射していた。
――きっと、これも魔法の品なんだろうなあ……
のんきなことを考えていた和之は、レーネが残りの馬型埴輪を片付ける瞬間を見逃してしまった。
ともかく、こうして無傷のままそれなりに強いDランクダンジョンの最初の敵を完封したのだった。
「申し訳ないっす~、
しゅんとして、どういう構造になっているのか耳を垂れさせてカナが和之に謝る。
「本当です、和之様を危険にさらすなんて……」レーネは怒っている。
「まあまあ、お互い慣れてないし、僕ももうちょっと位置取りを考えたほうがいいんだよね?」
「……そうですね、できれば余裕をもって躱せるように距離をとるか、どちらかの後ろの位置をとっていただければ……」
今回の場合だったら、二人の活躍を見ようとして、和之が近づきすぎたのが危険だったということだ。あの乱戦状態で、どちらかの後ろの位置をとるのはちょっと難しい。
和之は、それでもしょぼんとしているカナの頭をなでる。
それだけで、カナはたちまち元気になった。尻尾もメイド服のスカートを押し上げている――しっぽ?
「あれ? いや……耳がこうだから不思議はないけど、カナはしっぽもあるんだ……」
「そうですよ~、主、しかも3本もあってお得です……クシュン」
3本、というのはよく聞く尻尾の多い狐とかだろうか? だが、和之はそういう狐が武闘派というのは聞いたことが無かった。
ともかく、カナのやる気は戻ったようなので、3人でドロップアイテムを探す。
「これぐらいですかね……」
一見土くれの山に見えるが、注意深くより分けていくと、丸い球のようなものが見つかった。土を払ってみると、それはきれいな球形をしていて、色がついているようだ。
「宝玉……っていうのかな、こういうの」
「そうですね。価値は分かりませんが、二束三文ということもないでしょう」
これが本当にダイヤとかサファイヤとかの宝石ならすごいことだが、そういうキラキラした宝石とは違う感じがする。
だからといって、タダの石ころと考えるにはきれいなので、何らかの価値あるものだと思われた。
「これが3つですか……あと、人型が持っていた剣は一応持っていきますか……」
「でも、レーネたちはあんまり荷物持てないよね?」
「大丈夫です。フランから聞いていますが……」
なんと、和之の着ているメイド服には収納機能が搭載されているらしい。
「でも……ポケットはそんなに大きくないよ?」
「ポケットではありません。すいませんが、スカートをたくし上げてもらえますか?」
「へ? 何で……」
「そこに収納があるのです。これは私たちの服も同じです」
「でも、スカートなんて……」
ちなみに、和之のミニと違ってメイドさんたちのスカートはロングである。
「慣れれば一瞬で出し入れできるので……ですが、和之様はまだ初心者なのでちょっと難しいかと……」
「それじゃレーネのに入れてくれればいいのに……」
「何事も経験です。いざというときのために習熟しておいて損はありません」
「ある、すごい損があるよ、なんで女の子にスカートをめくり上げて見せないといけないんだよ! 今日ぐらいいいよね?」
「いいえ、和之様の安全のために、ぜひ……」
顔を真っ赤にして説得しようとするが、残念ながらレーネは一歩も引かなかった。
このままではダンジョン探索も進まないので、結局和之が折れてスカートの中の秘密をレーネにさらすことになる。
なお、完璧主義のフランのことである。当然ながらメイド服の下に普段愛用しているトランクス、などということは無く、下着にも凝ってある。詳しくは秘密だが。
「うううっ、なんか、汚された気分だよ……」
「人聞きの悪い……ご主人様、使わなければうまくなりませんよ」
「ところで……これってメイド服から着替えたら使えなくならないの?」
フランのことだから、そのあたりの対策はしているだろう。和之はそう考えていたが一応聞いてみた。
「あっ……」
「使えないの? じゃあ、僕が恥ずかしい思いをした意味あったの? ねえ」
「申し訳ありません……じ、次回からは大きな背負い袋を用意しましょうか……」
だが、とりあえず今日のところは他に方法もないのでメイド服に納めることにした。そして、後日の探索で明らかになるのだが、大きな荷物を背負うと動きが鈍くなるので、結局ダンジョンを歩くときはメイド服の収納を使わざるを得ないのだった。
◇
「これって、ボスみたいなもの?」
「ええ、ルームマスターですね」
ダンジョンの用語はこちらの世界とメイドさんたちの世界では違いがあるようで、こちらでは階層のボスを
最も、向こうの言語では単語は違うのだが、和之もメイドさんたちも日本語で会話しているのでそのような呼称を当てることになった。
そして、目の前にいるルームマスターは、大きな武者型の土人形、それと取り巻きの土の牛の軍団だ。
ここまで、出てきた敵は全て土人形、いわゆる埴輪に類するもので、その姿も人――兵士型や狼型、馬型、熊型など様々だった。
兵士型には、武器のバリエーションもあり、剣を持ったもの、弓を持ったもの、槍を持ったものなどがいた。
だが、その全てをこの前衛二人は危なげなく退治していた。
なお、そのたびにドロップアイテムを確保して和之のスカートの中に入れるので、もし重さがそのままだったら動けないほどのはずだが、収納したものの重さは無くなるので、まだ和之は動くことができている。
「ねえ、大丈夫? 無理しなくていいよ……ここまで来れただけでも……」
「心配ご無用です、和之様。この程度の敵は我々が本気になるほどではありません……ですが、そうですね……今後のことを考えると、むしろ力をお見せした方がいいでしょうか……」
「それなら~僕が行くよ~」
「そうですね、ではカナ、速やかに……」
「りょ~か~い」
敵の数や大きさがあるため、この部屋は今までの通路や部屋と比べて広く、天井も高い。さすがボスというべきか、敵はこちらに向かうまでもなくそのままの位置にとどまっている。
入り口を入ったところの3人のうち、カナだけが前に歩き出す。
レーネは剣を構えて入り口のところで和之を守るつもりのようだ。
「我々7人のメイドは、普段力を抑えています」
「それって仮の体ってことと関係あるの?」
「ええ、それもありますが、短時間だけならこの体のままでも本来の力を発動させることができるのです……ご覧ください」
言われて和之が前を見ると、カナはいつの間にか(多分スカートから)取り出した細長い布を両手で持つと、それを頭に……鉢巻きにするというよりはちょっと斜めに縛った。
「あれじゃ、片目が見えないんじゃない?」
「そうです。それが彼女の条件です」
片目が見えない状況で、それでもペースを変えずに前に歩むカナ。
やがてボスが反応して身動きするぐらいの距離に到達した彼女は、そこで歩みを止めた。
――きっと、なんかすごい動きとかするんだろうな
ワクワクして、和之は見守る。
実際、和之の目には――『真実は大体一つ』の能力を発動した目には――カナの周囲にすごい力が集まっているのが感じられる。
本来の力、というぐらいなのだ。これから始まる蹂躙劇を見逃さないように、和之はじっと見つめる。
すると……
急に頭を揺らしたカナは、ひときわ大きく後ろに頭を引くと、その直後に信じられない行動に出た。
「びええっくしょん!」
超特大のくしゃみを放ったのだ。
「ねえ、まずくない?」
和之は予想だにしなかった事態に、目の前のレーネの服を引っ張って質問する。
「いえ、問題ありません。ほら、ご覧ください」
「え?」
果たして、それはくしゃみの威力だったのか……
見ると、敵が全員ボロボロと崩れてただの土くれに代わっていく光景が、そこにあった。
「クシュン……クシュン……げほ……やっぱり埃っぽいところは~苦手~」
そんなことを口に出しながら、鉢巻きを解いたカナはゆっくり歩いて戻ってくる。
確かに砂埃がもうもうと立ち込めて、和之も思わず袖で口を押えてしまうぐらいだ。
だが、その原因となったのは、危険なダンジョンのボス、ルームマスターの一団だったはずだ。
それが跡形もなく消え去ってしまった。いや、実際にはその場に残る多量の土の山がその跡形であるのだが……
呆然としていた和之だったが、そばに寄ってきたカナが求めていることは察知できた。
「へへっ……」
和之が頭をなでてやると、カナは得意そうに微笑んだ。
顔も土まみれで髪の毛の感触もなんかざらざらしていたが、それでも心地よい触り心地だ、と和之は思った。
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