そのゴールリングは届かない。

myon/みょん

第1話

(新学期になるまで少しマンネリしてしまう所がございますが、2話から展開に拍車がかかりますので、暖かい目で見てくださると幸いです。)


「ん......?」


 目を開けたらこれでもかというくらい澄み渡った青空と、視界の外から燦々と僕の目を照らす白い太陽の光があった。


「ここはどこだ......?」


 どうやら何かの上で仰向けになっていた僕は、そっと身体をあげようと手を地につくと、すごく柔らかい手触りがそこにあった。その手触りを感じながら上体を起こすと...


 海があった。青い。ただひたすらに青い。強いて言うならば、波打つその色だけが白い。そういえば、小さい島や船も人も何も無い......?


「......ぎ君、凪君っ。」


 遠くから誰か僕を呼んでいるようだ。振り返ると、僕と同じくらいの女の子がいた。太陽の眩しさと彼女の被っている帽子で出来た影のせいで顔の細部までは見えずとも、女の子が僕の方を向いて呼んでいるのだけは分かった。


(なんで、僕の名前を知っているんだ......?)


 そして、彼女の奥には砂浜に1人立っているバスケットゴールがあり、姿がはっきりと見えないが、そこで男の子たちと女の子たちが愉快にバスケットボールを楽しんでいるのだけは見える。


「すみません、誰ですかー。」


 僕は不思議すぎるこの景色に少々戸惑いつつも、僕の名前を呼ばれた以上、返答をしなくてはと思い、まずは名前を聞いてみた。ちなみに、見ず知らずの女の子に「はーい。」と言って近寄れるほど僕は女の子に慣れていない。


「なに、馬鹿なこと言ってるの。ほら、こっちに来て皆と一緒にバスケットボール...」


 そう言って近づいてくる彼女の顔をもう一度見てみようと......


「_______♪」


「うわっっっ。」


 僕は慌てて起きた。いつも、アラーム音として設定している曲が、今日は違う曲のように感じてしまうのは気のせいだろうか。


「夢......夢か。」


 正直、起きた今も現実に戻った心地がしていない。なんせ、見た夢が恐ろしいまでの不自然さをしていたのだ。誰もいない砂浜と海が広がる後ろで、初めて見るであろう女の子に名前を呼ばれ...そういえば、彼女、『皆と一緒に』って言ってなかったか。ということは、彼女の奥にいた彼ら彼女らも僕の知っている人というわけだったのか。訳が分からなくなってきた。そして、何故、夢の中の話をここまで覚えているのか。疑問符ばかり浮かんでくる。


「......起きるか。」


 それらについて深く考えるのはやめた。


 高校入学してから初めての春休みも残すところあと3日。ゆっくり休んで、来るべき新学年の日を迎えよう......。残念ながらそうはならない。誰も校舎内に立ち入れない学校閉庁日も昨日で終わり、今日からまた、学校の図書館内の自習室が開く。そう、僕の目的はその自習室にあった。


 僕が通う私立 成宮なりみや高等学校、通称 成高なりこうは県内では俗に言う、進学校(仮)くらいの立ち位置で、最寄り駅の成宮駅では僕の高校の制服を見るや否や『自称進学校のくせにっ!』と酔ったおじさん達にからまれることが多々ある。だからなんだ。...授業の速度はある程度早く、毎週の小テストは当たり前のこと、月に1度、数学と歴史の大きいテストがあり、多くの生徒が苦しんでいる。それは僕も例外じゃないのだが。


「......行ってきます。」


 朝の支度を終えた僕は、母と妹にぎりぎり聞こえるか聞こえないかくらいの気力の無い声を添えて玄関のドアを開ける。そして、条例違反と分かっていてもやってしまうのだが、ワイヤレスイヤホンでプレイリストを再生しながら、自転車で学校へ向かう。


 ──漕ぐこと50分。

 いつも通る大きな公園、天の川大公園の中を通る。この公園内には遊具だけでなく、野球場やテニスコート、バスケットコートが数面あるスポーツエリアと呼ばれるものがあり、そこでスポーツをしている子供たちや年配の人をよく見かける。まぁ、朝は基本、誰も居ないのだが......?


 ──ダムッ、ダムッ、ダムッ。

 そこには僕と同じくらいの女の子がバスケットボールをしていた。僕は思わず見とれてしまった。それもそのはず、淡い桃色の下で、春の日差しに照らされて輝く彼女の艶やかな黒髪のポニーテール、すらっとした長く、白い脚に凛々しさと可愛らしさを兼ね備えた横顔。コートの横を通り過ぎる僅かな時間でも感じ取れてしまうほどの姿がそこにあったのだから......。


 学校に着いたあとは自習室へ直行し、結局、途中で休憩は挟んだものの、朝から夕方まで参考書とにらめっこしていた僕だが、流石に疲労を感じ帰路に着くことにした。


 まだ春ということもあり、空も暗くなるこの時間の天の川大公園は、野球場の照明とまではいかないものの、それなりに大きい照明が所々にある。それと、過ごしやすい季節と相まってか、スポーツエリアには多くの人がいる。居るかも分からないのに、無意識にも僕は朝に見た彼女の姿を探した。


 ......居た。というかこんな大勢の人間の中から、ほぼ探さずとも分かってしまうほど、僕の目を引いてしまうような彼女の姿に驚いたのと同時に、


「こんな時間までやっていたのか......?」


 僕が口から零れ落ちてしまうように独り言を言ってしまうほど、すらっとした長く綺麗な脚を持った彼女の姿が、小さく見えた。一日中スポーツをしていた可能性を加味しても、だ。


 いつの間にかペダルを漕いでいたはずの自分の足が地についていたことに気づいた僕は、地を蹴って改めてペダルに足をかけたのであった。


 翌日、昨日と変わらない時間に起きたものの、夢という夢も見た覚えが無いせいか、気持ちがよい目覚めだった。しかし、起きた途端、昨日の彼女の姿が脳裏に浮かんでしまった。


「......じゃ。」


 とうとう頭の中に鎮座し始めた彼女の姿と共に、家に居る母や妹に届けようともしていないくらいの声量で玄関のドアを開けた。...朝が苦手なのだ。妹の澪に『凪兄は朝、機嫌悪くて困る。あと、たまに八つ当たりしてくるの本当にウザい。』と言われるくらいである。機嫌が良くないのは認める。が、八つ当たり?身に覚えもございません。多分。


 そんなことを考えながら今日も今日とて条例違反しながら、自転車のサドルに股を掛けて、ペダルに乗せた脚を回し始める。


 僕の家、一之瀬家は、母のしずく、父のきよし、兄のたき、妹のみお、そして僕の五人家族で構成されている。母は保険会社の営業部署に勤めており、父は有名通信会社に勤めている。四つ年上の兄は現役自衛隊員として日々訓練をこなしているらしい。もっとも、正月とお盆の時期にしかこっちに帰って来ず、苦労話をその度に聞かされるのだ。二つ下の妹は今年は受験生。あと口が悪い。以上。


 それと、両親は別居状態にある。母は父と結婚した当初のマンションに今も住んでおり、父はそのマンションから徒歩5分程度の父の母、すなわち僕の父方の祖母の家に住んでいる。僕はこれから母親と生活すると決めたわけではなく、荷物の移動が面倒で母と妹と住んでいる。それで言ったら、僕は父の方が好きだし、親として尊敬している。だから、週末になるとたまに父方の祖母の家に泊まりに行くことがある。


 ちなみに、僕が物心ついた時から両親の仲は悪かった。仲が悪くなった直接のきっかけは僕も兄も、もちろん妹の澪も知らない訳だが、もうこの仲は決して治らない。それだけは自明の理であった。その理由なんてものは探そうと思えばいくらでも見つかるが、話せば長いので、それはまた今度にしておこう。


 さて、そんなこんなで自転車のペダルを回すこと50分──。


 僕は、心なしか淡い期待を抱きながら公園の敷地に入った。昨日よりも少なくなってしまった淡い桃色はすぐそこにあるはずの新学期を手招きしているみたいでどこか寂しさを感じた。


 ──それでも、その感情はいつも通るバスケットコートの下に居る彼女の姿によってかき消された。


 昨日の夕方の姿とは違い、でも昨日の朝とも違うような......?そんな彼女の姿を僕は目で追う。片耳から聞こえてくるいる音楽がまるでノイズのようになってしまうくらい、僕は彼女の姿に夢中になっていた──。




 ──気づけば、参考書とにらめっこをしてした。僕は参考書を見ているのに、参考書は全く僕を見ていないかのように僕の分からない単語を羅列してくる。


「......帰るか。」


 ふと、時計を見ると昼の12時30分。昨日と比べると、かなり早い時間に切り上げたことになるが、仕方がない。


 また昨日と同じ道を通って帰る。違うのは車通りと太陽の位置くらいだろうか。そして、またバスケットコートを通る──。


 ──しかし、そこには彼女の姿はなかった。


(え......?)


 昨日と合わせて3回しか彼女を目にしていないというのに、今、この瞬間、ここにいないだけで何故、こんなにも胸騒ぎがするのか。昼食を取っているだけとか体力的に疲れたからとか、単に飽きが来たからとか、色々な原因が考えられるはずなのに。僕はどうしてかそれらの原因を即座に排除してしまった──。




 ──そして、春休み最終日の朝。妙な胸騒ぎは落ち着くことが無いまま今日を迎えてしまった。


「はぁ...行くか...」


 朝の支度を済また僕は、ここ数日の出来事に取り憑かれながら大きく息をついて、学校の制定カバンを持って、リビングを出ようとすると、


「凪兄、何ため息ついてるの。朝、機嫌悪いのはいつもの事だけど、そーゆー悪い雰囲気を醸し出さないでよね。私の方も気分落ちるから。」


 と、澪が二言。


「どうせ明日から学校なのが嫌なんでしょ。凪兄、去年、友達もいなかったからか分からないけど楽しそうじゃなかったし。」


 四言に増えた。


「はいはい、お前も晴れて受験生になった訳だし、学校を楽しむのも程々にしておけよ。学生の本分は青春じゃなくて勉強な。」


 と、大人げもなく返して、僕はまた、きっちり条例違反をして家を出た。


 友達が居ないのは、あながち間違いではない。容姿も決して良いとは言えず、少しひねくれた性格をしていることもあり、周りからは少しだけ敬遠されてしまったが為に、僕も自ら人から離れてしまった為、話すような友達もいなかっただけだ。


 ──そうして僕の自転車のペダルが何千回と回り、車体は天の川大公園へと向かっていこうとしていた。


 正直な話、ただ1人の女の子があの公園のバスケットコートの下に居ないだけでこんな気持ちにはならない。たった三度しか見ていないというのに。ただ、そこにいる彼女の姿に、あの生気を感じない姿に、どこか思うところがあっただけなのだ。ここまで自分の感情を抽象化されてしまうと、これ以上考えたところで手も足も出ない。


 そして、バスケットコートの前を通る。


(あぁ......やっぱりか。)


 薄々と勘づいてしまってはいたが、そのバスケットコートは僕の淡い期待に応えてはくれなかった。ペダルを回す脚がそこに無いような気がして、僕は、はっと我に帰る。もう僕の瞳に彼女の姿が映る瞬間は来ないのか、そんな不安を抱きながら成高へ向かうのだった。





 ── ...之瀬 凪くん..? 一之瀬 凪くん?


「......ぅえっ?」


 不意に名前を呼ばれて腑抜けた声を出してしまった。外はまだ明るい......良かった。というかまた寝てたのか僕は。


「『ぅえっ』って。自習室で聞こえていい声ではなかったねぇ。」


 先程の声の主である隣の席の女の子が小さい声で笑いながらこっちを見ている。すると......


「おはようございますっ。」


 と、挨拶してきた。


「おはよう...ございます。」


「うん、おはよう。もうっ。自習室で寝ちゃって。明日から学校なのに大丈夫?」


「あー。大丈夫じゃないかもですね。......というかなんで僕の名前を知っているんですか。あと、君は誰ですか。」


「質問ばっかりだねぇ。とりあえず、私の名前は柚木ゆのき 小春こはる。凪くんの名前はさ、ほら、そこの参考書。『一之瀬 凪』って書いてあるでしょうに。私と同じもの持ってるってことは凪くんも明日から高校2年生なんだね?」


 柚木 小春さん......名前だけは何度も聞いたことがある。昨年度の同級生達が口を揃えて可愛いだの、付き合いたいだの言っていた。風の噂によると、先輩からの告白も度々あった模様。


 確かに、初めて面と向かったのだが、柚木さんは可愛らしい人だ。少しブラウンがかかった艶のあるショートヘアに、潤いのある綺麗な目、鼻筋の通った鼻、細身だが、出る所は出て......っと僕は何を見てしまっているのだろうか。


 そんな彼女に僕は何故か話しかけられている。あと、心理的距離が近い。会ったばかりだというのに、僕を下の名前で呼んでしまうのだ。僕が気にしすぎな部分もあるのかもしれないが。幸運にも僕はいつも自習室の隅で勉強(?)していることもあり、今のところ周りの生徒からの視線は感じられない。


「柚木さん...ですか。存じ上げてますよ。」


「存じ上げてたのっ!?」


「声大きいです。」


「...ごめん」


 流石に一瞬、周りの生徒からの視線が集まったものの、すぐに机に向かい始めた。


「まぁ...あれだけ学校内で話題に出ていたら、僕なんかの耳にも入りますよ。軽く有名人ですから。」


「有名人かぁ。そんなに大層なものでもないんだけどなぁ......。」


 少し柚木さんの瞳が曇った...ような気がしたが、気のせいか。


「寝ていた分際で何ですが、明日からまた学校が始まるのでペンを動かしてもいいですかね?あと、起こして下さりありがとうございました。」


「そうだね。ここはお勉強をする場所だもんね。もう寝ちゃダメだよっ?」


 と、念を押された後、僕たちは机に向かう。この三日間で一番集中することが出来た気がした。


 ──やがて、夕方になる。


「じゃあ柚木さん、僕は帰りますね。改めて起こして下さりありがとうございました。また何も勉強せずに寝て帰る所でした。」


 と、挨拶だけはしておこうと思い、声を掛けた。


「いえいえ......って、『また』ってことは前科あるんだ。」


「まぁ......仰る通りですかね。」


「今度は執行猶予つかないからねっ。」


「......犯罪者扱いですか。」


 と、少しだけ茶番をする。思ってた以上に柚木さんとの話しやすさに驚きながらも、僕は片付けを済ます。


「では、また何かの機会でお会いすることがあればよろしくお願いします。」


「ふふっ。律儀だねぇ。じゃあまた今度ね。」


 そして、僕は成高を後にした。


 まさか、少し前まではだった僕が、こうしてまた成高に通い、そして柚木さんという校内での有名人と関わることがあるんだなと、自転車に乗り始めながら僕はこんなことを思う。


 空は少し暗いとはいえ、遠くからでも分かるほど光っている天の川大公園の照明たちは、この時間に軽やかに運動する人たちを明るく照らす。僕にとっては眩しい限りではあるのだが。


 そうして、帰りの天の川大公園へと進む......が、どういった訳か、今日はやけに人が少ない。明日から学校という学生も多いからだろうか。遠くから見て、公園のスポーツエリアに居るのはテニスコートに居る年配の人とバスケットコートに居る......




 そのバスケットコートには、の姿があった。しかし、その周りには如何にも強そうな体つきをした男二人くらいが彼女に少し詰め寄ろうとしているのが見える。


 僕は近くまで急いでペダルを回す。ただ事じゃないと感じたのだ。


 近くまで来たところで、男たちの風貌に少しだけ怖気付いてしまい、自転車の車体を押す形で更に寄った。もう話し声は聞こえるくらいである。


「ねえ、君、こんな所で一人でバスケット?それなら、僕たちと一緒にやろーよー。」

「そうそう。一人、3人でやったほうが楽しいかもよー?」

「それかぁ、もっと違うことをして僕たちと遊んじゃおうかぁ?」


 やはり、ただ事ではなかったみたいだ。男たちに詰め寄られ始めている。ここら辺で良くあることなのかは分からないが、良くないことであるのは分かった。


「やめて......くださいっ」


 彼女は拒む。助けなきゃ...なのか?

 でも僕が助けようとしたところで、175cm 60kgの僕では少なくとも僕より体格の良い男二人相手だと返り討ちに逢うのは容易に分かった。それじゃあ元も子もない。


「なあなあ、連れてっちゃうか。」

「いいですね、彼女、いい身体してますからねえ。」


「やめて......やめてくださいっ!」


(助けなきゃっ!)


 彼女が強く拒んだ瞬間、初めて彼女の姿を見た時のことを一瞬、思い出した。すると僕の身体は彼女の前へ勝手に動いた。


「......良くないですよ。こういうの。」


 もう後にも先にも戻れない。僕は彼女の前に立ちはだかって言い放った。少ししか視界に入っていなかったが、彼女は少し驚いた様子で僕を見あげているのが分かった。


「あぁ?何だクソガキ。その女は俺らのものなんだわ。」


「...嫌がってるじゃないですか。」


「うるせえっ。そこをどけ坊主。...なんだぁ?俺らに喧嘩で勝てるとでも思ってるのか...よっ!」


 ──ガンッ!


 僕の左顎の少し上くらいだろうか。片方の男が放った拳が僕の左顎で鈍い音を立てる。音が頭の中で回った後に、痛みが出てくる。


「あのっ!私のことはどうでもいいですから逃げてください!」


 と、彼女が僕に声を放つ。しかし、もう後にも先にも戻れない。


「だいぶ、つえーじゃない?でも、大人しく引き下がらないなら、これだけで済むと思うなよぉ?」


「引き下がるものか..!」


 ──ドンッ!


 腹に膝が入った。気が飛んでいきそうなくらいの痛みが僕を襲う。


(......倒れちゃいけないっ、気を失ってもダメだ。彼女が何されるか分かったもんじゃないっ。)


「おいおい、まだやるのかい?少しは反撃くらいしてもいいんじゃない?女の前でかっこ悪い。」


 ──バンッ!......ドンッ!

 もうどこに何を食らってるかも分からない二発が飛んできた。


「逃げてくださいっ!お願いですからっっっ!」


 彼女は、相当大きい声で声を発しているのかもしれないが、そうは感じられないくらい気が遠のいている。


「坊主、死にてえのか?」

「そこまでしてそこの女を助ける意味があるのか?」


 僕が以前、気になっていただけであって、何か明確な意味とかがある訳でもないと思う。ただ、助けなきゃいけないという思いで助けているだけだ。ただ...


「...貴方、貴方たちには関係の無い...話です。」


 明確じゃなくてもきっと意味はある。そんな気がした。


「ちっ。なんだこいつ。弱い癖に口だけは一人前なんだな。」


 ──ドンッ!...ガンッ!...ガンッ!...


 二人から怒涛の攻撃を喰らう。


「やめてっ! やめてくださいっ!これ以上彼を傷つけないでくださいっ!」


 彼女の声と僕の体内を駆け巡る鈍い音が二重奏のように感じ始めてしまっている中、倒れないように脚だけは、気を失わないように心だけは、と、それしか考えられなかった──。




「はぁ、はぁ、もういい。本当に死なれたら困る。帰るぞ。」

「はぁっ、はぁっ、了解です。こいつ、本当に死んでないといいですけどねぇー。」


 最後に、そんな声が聞こえた気がして僕は......


「────!」


 誰かに抱き抱えられながらも倒れた。

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