白い部屋から見える花畑
春羽 羊馬
白い部屋から見える花畑
「おっちゃん!ラムネ2本頼む」
「あいよ!ラムネ2本で300円な!」
とある暑い夏の日のこと。
青い空に昇っている太陽が段々と沈んでいく夕方6時ごろ
桜夜は、屋台で買った2本のラムネ瓶を手に持っていた紙袋に入れる。既に彼の腕には、他の屋台で買ったであろう品の入った袋が掛けられている。
「食いもんと2人分の飲み物。…こんなもんか」
手元にある袋の中をサッと確認すると桜夜は、屋台や祭り客でごった返す通りから退避するかのように外れ、裏手へと入っていった。
裏手へ入ると桜夜は、左右に目を動かしながら表通りに続くほうへ少しづつ歩く。歩いて行くとやがて1台のバイクが停められているのが、目に映った。そのバイクは、真っ赤なフレームが特徴的でそのフレームには桜色の線が入っていた。
「あった!あった!」と口から言葉をこぼしながら桜夜は、そのバイクに駆け寄る。そうこの真っ赤なバイクは、彼のものだ。
バイクの荷台を開ける。
荷台の中には、既に白いヘルメットが入っていた。桜夜は、荷台から一度ヘルメットを取り出して祭りで買った品が入った紙袋を中の物が崩れないように詰める。取り出しておいた白いヘルメットを紙袋の上に被せる様にして仕舞い直し荷台の閉めた。
荷物を閉め終えた桜夜は、バイクの左ハンドルに掛けられている赤いヘルメットを頭に装着し、ポケットから薄いぺん型の電子機器を取り出しそれをバイクへ向けた。
携帯端末〈デバイス〉
この世界では、ほとんどの人間が所持している機械であり、連絡や電子決済として用いられている。
デバイスの向けられたバイクからは、エンジン音が発せられた。
エンジンの掛かったバイクに
祭り会場からの道のりを駆けること数十分桜夜は、鳥花町から隣町である
花月町を駆けているとやがて白く大きな建物が桜夜の目に映り込んできた。その建物が見えると桜夜は、法定速度を守りつつバイクの速度を少し上げた。
駐車場に着きバイクから降りて荷台から荷物を取り出す。いつの間にか祭り会場で見えていた空の明かりは、もう無くなっていた。桜夜は、荷物を片手に先ほど道路から見えた白い建物へと入って行く。建物に入り奥にあるエレベーターホールへ向かって進む。壁に着けられた上へのボタンを押し待つこと数秒で到着音とともにエレベーターの扉が開く。エレベーターに乗り込み桜夜は、タッチパネルに表示されている5のボタンを押しのち、扉を閉めた。
5階に着くと再び到着音と共にエレベーターの扉が開く。エレベーターを降りた桜夜は、目の前に見える受付へ。
本来なら数秒で済むはずの受付が今日は少し時間が掛った。その後無事に受付を終えるも桜夜は、少しばかりしょんぼりした表情で沢山の部屋が並んだフロアのほうへ足を動かす。
507...505...部屋番号が段々と小さい数字になっていく。奥へと進みやがてフロア最奥の白い部屋の前で桜夜は立ち止まった。
501号室【
コン、コン、コンと3回ノックをした後桜夜は、さっきまでのしょんぼりとした表情を整えてその部屋の扉をゆっくりと引いた。
「よっ!
部屋へと入って行った桜夜の目には、短く切られた赤い髪が特徴的で白い検査着を身に着けた少女が一人。少女は白いベットの上で本を読んでいる。桜夜が焔と呼ぶ少女は、彼の声がした扉のほうへゆっくり視線を送る。
焔の目に桜夜の姿が映ると本を読んでいた彼女の静かな表情は段々と明るくなった。
「待ってたよ!桜夜」
「わりぃ、遅くなった」
遅くなったことを焔に謝る桜夜。
桜夜は、彼女の座るベットの脇に置かれた椅子に腰を掛ける。椅子に腰を掛けた桜夜に焔は、ジッと彼を見つめ「…こっち」と口から零す。
彼女の声が一瞬流れるも「えっ?」と気の抜けた声が桜夜の口から落ちる。彼の反応に焔は2度目はハッキリとした声で「…こっちに座って!」自分の隣の位置を叩きながら伝える。彼女の気迫に驚く桜夜。「…分かった」一度座った椅子から離れベットに座る焔の横に腰を掛け直した。隣に座る焔は、桜夜に向かって満足そうな表情を見せる。
焔の視線が桜夜から彼の持つ紙袋へと移る。
「桜夜それってもしかして…」焔は桜夜の持つ紙袋に視線を送りながら聞く。「ああ、祭りで買ったものだ」そう答える桜夜。彼の返答に目をキラキラ輝かせながら「やっぱり!早く見せてよ!」ものを出すよう桜夜の袖をつかみ視線を送りながらお願いする。彼女のお願いに顔を逸らす桜夜。先ほどのしょんぼりとした表所を彼女に見せないように一瞬悩んだ後彼女に視線を戻し、紙袋の中から2つのものを取り出した。
桜夜が紙袋からものを取り出す間焔の頭の中では、(祭りで色々なもの買ってくるって言ってたから何が出てくるんだろう?焼きそば、たこ焼き、それともかき氷!…いやかき氷はさすがに無いか。うん)そんなことで埋め尽くされていた。それもそのはず焔には桜夜から事前に[祭りによってから来る。色々なもの買ってくるから期待してろ!]というメッセージが届いていたのだ。ワクワクする焔の前に紙袋から取り出されたものが目に映る。
「・・・サイダー?」
首を傾げる焔。彼女の目に映っているのは、桜夜の手にあるサイダー2本。桜夜の持つ紙袋を覗き込むが空っぽだった。「これだけ?」疑問を投げる焔。少しの沈黙の後桜夜が答えた。
「いや~あの~ホントは焼きそばとかりんご飴とか他にも色々あったんだけど、…その~受付で食い物全部没収されちまって…」頬を
「そっか~残念。でもありがとう!」焔はそう言って、桜夜の手からサイダーを一本取り笑顔で返す。彼女の一言に桜夜の表情は明るくなっていった。
「桜夜。開けて」サイダーを差し出しながら桜夜にお願いする焔。彼女からサイダーを受け取り、慣れた手つきで開けていく。
シュポッ! パァーン‼
サイダーが開く音と一発目の花火が上がる音が重なる。花火の音がサイダーの音を消し去る。そのどでかい音が2人を大きく刺激した。桜夜と焔2人は、ほぼ同じタイミングで右手側(扉とは反対の位置)にある窓のほうに視線を送る。
開かれていた窓。空から色とりどりの花火の淡い光が2人のいる部屋を照らす。桜夜の目が焔に向く。焔は花火に夢中だ。彼女の目に花火の光が映っているのが桜夜の目に映る。
「ッ!」声にならない声が焔の口から飛び出る。花火に夢中になっていた彼女の視線が桜夜のいるほうに戻る。
一本のサイダーが彼女の顔近くで映る。「はいよ!」サイダーを差し出す桜夜。少し意地悪した桜夜に焔は一瞬頬を少し膨らませるもすぐに笑顔でサイダーを受け取り口に運ぶ。
「美味しいよ!桜夜!」
シュポッ!
もう一本のサイダーが開く。桜夜も一口。
「ああ、うまいな!」薄っすらとした記憶が一瞬桜夜の頭をよぎる。
桜夜の様子に何かを感じた焔は、「?どうしたの?」
「いや。なんでもない。」焔にそう答える桜夜。
彼の左目に浮かぶ小さな
その後も桜夜と焔の2人は、この時のサイダーの味を心に落とし打ち上がる花火を楽しんだ。
どれくらい時間が経っただろうか。
桜夜は、ふと足からの違和感を感じる。そこに視線を送ると焔の手に握らている瓶から少しづつサイダーが流れているのに気づく。桜夜の視線が流れる出るサイダーから焔の顔に移る。彼女は桜夜の肩によっかかり、すやすやと吐息を立てていた。
眠っている。
眠っている焔の顔を見て受付での事を思い出す。
*
「桜夜君。焔ちゃんのことよろしくね」
「ああ、言われなくてもな!」
「あの子。この日をずっと楽しみにしてたみたいでね。いつもなら15時ごろにお昼寝するはずなのに今日はしてなかったから…」
「…わかった」
*
「焔…ありがとな。」
焔の手から瓶を取り、彼女を寝る体勢にしようとベットから動こうとする桜夜。
その時焔の口から言葉が漏れる。
「ん~桜夜。……き」
振り返り焔の顔を見る桜夜。しかし彼女は吐息を立てたままだった。桜夜は、空いてる手で
隠せてない彼の耳は、少し赤かった。
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