第31話「水族館」

午後1時頃。焔火は前面に"風林火山"、背面に"日ノ本一の兵"という文字の刻まれた白の半袖シャツに黒のチノパンというカジュアルな格好で渋谷駅の入口近くの壁に寄り掛かってスマホでUFCの試合を観ながら麗水の事を待っていた。そして服装が半袖という事なので当然腕に刻まれていたタトゥーは剥き出しになっていた。


身長186cm、筋肉質なガッチリとした体型、ツーブロックヘア、両耳にピアス、両腕に無数のタトゥー。端から見たら完全にヤバい奴である。そしてそれから15分程経った頃に焔火の前に麗水が現れた。


「ごめ~ん、待った~?」


麗水は前開けの黒パーカーにグレーのインナー、そしてデニムのショートパンツ、黒のショートブーツというカジュアルな服装に身を包みながら焔火に向かって申し訳なさそうな顔をしながら声をかけた。


「ああ、半世紀くらい待ったわ」


焔火はニコリと笑みを浮かべながら麗水に軽い冗談を言った。そんな焔火に対して麗水は言う。


「マジでめんご、実はさ~、ここに来る途中で年配女性からバッグをひったくた野郎と遭遇しちゃってさ~、追っかけてたら遅くなっちゃった」


麗水の発言に焔火は、やや驚きの表情を浮かべた。


「マジで?その後どうなったんだよ?」


焔火の問いに麗水は右手でピースを決めながら答える。


「ん?もちろん捕まえてやったよ、そしたら派手に暴れるもんだから左腕へし折ってやってその後に鼻に水流ぶち込んでやった、そしたらすぐに大人しくなったよ、んでその後は警察呼んで御用」


「へぇ~……退院したばっかだってのに無茶すんな~……でも中々の正義感、誠に感服するぜ」


年配女性を助けた麗水に対して非常に感心した焔火であった。そしてここで彼女にこれからの事を尋ねる。


「なぁ、ところでこれから何して遊ぶよ?」


焔火が聞くと麗水はニコニコとしながらパーカーのポケットに手を入れ出した。


「へへへ……じゃん!」


麗水はポケットから2枚のチケットの様な物を取り出して焔火に向かって見せた。


「ん?何それ?」


「アクア水族館のチケット!実は今日の朝に母親から貰っちゃってさ~、今からここに行こうよ!」


アクア水族館……今から10年前に渋谷区に出来た都内唯一のメガロドンやシーラカンスといった遠い昔に絶滅したはずの生物が見れる水族館である。


「おお~!俺水族館なんて小学5年生ぶりだわ~!いや、ていうかいいのかよ?俺なんかと行くのなんて、こういうのって普通彼氏とかと行くもんじゃねぇか?」


「そんな細かい事なんか気にすんなっつの!ほら!行くよ行くよ!」


「おっとっと?」


焔火の背中を押した麗水。そしてその後2人は水族館へと向かって歩いていった。

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