第10話「カッチカチやぞ」

「よっと」


上空から地面に向けて水を噴射しながらゆっくりゆっくりと下へと着地した水咲姫。そして地面にめり込んでいたタカシの元にソ~ッと近づいていき、状態を確認する。タカシはピクリとも動いていなかった。


「……一応加減はしたけど……もし死んでたらどうしよう……私捕まっちゃう?いや、でも正当防衛だし……ましてや私未成年だし……大した罪にはならない……よね?」


水咲姫は若干不安を感じながらも近くに落ちていた木の枝を拾ってタカシをツンツンと突いてみた。すると

「ああああああ!!!!」と叫びながらタカシは急に起き上がった。


「うわ!!」


体をビクッとさせて驚いた水咲姫。そしてタカシはそんな彼女を野獣の様な眼光でギロリと睨み付けた。


「こんの女(あま)~……!!やってくれるじゃねぇか……!!脳が揺れちまったぜぇぇ……!!景色が三重に見えるぜぇぇ……!!おおんゴラァァ!?」


タカシは怒りを露にしつつ、生まれたての小鹿の様に体をフラつかせながら立ち上がった。


「嘘……!?あれを喰らって立てるの……!?」


水咲姫は立ち上がったタカシを見て目をまん丸にさせて驚いた。実は彼女がこの男の脳天に放った水流は大人の牛を失神させる程の威力だったのだ。なので常人なら1週間は自力で立ち上がれないはずなのだが、この男は「いてて……よくもやりやがったな~」ぐらいのノリで立ち上がったのだ。まさに驚愕である。


「コイツ……化物!?」


水咲姫の頬からツタ~ッと冷や汗が流れ落ちた。そしてその一方でタカシの方は彼女に向かって身構えて臨戦態勢に入った。


「第2ラウンドいくぜおい!!タカシ流剣技"クロイツ・デス・ズューデンス・オランジェンザフト!!!"」


タカシは両脚をブレードに変化させて、その場でサマーソルトキックをした。すると三日月型の斬撃が発生し、水咲姫に向かって超スピードで飛んでいった。


(速い!!避けきれない!!)


回避は無理と悟った水咲姫は右手に水圧カッターを纏い、斬撃をキィンッ!!!とタカシの方向へと弾き返した。


「なにぃ!?クロイツ・デス・ズューデンス・オランジェンザフトを弾き返しただと!?」


タカシは驚いた。そして飛んできた斬撃をブレードで弾き返し、再び水咲姫の方へと飛ばした。


「くっ!!また!!」


水咲姫は戻ってきた斬撃をまた水圧カッターでタカシの方へと弾き返した。


「お前なぁ……!!」


タカシは呆れ顔で水咲姫の方へと斬撃を弾き返した。


「しつこいんだよてめぇ!!!」


水咲姫はキレながらタカシの方へと斬撃を弾き返した。


「とっとと喰らえやブスがぁぁ!!!」


タカシは激昂しながら水咲姫に斬撃を弾き返した。


「くっ!!このままやりあってても埒が明かない!!」


水咲姫は飛んできた斬撃を弾き返すのではなく、切断して消滅させた。


「なにぃ!?クロイツ・デス・ズューデンス・オランジェンザフトを消滅させただと!?」


タカシは驚いた。そしてその直後に水咲姫はバッと右手を正面に向けて、辺り一帯に霧を発生させた。


「ぬぅ!?視界が悪くなった!?水使いはこんな事も出来るのかぁ!!」


驚き、辺りをキョロキョロしだすタカシ。そして直後に後ろから人の気配を感じたので振り返る。するとそこには右手に水圧カッターを纏った状態の水咲姫がいた。


「い……いつの間に!?」


タカシが驚いた刹那、水咲姫は右手をタカシの胴体に振り落とした。彼女の目的はタカシを斬り裂き、出血多量で失神させる事だった。


キィンッ!!


「え!?」


斬りつけた直後に思わず声をあげた水咲姫。なんとカッターが弾かれたのだ。


「う、嘘!?鉄も真っ二つにする水圧カッターを弾くなんて……!!」


「くっくっく……残念賞でバイバイバイ」


タカシは笑いながら右腕をブレードに変化させ、それで彼女の胴体を斬りつけた。


「ぐっ!!!」


水咲姫の胴体から血がブシャッと吹き出た。


「もうちっとだけ続くんじゃ」


そう言いながらタカシはまた胴体を斬りつける。そして次は腕を斬りつける。その次は肩、その次は太もも、その次は脛、etc……。


「……ッッ!!!!」


全身を斬りつけられた水咲姫は全身から血を吹き出し、地面に倒れてしまった。


「フッフッフ……綺麗な血化粧だな」


タカシは全身を血で真っ赤に染めた水咲姫に向かってそう言った。そして彼女は薄れゆく意識の中でタカシに問いかける。


「ハァ……ハァ……今さらだけど……アンタの能力って一体……!?」


彼女が問うと、タカシは上着ポケットからメビウスの箱を取り出し、そこから1本タバコを取り出し、口に加えた。そしてズボンポケットから取り出したチャッカマンでタバコに火を点けた。


「ふ~……」


タカシは数分間喫煙を満喫した後に彼女に向かって答える。


「……俺の能力は全身のあらゆる部位をに変える事だ」


「鋼……!!」


「鋼って何か分かるか?鉄より硬い物質だぜ?」


「鉄よりも……!!」


「つまりよぉ~……俺にはどんな攻撃も通用しないって事だ、ハンドガン、ショットガン、マシンガン、ライフル、マグナム、ロケットランチャー、日本刀、鉈、チェーンソー、ヘビー級ボクサーのパンチ、それからお前の水圧カッターもな……要するに俺は無敵なのである」


(な、なんて奴……!!)


「さてと……そろそろフィナーレといこうや」


タカシは水咲姫の首を切断しようとブレードを構える。そしてその直後に彼女は右手をタカシの顔面へと向けた。


ビシャアッ


「ぶべら!?」


水咲姫はタカシの顔面に水流を放ったのだ。


「ペッ!!ペッ!!何しやがる!?鼬の最後っ屁ってか!?」


困惑するタカシ。すると直後に彼の腹からギュルギュルと音が鳴った。


「うう……!!??」


腹を手で押さえ、顔を真っ青にしたタカシ。


「お、お前……!!一体俺に何を飲ませた!?」


タカシの問いに水咲姫はニヤリと笑って答える。


「純水……」


「じゅ、純水だと!!??」


純水……飲むと下痢をする危険な水の事。


「てめぇ!!!なんてもん飲ませんだぁぁぁ!!!あああ!!!!腹がいてぇ!!!!漏れる漏れる!!!I gotta go to the bathroom!!!(私はトイレに行かなければいけない!!!)」


タカシは腹と肛門を押さえながらどこかへと走り去っていった。


「とりあえず……危機は免れた……」


水咲姫はタカシがいなくなった数分後にその場で意識を失ってしまった。そんな彼女を空に浮かぶ満月の光が照らしていた。

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