ガン・グラビティ

ゴミ箱

前編 始まりの弾丸

喧騒がうるさかった。


無数のサイレン

誰のかわからない怒号

子供の叫び声

散乱したガラスを踏み抜く音

すすり泣く音

建物を燃やす炎の音

仲間の警官の大声


冷たく震える手で警察拳銃を構える僕。

そして、目の前に立つ銀強盗実行犯の男。

右腕で人質の女性の首を抱きかかえるようにを絞め、左手で持っている拳銃を彼女のこめかみ当てている


奴は息を切らし、肩を大きく上下に荒く動かしていた。

顔には大量の汗を滴っている。

その汗は、近くで勢いを増す炎を煌びやかに反射させていた。


彼の目は僕を強く睨みつけ離さなかった。


僕はカサカサ乾いた口で言う。

「か、彼女を放せ!もう、やめるんだ!こんなこと!!」

奴は無言で拳銃を人質に押し付け直し・・・ トリガーに指をかけた。

心臓がさらに早まる。

口の乾燥も、手の震えも、全身の寒気も増す。


炎の熱のせいでバリン!と音を立て窓ガラスが砕ける


ど、どうする・・・

まだ、奴の後ろには人が多数いる。

彼女が死んでも、次は後ろにいる人から一人選んで人質にすればいいと考えているのだろう・・・

つまり、彼女が殺されるのは時間の問題・・・

どうするどうするどうするどうする

撃つしか、ないのか?

外れたらどうする?

外れれば奴か彼女が死ぬかもしれない。

だが、ここで何もしなければ、彼女は・・・

ならば、もう

撃つしか、ない。


「火事です。火事です。」と無機質な警報音が鳴る。

炎の熱を感知したスプリンクラーが大量の水をジャーと降り注がせ

あたりに水たまりができ始めている。


僕は強く構えなおす。拳銃には水滴が付き始めた。

濡れて冷え切った指を引き金にかける。もうほとんど指に感覚はない。

奴の左肩に狙いを定める。

照準が合う。

息をのむ。

強すぎる脈拍が手元を狂わせる。

指が震えだす。


ハァ、ハァ、ハァ、

大丈夫だ。落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け!

はっ、はぁああああぁああああぁぁ!!!!



引き金を強く押し込む。



刹那。



ほんの一瞬、たった一瞬、奴と目が合う。



さっきまで僕を睨みつけていた眼は

誰かに助けを求めているようだった。



バン。



、、、、、、、




、、、、、




、、、







解放された女性は大声で泣き叫びながら、警察に保護されていった。

彼女は「ありがとうございます!ありがとうございます!」と何度も同じ言葉を繰り返している。相当安堵したのか足元はおぼついていなかった。

そんな状況を片目に、スプリンクラーのせいでずぶ濡れた僕はパシャパシャと水を踏みながら歩き進る。ゆっくりと。

僕は彼の隣で止まり、見下ろす。


彼は仰向けに横たわっていた。


目を、見開いたまま。


僕の放った弾丸は、狙い定めていた左肩から少しずれ左胸に命中し

大量の血しぶきとともに倒れたのだ。

既に彼は息をしていなかった。

スプリンクラーは、もう止まっている。


膝の力が抜け、水たまりに両膝から崩れ落ちた。

まるで正座をするように。


濡れた両手を見る。

もう持っていないはずなのに、僕の手には拳銃の重みだけが残っている。


「そんな、、つもりは、、、なかったんだ、、、」


びしょびしょに群れた僕の髪からはポツポツと水が滴っていた。



サイレンの音

水たまりを踏み抜く音

消えかけた炎の音

仲間の警官の声


周りはただ喧騒に包まれていた。



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