紫鏡
20歳の誕生日に
私たちの中で一番最初に大人になったはずだったのに。
3月。
私たちは8年ぶりに再開した。
小学校の時にとても仲の良かった4人組。
全員揃うのは卒業以来だった。
「私たち次会うの成人式じゃん。10代最後に会おうよ」
そんなことで、久しぶりに集まった。
ランチして、カラオケ行って、カフェで甘い飲み物を飲みながら、今の事や昔の事を色々話した。
「この中で一番誕生日早いのって彩加だよね」
「そうそう、来月」
「もーすぐじゃん!」
そんな事を楽しく話していたのに、彩加は死んでしまった。
夜道を歩いていて刺されたらしい。
警察はストーカーではないかと言っているようだが、犯人はまだ捕まっていない。
お葬式に行くと、次は成人で、と言って別れた2人がいた。
再会がこんなにも早く、こんな形になるなんて。
3人で、この不幸な友人を思って泣いた。
6月。
雨が続く嫌な季節。
雨雲は嫌な知らせも運んできた。
「
とても信じられなかった。
なんで私たち4人のうち、連続で2人も。
その上、麗奈も誕生日の直後に死んだのだ。
「どうして…」
その時、私はあの言葉を思い出した。
麗奈のお葬式で、また
望まない形での再会。
仲の良かった友達は、半分になってしまった。
お葬式の帰り、私は由衣に気になっていたことを聞いた。
「ねぇ、これって呪いだと思う?」
由衣は眉をひそめた。
いくら友達でも、葬式の帰りにこんなこと言うのは不謹慎だと思う。
でも私は気になって仕方がなかった。
「呪いって?」
由衣が聞き返す。
「
9年前。
私たちの小学校では、他の学校と同じように怪談が流行っていた。
私たち4人も例外ではなく、毎日誰かが仕入れてきた怖い話を披露していた。
彩加、麗奈、由衣、私。
一番怖い話を持ってこれるのは誰かを競っていた。
「紫鏡って知ってる?20歳になるまでこの言葉を覚えていたら呪われて死んじゃうんだって」
誰が持ってきた話かは覚えていない。
でも、数々の怪談話に埋もれ今まで忘れていた。
まさか、この言葉を覚えていたから彩加も麗奈も死んでしまったのか。
私は泣きながら由衣に訴えた。
由衣は青ざめた。
呪いは本物だったのだ。
「た、確かにそうかもしれないけど、美羽は呪いが本物だって言いたいの?」
「だってそうとしか考えられない!2人とも誕生日の直後に死んでるんだよ!?それ以外説明が…」
誕生日順に呪いが発動している。
このままいけば次は…。
「美羽、誕生日いつだっけ…」
由衣が重い沈黙を破った。
「11月…」
「私は2月だから、次は…」
私だ。
手先が冷たくなり、呼吸の仕方がわからなくなりそうになる。
私も、死ぬんだろうか。
小学校の時の噂話のせいで。
「なんとか!なんとかするから!」
由衣が私の両肩をつかんだ。
由衣の真剣な顔に私ははっとさせられる。
「回避する方法とか調べるから!2人とも助かるように!」
私は泣いていた。
「誕生日の日は一緒にいよう?それまでは2人ともきっと無事だと思うから」
友の存在をこれほど心強く思ったことはなかった。
由衣の胸に縋りついて泣き崩れた。
私たちは再会を約束し、その日は別れた。
11月。
あの日以来、私は取りつかれたように呪いから逃れる方法を調べた。
紫鏡の話は、ネットで何件も何件も出てきた。
都市伝説、本当にあった怖い話、学校の怪談。
どれも創作の話ばかりで、具体的な解決方法は出てこなかった。
そして、私の誕生日がやってきた。
その日は、むやみに外出しない方がいいだろうということで、一人暮らしの由衣の家で過ごすこととなった。
由衣は、せっかくだから、とケーキを用意してくれたが、私は食べる気がしなかった。
「解決方法なんて、何も見つけられなかった…」
由衣は私に温かい紅茶を出してくれた。
彼女の心遣いに少しだけ気が休まる。
「実はね、1つだけ回避する方法が見つかったの」
私はその言葉に飛び上がった。
助かる方法が見つかった!
「ここから1時間くらいの山に神社があって、そこにお参りすれば呪いを回避できるらしいの」
「…そんなの、調べても出てこなかった」
由衣が古い本を取り出した。
「私ね、ネットじゃなくて本とかの文献で調べたの。とても古い本なんだけど、この本にその神社の事が載ってたの。今でもご利益があるのかはわからないけど」
「それでもいい!」
私は由衣に縋りついた。
もう友人が2人もいなくなっているのだ。
可能性があるならやってみるしかない。
私たちは電車とバスを乗り継いで、その神社へ向かった。
2時間後。
私たちは獣道を歩いていた。
もう山に入ってしばらく経つのに、神社はまだ見つからない。
「由衣、場所わかるの?」
「うん。もうちょっとのはずなんだけど、あっ!」
由衣の視線の先に小さな祠が見えた。
「ここなの…?」
「そのはず。ほら、早くお祈りして」
私は促されるまま祠の前にひざまずき祈った。
どうか、この呪いから私を解放してください。
次の瞬間、側頭部に衝撃が走った。
目を覚ますと、辺りは薄暗くなっていた。
私は倒れて気を失っていたらしい。
視界の端にはさっきの祠が確認できる。
私は手足に違和感を覚えた。
縛られている…?
自由に動かせない。
「起きた?」
それは由衣の声だった。
「…由衣、何してるの…?」
由衣は手に金槌を持ち、微笑んでいた。
「何って、美羽の願いを叶えてあげようと思って。怖かった?」
「怖かったって…どういう事?由衣が手足縛ったの?外してよ!」
私は身をよじって叫んだ。
目の前にいるのは由衣のはずだが、あの子はこんなことして笑っているような子じゃない。
「手足だけじゃないよ?気づいてない?」
「え?」
私はしばらく考えたあと、最悪の結末にたどり着いた。
「まさか、彩加と麗奈を…」
由衣は楽しそうに笑い声をあげた。
「あの二人も覚えてたよ?紫鏡の話。だから呪われたんだよ」
私は頭が真っ白になった。
「どうして…?」
「どうしてって、これは美羽の為なんだよ?大好きな美羽の為に私頑張ったんだよ?だって美羽言ってたじゃん」
「私が何を…」
その瞬間思い出した。
紫鏡の話を聞いたあの日、学校で私が言った言葉を。
『そんなの全然怖くないよ。
一生に一回でいいから本物の幽霊とか呪いが見てみたい』
「見たかったんでしょ?」
私の言葉が呪いとなっていたのだ。
「一生のお願い、聞いてあげるね」
目の前が真っ暗になった。
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