第49話
翌日の学校は、一時限目に
村山の件では現場に居合わせていた守谷とキイに、噂好きな生徒があれこれ
「だから本物はその意識を利用し人を欺く。目立たなくなったって既に存在しているし、望んだ存在感で在れないと不都合が起きるから」
今年の梅雨は今日で終わりだと言わんばかりに降り注ぐ豪雨の中、背を向けてビニール傘を差すシーは、いつもの無表情を貼り付けているだろう声で切り出した。
「そりゃそうだよね。心霊スポットがいい例。人の出入りが増えたら荒らされちゃうし、そこで出ると語られてる幽霊とはそこじゃないと現れない。もし頻繁に荒らされるようになって、近隣住民の治安を心配する意識が高まったら、取り壊されちゃうかもしれない。その幽霊にとっては、唯一存在出来る場所なのに。オカルト好きの間では、落書きのあるスポットに幽霊は出ないし、本当にヤバいのは落書きの無いスポットだって定説がある。本当にいる場所には、行ったとしても痕跡を残そうなんて思わないんだって。ふざける余裕が無いから。うぐいす旅館で分かった気がする。外壁には落書きがあるのに、中はどれだけぐちゃぐちゃでも、落書きは一つも見つからなかったから。悪戯で荒らされてるだけとも言えるけれど、昨日の私達みたいに、立ち入ったけど怖い目に遭って必死に逃げ出した痕跡かもしれないとも言える」
豪雨の中というのに普段の調子で話すから集中しないと聞き逃しそうだし、集会直後の待機時間中にも構わず校庭に連れ出されたと思ったら、ふらふら歩きながら要領の得ない話をされて困惑する。
濃い雨の匂いを胸一杯に吸い込むように、大きく嘆息してから尋ねた。
「……てっきり電話の件だと思って付いて来たんだが」
「そう言うとバックレないと思って言った」
「つまり嘘かよ」
「この話を終えた頃には分かるよ」
「もう終わりでいいんじゃねえか」
肩を落としそうになるのを堪えて言い聞かせる。
「うぐいす旅館を出てからは何も起きてねえ。キイもモトも無事だし、肝試しに行ったあいつらだって、怪我はしたけれど精神がおかしくなったとは先生も言ってなかっただろ。もう日常に戻り始めてるんだ。考えても分かんねえ事とは実在するって、お前もよく分かっただろ? 集会前にキイが昨日の夜、自分がどのタイミングでバイト先を抜け出したのか店長に防犯カメラで調べて貰ったって話してくれたけれど、偶然録画機能が故障してて、何も撮れてなかったって言ってたじゃねえか。考えたって証拠を出せねえんじゃ何も証明出来ねえし、その考えがたとえ正解だったとしても、意味を持つ事も出来ねえよ。そもそも幽霊だのオカルト相手に、人間の考えなんて通じねえんだから」
「そうだね。だからこの話とは最初から、何の意味も持ち得る事の無い妄想みたいなものかもしれない」
俺はもう肩を落とした。
「……なら何でこんな所で話してんだよ。先生に見つかったら面倒だぞ?」
「私が話し終えるまで誰にも見つからないと思うよ」
「んな訳あるか」
「ある」
「その根拠の無い自信もオカルトぽいぞ」
「あんたの方がオカルトぽい」
依然俺へ向き直らないシーは足を止めた。
俺もほぼ同時に立ち止まる。
無表情を貼り付けているだろう声音なのに、言葉遣いに怒っている時の「あんた」が含まれているちぐはぐさに気味が悪くなって。
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