第14話
キイは目を丸くして俺へ振り返る。
「えっ? ああまあ、クラスは違っても友達だからね。他人だったら気付かなかっただろうけれど、守谷ちゃんとは結構話すし」
「助かったよ。お陰で守谷も正気に戻ったし」
キイは照れ臭そうに笑った。
「へへえ? いやいや彼氏を苗字呼びとか違和感ヤバヤバで誰でも分かるってえ。それ以上にヤバい事だらけだから、あれぐらいしか気付けなかった説も全然あるけど。私ユウくんとかシーちゃんみたいにクールじゃないし頭もよくないしぃ」
「そんな事
「そうかなあ? まあでも、一番気になる事が別にあっただけ……。ってシーちゃん何ボーッとしてるの冷めるよって言ったでしょお!?」
キイは全く食事に手を着けていないシーに目をひん剝いて驚くと、ジュースの入った紙コップをシーの
途端シーは目をかっ開き、首を絞められたような声を漏らして飛び上がる。……確かキイが頼んだドリンクはコーラだったがもじもじしながら店員に、「出来ればいいんであの、氷多めでお願いしていいですか……? 猫舌なもんで……」って頼んでいた。店員は快くオーケーしてくれていたので今シーに押し付けらえたコーラとは、通常より氷たっぷりな、それはキンキンな一撃になっただろう。
シーは余程驚いたのか涙目になりながら座り直し、胸に手を当て呼吸を整えている。珍しい。普段なら即座に報復の拳を振り上げている所だが。
キイはシーへ向き合うように座り直すと大真面目に言った。
「モトくんを助けるんでしょ」
キイへ恨みがましい目を向けたばかりのシーは息を呑む。
キイは力強く続けた。
「守谷ちゃんはもう大丈夫だし、村山も病院に行ったからもう追っかけて来ないし、考えても分かんない事を考えても時間が勿体無い。なら、私達がやるべき事って一つじゃん。まだモトくんからのお願い、全然果たせてないんだから。友達を見捨てるなんて絶対やっちゃいけないし、幽霊とか心霊写真より有り得なくない?」
そうか、モトが心配という気持ちが常に一番だから、俺やシーが動揺している時もキイは気を保っていられたのか。守谷への注意力は健在だったのも、親しい人間だからという身を案じる思いが混乱を上回っていたのかもしれない。そうだこいつ、ビビりながらもモトから送られた写真をちゃんと調べようと俺に相談して来たし、友達の為なら怖くてもそう簡単には投げ出さない。
圧倒されたシーは、ぽつりと呟く。
「……ごめん」
「怒ってはないよ」
キイは困ったように笑った。
「私夕方からバイトだから、それまでにちょっとでも進展させときたいって焦りはあるけど。もー絶対バイト中でも上の空だよこんな時に金なんて稼いでる場合かってお小遣い減るのもヤバいから行くけどさ」
俺はおどけるキイについ吹き出す。シーも本当に小さくだが、確かに笑った。普段は殆ど感情を表に出さないが、笑うとあどけないのでかなり幼く見える。
俺達の態度にキイもにかっと笑うと、食事を再開しながら切り出した。
「でー……。これからどうすればいいんだっけ。モトくんから送られた写真は本物って証明されたけれど、シーちゃんを肝試しに誘おうとしたのは
キイは自分が話している言葉の異様さに、自信なさげに俺達を見た。
俺はハンバーガーを食べながら頷く。
「ああ。モトからの頼みは、あの写真が軽音部の幽霊によるものなのか調べるって事だから、無加工の本物だって分かっただけじゃ何も終わってねえ事になってるし……。そもそも、あの写真を撮るきっかけになってる肝試し周りの情報が意味不明過ぎる。村山も守谷も、冗談で済ませられるラインは
キイはハンバーガー片手にポテトをぱくつきながら身を乗り出した。
「そうそれ! 二人とも絶対おかしいよ! 何で急にあんな風になったのかも全然分かんないし!」
「全くだよ。井ノ元がシーを誘おうとしたのは
「んー……。シーちゃんを誘おうとした人についての情報が食い違ってるのは、足立が守谷ちゃんにバレるのを嫌がったからとか? もし誰かに肝試しについて訊かれても、他のメンバーには自分じゃない体で話すように調子を合わせておいたとか。井ノ元も、自分が肝試しに行こうって段取りをしたって言ってたけれど、段取りって言い方が何か遠回りに聞こえない? 段取りって準備の事だし、俺が皆に行こうって誘ったって言い方をしなかったって事はつまり、言い出しっぺは別の人なのかなってちょっと考えてた。守谷ちゃん曰く、足立はおきつね様を怒らせたから、なるべく多くの人を呼んで許して貰わないといけないって言ってたでしょ? シーちゃん一人で大勢とは言えないし、じゃあ言い出しっぺは足立で、それに乗っかったのがさっきのあの四人で、その延長でシーちゃんも呼ぼうとしたのかなー……って。でも、自分が直接シーちゃんに声かけたら守谷ちゃんにバレてヤバいから、そこは久我と村山に頼んだんだとしたら、一応辻褄は合う。まあ、合うから何か分かるって訳でも無いけどさ。つまりユウくんの中では、この件はまだ何も進展してないって印象?」
「進展してない所か分かんねえ事が増えたって印象だよ。ぶっちゃけ検出サイトの結果より、守谷や村山の態度とか、おきつね様がどうたらって線の方が信じられるぜ。あんなの理屈じゃねえよ」
「理屈を付ける事は出来る」
コーラを一口飲んだシーが言う。落ち着きを取り戻したのか、いつもの無表情に戻っていた。俺とキイが尋ねるように目をやると話し出す。
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