第45話 五味民雄の述懐 十九コマ目

 俺が捕捉を加えるのはこの部分で最後だ。あとは十文字の手記に全部書いてある通り。事実だよ。ここから先に書いてあることは何から何まで全部な。まったく、よく覚えてたもんだ。感心するよ。おかげで俺は嫌なことを思い出さなきゃならん羽目におちいった訳だが。


 本当なら金を払わせるとこなんだがな、まあ十文字の姪っ子じゃそういう訳にも行かねえだろう。ただし、次にここにくるときは仕事を依頼しろ。こっちは年がら年中金がなくてピーピー言ってんだ、ボランティアのできる立場じゃねえんだよ。何かあったらよろしく頼むぜ。


 十文字はいまアメリカか。フン、元気なこった。まあ頑張ってくれ、俺がそう言ってたって伝えとけ。さあ、最後に何が聞きたい。聞きそびれるなよ。




「カウンセラーの入地さんですが、このときどうして一緒に行く気になったんでしょう」


 剛泉のそれは結末を知っていればこその問い。五味はイタズラっぽくニヤリと笑った。


「行こうが行くまいが結果は同じだ。頭のいいヤツだったからな、どうせ同じなら結末を見届けたいって思ったんだろう。まあ、開き直ったとも言えるがね。これで最後の質問か。他にまだあるか」


 十文字茜は少し思い詰めた表情で五味にこうたずねた。


「あの、失礼ついでにもう一つだけ、最後にうかがってもいいですか」


「何だ、まだあんのかよ。言ってみな」


「当時の多ノ蔵理事長と、五味さんの個人的な関係についてお聞きしたいんですが」


 すると五味は苦笑を浮かべて、しばらく遠い目をしていた。


「質問するなとは言わねえけどな、学園の校内新聞に書ける内容じゃねえぞ」


「え……」


 しばらく意味がわからず目を丸くしていた十文字茜だったが、不意にその内容に思い至ったのか、顔面を真っ赤に紅潮させて冷や汗を吹き出した。


「す、すすすすすみませんでした!」


「わかったら起立。出口に向かってレッツゴーだ」


 しかしまだあたふたしている十文字茜を横目に、剛泉部長は静かにソファから立ち上がって五味に頭を下げた。


「お忙しいところ、ご協力ありがとうございました」


「忙しくはないけどな、でもこの件ではもう来るな。これ以上何も出ないぞ」


「特集ムックが完成したら、こちらにも送らせていただきます」


「おう、期待しないで待ってるよ」


 こうして、剛泉部長と十文字茜は五味民雄の事務所を去った。

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