第18話 五味民雄の述懐 七コマ目

 ケースバイケース。何とも都合のいい言葉だよな。だが居るんだ、こういう要領のいいヤツは。間近に見ると唖然とするしかないんだが、まあ、俺なんかよりは世の中を生きやすいんだろう。これも個性というか才能なのかも知れん。


 俺は要領が悪いから、つまらんことをいちいち考えちまう。奈良池の殺人事件が学園七不思議に関係づけられている、こじつけられている、犯人は意識しているはずだ、と聞いても、ああなるほどそうですかとは思えない。


 確かに桜に赤いスプレーをかけたのは故意だろう。何かの偶然が重なってついうっかり、というのは無理がある。だが踊る人体模型はどうだ。アレは本当に踊っていたのか? もしくは踊っているように犯人が見せかけたのか? 単なる偶然という可能性は本当にないのか。


 ただし、こういう自分の考えを俺自身が真に受けるのはマズいんだ。俺はオカルトが嫌いだ。大嫌いだ。だから当然、学園七不思議も嫌いだ。こんなものに関わり合いになりたくないって嫌悪感が常にある。それは思考にバイアスをかける。俺にとって自分の考えほど信用ならんモノはないんだよ。それはそれ、これはこれで切り分けられたら便利なんだがな。


 とにかく、一度頭を冷やしてニュートラルにする必要がある。その前にまず夏風走一郎を教室まで送り届けなきゃならない。いくつも並行して処理できるほど俺の頭脳は優秀じゃないから、一つ一つ確実に片付けて行かにゃならん。ああ。面倒臭え面倒臭え。このときの俺はそれしか考えてなかったような気がするな。




「どうして五味さんはそんなにオカルトを目の敵にするんですか」


 十文字茜の素朴な問いに、五味はシンプルに答えた。


「知るか。生まれつきだ」


「でもそんなんだと、ワイドショーの『今日の星座占い』とか見てられませんよね」


「見る訳ねえだろ。あんな百パーセント嘘八百のデマを公共の電波で流せる神経が俺には理解できんね。何が今日のラッキーカラーだ。ラッキーアイテムだ。脳みそ腐ってんのか。たとえば、もし万が一仮に運命の流れなんてモノがこの世に存在したとしよう。しかしそれが服の色だの持ってる小物だのでいちいち変わってたら、流れが流れになんねえだろう。運命ってのはため池か何かなのか。それじゃ誰の人生にも影響なんぞ与えられないわな。なら運命なんてモノは存在しないし、自動的にラッキーカラーもラッキーアイテムも効果なんぞないってことになるんだよ。星座も干支も血液型も本質的に何も変わらない。オカルトなんぞ百害あって一利なし。とっとと撲滅されりゃいいんだ」


 まさかここまでオカルト嫌いをこじらせた大人がいると思っていなかったのだろう、十文字茜も剛泉部長も唖然とするしかなかった。しかし沈黙してばかりもいられない。十文字茜は改めて手記を五味へと差し出した。


「続き、お願いします」

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