第038話 神様


 僕達は学校を出ると、歩いて神社に向かうことにした。

 神社は学校の裏山の上にあるが、普通に道があるため、学校から出てすぐのところにある坂を上っていく。

 裏山と言ってもそんなに高い山ではなく、せいぜい数十メートルなのですぐに坂を上り終えた。


「相変わらず、ぼろいにゃ」

「改装とかしないんですかね?」

「僕の時よりぼろいね」

「俺の時ももうちょっときれいだった」


 僕達の正面には鳥居が見えており、その先にはぼろい社が見えていた。


「行ってみるにゃ」

「そうだね」


 僕達は鳥居をくぐると、社の方に向かって歩いていく。

 周囲を見渡すと、錆びたブランコもあり、悲壮感がすごかった。


「エロ本スポットだったんだけどなー」

「確かにたまに落ちてたにゃ」

「しかし、ぼろすぎて怖いな。確かに夜に来たら肝試しになりそうだ」

「でしょ。めっちゃ怖かったですよ」


 僕は無理だな。

 怖いのが苦手だもん。


 僕達は歩いて、社の前まで来ると、社を見る。

 社はぼろいが、一応、手入れはされているようで朽ちているわけではない。

 それに社の前には賽銭箱も置いてあり、この賽銭箱はきれいだった。


「皆、ここに来たことがあるんだよね?」

「まあにゃ。大抵の生徒は一度くらいは来たことがあるんじゃないかにゃ?」

「だろうな。俺はここで蝉取りをしていた」

「俺もそんなもんっすね」


 一応、これも共通点になるわけだ。


「よし、祈っておこう」


 僕は財布から奮発して100円を取り出すと、賽銭箱に入れ、目を閉じて両手を合わせた。


 神様ー、僕を男に戻してください。

 そして、カナちゃんと永遠の縁を結んでください。

 エッチしたいんです。

 ××××してほしいんです。

 これまでやられたことをやり返して、卑猥な言葉を言わせたいんです。


『ゲスな要望が多すぎる。あと、100円ではなく、1万円を寄こせ。くれるって言っただろ』


 ん?


「おい、ニャー子、人の願いにケチつけないでよ」


 僕は目を開けると、ニャー子を睨む。


「お前は何を言ってるにゃ?」

「ん? ニャー子じゃないの?」


 じゃあ、社長?

 それともチヒロっち?


「いや、誰も何も言ってないが?」

「幻聴っすか? 怖いですよ」


 はい?


「………………」


 僕は財布から1万円札を取り出すと、賽銭箱に入れる。


「は? お前、バカにゃ?」

「1万円はさすがに入れすぎだろ」

「お金持ちっすねー」


 僕は3人を無視して、再び祈る。


 神様ー、僕を男に戻してください。

 そして、カナちゃんと永遠の縁を結んでください。

 孕ませたいんです。

 懇願してくるまで攻めたいんです。

 ×××を攻められて情けない声を出してしまったお返しをしたいんです。


『だからゲスいぞ…………まあ、戻してやらんでもないが、そこで土下座しろ』


 ん?

 なんで?


『は? お前、忘れたのか?』


 いや、何が?


『…………ちょっと待っておれ』


 声が聞こえなくなったので目を開けた。


「ねえ? 聞こえてた?」


 後ろを振り向き、3人に確認する。


「はい?」

「何が?」

「エロミ姉さん、本当にどうしたんです?」


 あれ?


「いやさ…………」


 僕は途中で言葉が止まってしまった。

 何故なら、後ろからバンッという音が聞こえたからだ。


 僕はゆっくりと振り向き、社を見る。

 そこには黒い髪をした白装束の少女が立っていた。


「誰?」

「子供?」

「でも、なんか……」


 チヒロっちが言いたいことはわかる。

 目の前の子供はどう見ても子供なのに何故か、子供と思えないのだ。

 というか、人とは思えない雰囲気がある。


「さて、話を聞いてやろうか」


 少女は浮き上がり、賽銭箱の上に座った。

 少女は本当に賽銭箱の上に座っている。

 というか、宙に浮いたまま座っている。


 手品じゃないなら人外確定。


「おばけ」

「幽霊にゃ」

「妖怪だろ」

「いやいや、妖精ですよ」

「…………お前ら、わざと言ってろだろ」


 うん……


「神様でしょうか?」


 ドッキリでないなら社から出てきたということはそういうことだろう。

 何しろ、さっき聞こえてきた声と一緒だし。


「うむ! そうだ!」

「1万円を返して」


 やっぱりもったいない。


「なんだ? 戻りたくないのか?」

「戻れるんです?」

「お前ら次第だ」

「社長、お金!」


 僕は金持ちの社長にお願いする。


「いくらだろうか?」


 社長が財布を開いた。


「いや、いらんわ! いや、いるけど……」


 どっち?


「あのー、神様、ですかね? よくわからないんですが、僕達を女性に変えたのはあなたですか?」


 チヒロっちが一生懸命言葉を選んで聞く。


「うーん、まあ、そうなるかな」


 犯人はこいつか……


「なんで?」

「お前らの願いを叶えてやった。かわいい氏子の願いを叶えてやろうと思ってな」


 願い?

 というか、ウチってこの神社の氏子なの?


「女になりたいなんて願ったことがないんですけど……」

「俺もない」

「タマも願ったことはないにゃ」

「俺もっす」


 僕達はすぐに否定する。


「いやー、願ったぞ。まずはエロミ、お前は人生を華やかにしてほしいと願った」


 神様にエロミ呼ばわりされてる……

 僕、メグミなんだけど。


「それがカナちゃんと付き合えたことじゃないの?」

「いや、それとこれとは別だ。カナちゃんと付き合えたのはお前の普段の気配りや優しさのおかげだろう。えらいぞ」


 えへへ。

 僕の力だ。


「あー、1万円ってそういうことか」


 カナちゃんと付き合えることになった時、賽銭箱に1万円を入れるって思ってたわ。

 完全に忘れてたけど。


「そういうことだ。次に社長な。お前は自分の力で自分の望みを叶えた。だが、それで人生の目標がなくなった。だから次の人生を探していたお前にプレゼントだ」

「ハァ? まあ、そうですけど、これが? いらないプレゼントです」


 社長は納得いってないようだ。


「次にチヒロっちな。お前はフラれた女を引きずりすぎ。だから気分転換だな」

「はい?」

「今なら自然に仲良くできるぞ。良かったな。仲良くなってもう一回アタックだ」

「いや、クラスが離れてますし、女子になったところでどうにかなる問題ではないですよ」

「最後はタマな」


 神様がチヒロっちを無視した。


「タマは何にゃ?」

「友達とも家族とも縁を切ったお前が可哀想だったから仲間を作ってやった。喜べ」

「タマだけなんかおかしくない!? 巻き込まれ感というか、ついで感がすごいにゃ!」


 うーん、微妙。


「神様、僕らの願いを叶えたことはわかりましたが、なんか変じゃないです? 全然、叶えてないというか、おかしいです」


 まず女にする必要がない。


「それはそうだ。これは罰だからな」


 罰?

 天罰かな?


「なんで?」

「エロミはナチュラルクズだからダメだな。お前らはあの時のことを反省したか?」


 神様が他の3人を見る。


「………………」

「………………」

「………………」


 3人は顔を見合わせると、同時に首を傾げた。


「…………お前らもか」


 いや、本当にわかんない。

 僕らが何をしたんだろう?

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