第50話:合衆国政府大統領。

 合衆国の混乱は中々収まらず、二転三転した。

 合衆国政府大統領がロシアに送った、占領政府要人による不正犯罪が次々と明るみになり、関係していた合衆国政府高官まで次々と告発逮捕された。


 この状態で人権団体が激しく告訴を繰り返したので、市民権を代価にしての冒険者募集が続けられなくなった。


 告発逮捕を免れた合衆国政府高官の中は、冒険者の代わりに軍を投入しようとする者もいたが、ロシア軍の失敗を忘れない者もいて、軍の投入は見送られた。


 残されたのは、莫大な参加報酬と討伐報酬を提示された合衆国内の冒険者だけだが、彼らも弾除けや時間稼ぎの下級冒険者がいない状態での参加は拒否した。


 海千山千の冒険者達は、莫大な参加報酬だけ手に入れて、市民権欲しさの冒険者の半数が死んだ時点で、さっさと逃げる気だったのだ。


 軍や冒険者の常識からいっても、参加人数の半数が死ねば作戦は大失敗だ。

 味方を見捨てて逃げても非難されないし、参加報酬も渡される。


 半数が死んだ時点で逃げれば、最終的には8割の参加者が死んでいたはずだ。

 こんな状態で生き延びた軍人や冒険者を非難できる者はいない。

 それが例え最初から仲間を見殺しにして逃げる気の悪人だったとしてもだ。


 合衆国政府は苦境に陥っていた。

 大統領の考えた作戦が承認され、議会によって莫大な予算までつけられたのに、作戦を発動する前に政府高官による不正と犯罪で実行できなくなったのだ。


 合衆国国民からの信頼が地に落ち、中華を始めとした国連加盟諸国からは叩かれ、世界の警察、自由と平等の盟主という看板に泥を塗ってしまった。


 大統領と政府、政権与党は次の選挙を考え、何としてでも挽回しなければいけない状態となった。


 最初に行ったのは、ロシア占領政府役人の総入れ替えだった。

 事前に身体検査をした清廉な者たちを送って、占領を続けようとした。

 だが、人権団体の調査は政府の身体検査をはるかに超えていた。


 新たに送った役人が隠していた不正と犯罪を次々と証明した

 米国内だけでなく世界中に広めた状態で告発し、逮捕されるようにした。

 特に致命的だったのは、未成年に対する強制性交だった。


 更にパワハラとセクハラを行った者が続々と告発逮捕されていった。

 現地モスクワの女性に、政治権力を使って性的強要を行った証拠を世界中に広められた事で、合衆国政府大統領は国連で弾劾される事になった。


 合衆国政府大統領は、常任理事国の権力を使って全ての告発を退けた。

 だが、このような状態では次の選挙で立候補もできないし、政権与党が別の候補を出したとしても惨敗する。


 いや、それ以前に、現役大統領が逮捕され実刑を受けるかもしれない。

 逮捕実刑を免れたい合衆国政府大統領は、考えつく全ての手を打った。


 不幸中の幸いではないが、ビキンダンジョンのモンスターを討伐するための予算は、莫大な額が手つかずで残っていた。


 全く違う事には使えないが、手直ししたビキンダンジョンのモンスター討伐に使うのなら、改めて議会に承認を受ける必要はなかった。


 合衆国政府大統領は、ビキンダンジョンのモンスターを討伐する予算500億ドルで、僕の家にモンスター討伐を依頼してきた。


 自分たちだけの依頼では断られると思ったのか、日本政府にまで圧力をかけ、討伐依頼金500億ドルを免税にさせた。


 更に国際ダンジョン協会にも圧力をかけて、合衆国政府からの依頼金とは比較にならないが、30億ドルの予算でビキンダンジョンモンスターの討伐を依頼させた。

 合計530億ドルがもらえる事になった。


 国際ダンジョン協会が僕の家に与えると言った利益はお金だけではなかった。

 討伐に参加した冒険者は、これまでにない新たな階級、SS級に昇級させると言うのだから、合衆国の権力の大きさを改めて実感した。


「おばあちゃん、この依頼は受けた方が良いのかな?」


「ここまで大きく美味しくなったのなら、直ぐに受けても良いのだが、どうせならもう少しもらいたいね」


「まだ何か手に入れようと思っているの?

 手に入る宝物の価値は高い方が良いけれど『欲をかき過ぎたら命を失う』と教えてくれたのはおばあちゃんだよ?」


「その通りだけど、ギリギリ命を失わない境界を見極めるのも、トレジャーハンターに必要な資質だとも教えただろう?」


「うん、覚えているよ、まだ十分もらえる状態なの?」


「そうだよ、まだまだ要求が通る状態だよ。

 我が家が安心して入れるプライベートダンジョンが、もう1つ2つあってもじゃまにはならないよ」


「ビキンダンジョンを家のプライベートダンジョンにするの?」


「ビキンダンジョンは我が家でも手に負えなくなる可能性がある。

 プライベートダンジョンがスタンピードを起こしたら、我が家が賠償しなければいけなくなるからね。

 手に入れるのならウラジオストクダンジョンとハサンダンジョン、ポセロク・トゥリ・ログダンジョンとイヴァノヴァ・カザケヴェチェヴォダンジョンだね」


「全部中華や北との国境銭付近にあるダンジョンだよね?」


「ああ、国境近くのダンジョンは色々と面白い事になるのさ。

 特にプライベートダンジョンだと、欲の皮の突っ張った奴がやってきて、思いがけないお宝を落として行ってくれる」


「おばあちゃん、悪い顔をしているよ」


「竜也も早くこういう顔つきにならないとね」


「嫌だよ、僕はお父さんやお母さんのような顔つきになるんだ」


★★★★★★


 作者です。


 作品を読んでいただきありがとうございます。


 作品フォローや☆評価が作者のモチベーションに繋がります。


 作品フォローと☆評価をお願いします。


 <(_ _)>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る