第39話:別れ

 僕たちは国際ダンジョン協会から、モンスターがダンジョンの外に出たという、前代未聞の話を聞かされた。


 もしそれが本当だったら、世界が滅んでしまうかもしれない大事件だ。

 できるだけ早く、最高の人材を投入して調べなければいけない。

 最低でも、今地上に現れているモンスターは倒さなければいけない。


 そんな最重要な役目を、僕が任せられるのはおかしい。

 本来ならお父さんとお母さんが受けるべき役目だ。

 だけど、ほんの少しだけど、うれしい気持ちもある。


 ただ、とても危険な役目なので、お姉さんたちを連れてはいけない。

 何もできずに、一瞬で殺される可能性もあるのだ。


「お姉さんたちはここで待っていてください。

 いえ、今直ぐ自衛隊の人たちと日本に帰ってください」


「ダメよ、そんな事はできないわ。

 竜也君だけに任せて、私たちだけ逃げ帰るなんて、絶対にできないわ!」


 普段はふざけた所もある深雪お姉さんだけど、パーティーメンバーを置いて自分だけ逃げるように卑怯者ではない。


 僕が深雪お姉さんを大好きになった所だけど、今回に限ってはジャマだ。

 もっと冷徹に現状を見極めて欲しいと思ってしまう。

 こんな身勝手な所が、まだ小学生の僕らしさかもしれない。


「月奈お姉さんからも説明してください。

 今の状況では、お姉さんたちは足手まといでしかありません。

 お姉さんたちがいると、僕が全力で戦えなくなります」


「竜也君の言っている事は分かるわ。

 だけど、それでも、私も竜也君を置いて逃げ帰るのは嫌なの」


 困った、普段は冷静な月奈お姉さんまで間違った判断をしている。

 このままでは、力づくで日本に送り返さなくてはいけなくなる。


「ワタシモガンバリマス、アシデマトイニハナリマセン!」


 ルナが横から口出ししてきた!


「ダメよ、いくらなんでもルナちゃんたちは連れて行けないわ!」


 こら、こら、こら、それは僕が深雪お姉さんたちに言っている事だよ!


「もしかして私まで置いて行くつもりなの?!」


 葵までついて来るつもりなのか?


「4人ともダメよ、絶対にダメ!

 私たちがワガママを言ったら、竜也君を死なせてしまうかもしれないのよ!

 マンガやアニメじゃないの、足手まといが手助けになったりはしないの!」


「桜ちゃん……」

「……私たちのワガママで竜也君を殺してしまう……」

「ワタシハアシデマトイニハナリマセン、ワタシガシヌノハジコセキニンデス」

「桜ちゃん、そんなに竜也君の事が好きなんだ……」


「ありがとう、桜ちゃん、君だけが僕の事を本当に考えてくれているね。

 ルナ、どうしてもついてくると言うのなら、家で貸している装備は全部返してもらわないと、家の責任にされてしまう。

 裸で良いのなら自己責任でついて来い」


「オウ、マケンヲテバナスノハゼッタイニイヤ!」


「素直に日本に帰るのなら、家のプライベートダンジョンに限り魔剣を貸し出してやる、それで良いな?」


「タカラブネファミリートダンジョンニモグルトキハ、コウキョウノダンジョンデモマケンヲカシテホシイ!」


「おばあちゃんには連絡を入れておくが、僕が勝手に決められる事じゃない。

 おばあちゃんに直接頼め」


「ワカッタ、オバアチャンニタノム」


「話がついたようですね、お嬢さん方は我々が必ず日本に送り届けます。

 安心して役目を果たしてください」


 警視庁のSPが、命を賭けてお姉さんたちを守る決意が分かる、真剣な顔つきで話しかけてきた。

 

「お願いします」


「竜也殿は私たちが引き続き警備させていただきます。

 この命に代えても守って見せます」


 陸上自衛隊レンジャー部隊の隊長が、決意のこもった言葉で約束してくれる。

 一応民間人の俺を、自衛隊として守ってくれる気なのだ。

 年齢から言っても、ダンジョンに潜った事のある年齢だ。


 それに、自衛隊なら普段の訓練でもダンジョン潜っているはずだ。

 地上とダンジョン内では、体の動きがぜんぜん違う事を、身をもって知っている。


 レベルアップしていない地上の体で魔術を放つモンスターと戦うのが、自殺行為だと分かっていて、それでも俺を守るために戦う覚悟をしてくれている。


「分かりました、お願いします」


「竜也君、絶対に死んだらダメだからね!」

「必ず生きて帰って来て、竜也君の足手まといならないようになって見せるわ」

「私も置いて行かれないようにガンバル!」

「カナラズリュウヤヲコエテミセル!」

「竜也君、待っているから、ずっと待っているから、必ず生きて帰って!」


「だいじょうぶだよ、モンスターに殺されるようでは、世界一のトレジャーハンターにはなれないよ」


 僕はウラジオストクで5人と別れた。

 心配だったので、港に停泊している海上護衛艦まで送って行った。

 乗艦したのを確かめてからビキンダンジョンに向かった。


 ☆世界的アイドル冒険者、鈴木深雪のライブ動画


Rafael:くそ、なんで涙が止まらないんだ!


藤河太郎:竜也君との別れが感動的だったのは確かだが、ジャマモノなのに!


Rafael:俺たちにとっては救国の勇者になるかもしれないが……


雷伝五郎:ロシア以外の深雪ファンクラブにとっては恋敵でしかない!


Benno:おい、おい、相手は12歳の小学生だぞ、恋敵はないだろう?


藤河太郎:いや、12歳でも男は男だ!


雷伝五郎:そうだ、みゆき姫以外の4人も竜也君にほれている!


Rafael:いや、ルナは違うだろう?


ノンバア:うん、私もルナは違うと思う、ルナは魔剣が欲しいだけよ。


Rafael:うん、俺もそう思う。


ゆうご:そうだな、ルナだけはまだ色恋が分かっていない。


Benno:そうだな、色恋よりも魔剣、ダンジョンで戦う事が楽しいのだろう。


Rafael:みゆき姫も最初はそうだったな。


ゆうご:何時からこんな事になったのだろうな?


Rafael:そりゃあ、竜也君が加わってからだろう?


Benno:竜也君が加わってみゆき姫は強くなったが、遠くなったのも確かだ。


ノンバア:おい、おい、元々アイドル冒険者と視聴者の間は遠いぞ。


Benno:分かっているが、ウソでも色恋がないように見せて欲しい。


Rafael:男と女の色恋までにはまだまだ遠いと思うが、あっという間だろうな。


ノンバア:日本でも小学校で付き合いだす子が増えているのよ、現実を認めな!


雷伝五郎:嫌だ、嫌だ、嫌だ、みゆき姫は永遠の乙女でいて欲しい!


Rafael:竜也がロシアを救ってくれるのなら、認めても良い。


★★★★★★


 作者です。


 作品を読んでいただきありがとうございます。


 作品フォローや☆評価が作者のモチベーションに繋がります。


 作品フォローと☆評価をお願いします。


 <(_ _)>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る