第8話:交渉

 所長は僕たちを、奥の机の前にあるソファーに案内してくれた。

 机の前に1人用のソファーがある

 その前に机があって、机の左右に大人が3人くらい座れる長いソファーがある。


 左のソファーにさっき会ったお姉さんたちのうち、小学生ぐらいの3人が座っていて、その後ろに2人のお姉さんたち、付添人が立っている。


 僕とおばあちゃんは右側のソファーに座るように勧められた。

 おばあちゃんの目を見て、だいじょうぶなのを確認してから座る。

 目で合図してくれた通り、おばあちゃんは僕の後ろに立って守ってくれる。


 それを見ていた所長、お兄さんとおじさんの間くらいの人が話しだした。


「宝船様に来ていただいたのは他でもありません。

 ダンジョン協会からではありませんが、お願いがあるからです」


「相変わらず協会の人間は小狡いねぇ、そんなに責任を取るのが嫌かい?」


 おばあちゃんが、それほど腹を立てていないような言葉づかいで話している。

 この所長と名乗る人が嫌いではないのかな?


「はい、寝る間も惜しんで勉強をして、ようやく今の立場を手に入れたのです。

 自分の責任ではない事のために、今の立場を捨てる気にはなれません」


「それで、私の孫に何をさせて、何を見返りにくれるんだい」


「申し訳ありませんが、させるのも与えるのも、私でも協会でもありません。

 そちらに座っておられる方々です」


 おばあちゃんが、お姉さんたちに目を向けた。


「それで、お前さんたちは家の孫に何をさせたいんだい」


「私たちのパーティーに入って欲しいのです。

 タカラブネファミリーが持っておられる知識を教えていただきたいのです」


「冒険者にとって知識が命の次に大切な事を知っていて、言っているのか?!」


「はい、ですが、有用な知識は多くの冒険者で共有すべきです。

 少しでも死ぬ人を減らせますし、貴重な資源も手に入ります」


「汚い大人たち、人を殺してでも宝物を手に入れようとする冒険者がいる。

 そんな現実を知らない子供のたわごとだね」


「現実は知っています、知っていても、理想は捨てられません」


「あんたの理想は結構だが、そのためにタカラブネファミリーが損をしなければいけない義理はない、断るよ」


「損に見合う見返りはご用意させていただきます」


「ほう、どんな見返りをくれると言うんだい?」


「動画配信の利益を等分に分けさせていただきます。

 これでも私は人気の動画配信者で、ファンが200万人います。

 月収6000万円くらいですが、それを分けさせていただきます」


「何人で分けるんだい?」


「私は、編集や交渉をしてくれる妹と2人でやってきましたが、これからはこの子たちを含めた5人でやる気でした。

 ですがお孫様の竜也君に助けていただきましたので、竜也君を含めた6人で分けたいと思っています」


「3人だ、まだ何の役にも立たない、その3人と等分に分けるのはおかしい。

 人気のあるあんた、実務をするその子、実力のある竜也の3人以外は、足手まといなだけだ」


「ですが動画に顔を出して危険な冒険をするのは同じです」


「本気で同じ危険だと思っているのなら、あんたは冒険者失格だ。

 先の宝探しでも、あんたはこの子たちをかばって死ぬ気だった。

 私は、この子たちを守る為に、大切な孫を死なせる気はないよ!

 自分の理想のために死にたいのなら、他人を巻き込まずに自分だけで死にな!」


「いえ、最初からお孫さんを巻き込む気などありませんでした。

 何かあったら私が盾になって死にますので」


「バカな事を言っているんじゃないよ!

 家の孫が、一緒に宝探しをしている女子供を見捨てる訳がないだろう!

 言葉では正義を口にしているが、実際にはひきょう極まりないね!」


「あっ……ごめんなさい、でも、本当にそんなつもりは……」


「お姉ちゃん、やっぱりお姉ちゃんの考えは身勝手過ぎるよ、ここは私に任せて。

 私は妹の鈴木月奈と申します、これからは仕事として話をさせてください。

 タカラブネファミリーの利益になるように、条件を決めさせてください」


★★★★★★


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