第91話 「グリフォンの剣」団長デビット・クロスの回想①

 私の名はデビット・クロス。

 元はウィンドベルク王国の騎士だったが、今は誇り高き傭兵団「グリフォンの剣」の団長を務めている。

 

 その昔、結婚を機に王国の騎士団を退職したのだが、子宝に恵まれず、数年で離婚。

 生活が荒れて酒に逃れ、就いていた仕事も退職した私は、30歳を前に昔の仲間と共に傭兵団を立ち上げたのだ。

 

 幸いにしてウィンドベルク王国は毎年のように、ミルガルズ山脈の向こうにあるエルドラガス帝国と戦争をしているので、食い扶持には困らない。

 

 団員たちは私のような元騎士や元兵士が多く、上官とウマが合わなかったり、軍の理不尽な扱いに耐えられなかったりして、ウチに入隊した者が多い。

 皆、気のいい奴らばかりだ。

 そんな奴らも戦争に何度も行くうちに、戦死して減ったりまた増えたりを繰り返し、傭兵団の名前も売れてあちこちから依頼の声が掛かるようになってきた。


 今やあちこちの商人から商隊の護衛を頼まれたりして、大陸中を走り回っている。

 正直、戦争に行くより実入りがいいし、野盗程度じゃウチの傭兵団の敵じゃないから気が楽だ。

 しばらくはこんな暮らしも悪くないと思っている。



 今回の仕事はサントアリオスで商隊の護衛だ。


 なんでも、この辺りではたちの悪い盗賊団が暴れていて、もう数件の商隊がやられているらしい。まあ、ウチの敵ではないだろうが。

 雇い主はサントアリオスでは有名な商家らしく、料金も弾んでくれたが、もう一組雇っていると言う。


 他の任務もあって団員も出払っていたので10人だけ連れてきたのに、ウチの精鋭では不足だと言うのか、と少し気分は悪かったが雇い主の意向なら仕方がない。

 出発日に商隊の前で待っていると、雇い主のノークトゥアム氏が3人の男女を連れてきた。


 紹介されたのは、金髪に浅黒い肌の大男に珍しい森のエルフ、そして黒髪の若い男だった。

 てっきり、大男がリーダーかと思えば、若い男がそうだと言う。

 ザミエルと名乗った若い男は、細身だがしっかり鍛えられた身体つきで、雰囲気が兵士のもつソレだと私にはピンときた。


 ザミエルの青黒い鱗のある皮鎧やマントも見慣れないものだったが、何より得物が今まで見たことないものだった。

 なにやら筒のような金属の棒の先に、妙に刀身の長い短剣が取り付けられ、木の柄も曲ったうえに末広がりな形ときている。短槍なのだろうか?


 大男は長い両手剣を腰に穿き、エルフは定番の弓を持っていたのはイメージ通りだったが。

 話してみると3人とも礼儀正しい、感じの良い男女で、特に大男は陽気で人懐こく団員たちと直ぐ打ち解けた。


 これならなんとかうまくやれそうだ。

 安心した私は雇い主に挨拶して、商隊のリーダーに合図し、サントアリオスを出発した。


 私は騎馬で先頭の馬車を先導する形で、部下と共に警戒に当たる。先頭の馬車にはエドワルドと名乗る大男が同乗してくれた。


 後ろを見ると、最後尾の馬車の屋根にザミエルと言った若い男とエルフのロサという女性が矢盾の後ろに座っている。エルフは弓を持っているから分かるが、ザミエルはあんな高い場所で何をしているのだろうか。

 あんな短い槍が屋根の上から届くとでも?


 そんな疑いの表情が顔に出ていたのだろう、戦闘の馬車の乗降口に座ったエドワルドが私に声をかけてきた。


「団長よ、安心せよ。ザミエルはアレで良いのだ」

「あの槍が屋根の上から盗賊どもに届くというのか?」

「ふふん、もっと遠くでも届くやもしれんぞ。吾輩も全てを見た訳ではないが、あれは魔道具ではないか、と睨んでおるのだ」


 魔道具だと?

 信じられない・・・・・・。

 エドワルドには悪いが、私は安心できないな。


 そう思っていたら、同じことを考えたらしい部下がザミエルに絡んでいた。


「なあ、あんた。弓も持っていないのにそんなところに居てどうするつもりなんだ? そんな短い槍じゃ、馬にも届かねぇぜ」

「ちげえねぇ。馬車の中で隠れてたほうがいいんじゃねえか? ガハハハッ!」

「狭い場所は性に合わなくてな。ここの盾の陰に隠れてることにするよ」


 二人の部下は、ザミエルが乗ってこないので拍子抜けしたのか、呆れたように騎馬で馬車から離れた場所に戻っていく。

 肩に栗鼠を乗せたザミエルは、部下にはちらりとも視線を移さず、超然と辺りを警戒している。

 その様子を見た私は、出発前はうまくやれると思ったのだが、とちょっぴり後悔した。

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