第66話 料金

 そんな中、たくさんの荷馬車の通る横の歩道を、石動イスルギはロサと並んでのんびり歩いて渡る。


 川面を渡る風が、石動とロサの頬を撫でる様に吹いていて気持ち良い。

 横を通る荷馬車の立てた埃も川風が吹き飛ばしてくれた。


「スゴイな、石もケーブルも全く風化したり錆びたりしていない。どんな素材で出来ているんだろう?」

「昔、魔大陸からドラゴンが飛んできたことがあって、この橋の上で暴れたけどキズ一つ付かなかったって言う伝説があるわ。なんでも、時間が止まった素材で出来てる、って聞いたことがあるかも」

「(えーっ、何処かで読んだり聞いたりした事のあるような・・・・・・。ガチのオーパーツじゃん、それ・・・・・・)」


 石動とロサは気持ち良い川風に吹かれながら他愛のない会話をし、橋の欄干越しに見える雄大な景色を楽しみながらゆっくり歩いたため、橋を渡るのに30分程かかってしまった。


 ようやく到着した対岸の主塔の下には、関所の様な門や建物があり、警備の兵士が立っていた。


 荷馬車は定期便なのか、札を掲げて兵士に示し、ガラガラと通って行く者が多い。


 石動のマントのフードの中で寛ぐ栗鼠姿のラタトスクに念話で尋ねると、大手の流通業者や商人は領主と契約して札を発行してもらい、通過した回数に応じて後で纏めて通行料を支払うのだそうだ。

 歩いて渡ってきた者は門の横にある事務所の様な建物を通って料金を支払う様で、既に何人か行列が出来ていた。


「ロサは前にもこの橋を渡ったことはあるの?」

「うん、去年も通ったかな。ブエンテラ領主国の北にサントアリオスというダークエルフの国があってね、そこに友達がいるんだ」


 サガラド河を越え、大陸の東の端にあるエレリヒオン共和国に至るまでのこの辺りは、七つの小国が犇めき、それぞれ土豪とも言える地場勢力が競い合っている。

 以前はもっと多くの小国が乱立していたのだが、何度も争いを重ね、新たに国が興っては滅んだ結果、現在の七か国で奇妙なバランスが保たれている状態らしい。


 関所への行列が進み、順番が近づいてくると、石動はあることに気付く。


「ロサ、そう言えば自分、身分証明書みたいなものを何も持っていないけど、入国できるのかな」

 小声だが勢い込んで尋ねてくる石動の勢いに押されながら、ロサは苦笑いする。

「大丈夫。ここでは橋の料金を払うだけで通れるから心配いらないよ」

「そっか、良かった。ちなみに料金って幾ら?」

「銀貨二枚だったと思う」

「ふ~ん・・・・・・」



 その昔「渡り人」が齎した貨幣制度は順調にこの世界で発展し、今では各国共通の通貨単位として流通している。


 石動はエルフの郷で流通していた貨幣しか知らないが、大体、銅貨が前世界の百円、大銅貨が五百円、銀貨が千円で大銀貨が五千円、金貨が一万円で大金貨が十万円の価値があると思えば間違いないようだ。大金貨の上には白金貨という百万円の価値があるものもあるが、市中にはほとんど流通していない。

 

 橋の通行料金が銀貨二枚というのは前世界の価値で換算すると二千円程なので、それほど高くないように感じるかも知れない。

 しかしこの世界の物価は安く、一般的な成人は月に金貨二枚あれば生活できると聞くので、やはり高いのだろう。


 今の石動は素材を売った代金に加え、ラタトスクから貰った狙撃の報酬があるので、懐は非常に暖かい。

 白金貨ですら何枚か持っているほどなので、取り敢えず財布代わりの巾着袋に何枚かの銀貨と銅貨を入れて懐に入れ、その他の金貨等はマジックバックの中に大事にしまってある。


 そのうち行列が進んで石動達の番になり、愛想の良い料金所のお姉さんに2人分の銀貨4枚を支払ってゲートを通った。

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