第34話 軍人の街

 私は、まず、店の中を見渡したの。そしたら、軍人がいなかったので、すこし、ほっとしたわ。


 「いらっしょい。何をしましょうか?」


 「ここの、お薦めは何?」

 

 テルースが、慣れた言い方で、店員に聞いているわ。店員は、メニューを指さし、肉料理を薦めているみたい。


 テルースは、私の方を見ながら、どう? って、顔をしているの。私は、内容が、よく分からないけど、テルースに任せると決めているので、頷いて見せたわ。


 店員は、メニューを持って、私達の席から静かに離れて、奥に消えていった。


 「2人で食べるには、少し、量が多そうだけど、良かった?」


 「私は、それでいいわ」


 私は、軍人の事が気になって、テルースに聞いてみたの。


 「ねえ、どうして、見てくるのかしら?」


 「ユイカ、この街に来てから、観光客を見かけた?」


 「いいえ、見ていないわよ。ほとんど、軍人だけね」


 「この街には、観光客があまりいないんだ。それで、私達みたいな者が、不審者のように見えるのかも?

 制服で、このホテルに入って来た時は、特に見られている感じはしなかっただろ」


 「そうね。制服で街に出た方が良かったわね。次は、そうするわ」


 テルースの説明で、やっと、納得が出来たわ。この街では、制服が必須ということね。


 店員が、大量の肉料理を運んできた。2人では、到底食べきれそうにないわ。私は、残った料理をアイテムボックスに入れて持って帰ることにしたの。


 「ユイカ、おいしい?」


 テルースが、私に訊いて来た。特に、美味しいということもないし、不味いということもなかったけど。


 「おいしいよ。思ったより、硬くないね」


 テルースの顔を見て、つい、嘘をついてしまったわ。


 「そうだね、しっかりと煮込んでいるようだね。変な臭みもないので、食べやすいよ」


 私達は、料理を食べ終わると、足早にホテルに戻った。そのまま、各自の部屋に入った。


 私は、直ぐに、自分の部屋を出て、テルースの顔を見に、テルースの部屋に行ったの。今回は、普通にドアを叩いて、部屋の中に入って行ったわ。


 「夕食には、時間があるね」


 「そうね。テルースは、どうしたい?」


 「ユイカと一緒に居るだけでいいよ。別に観光をしなくても」


 「私も、それでいいよ。テルースと一緒に部屋で休んでる?」


 「分かった。今日は、観光を止めて、部屋で過ごそうか」

 

 「はい」


 私達は、観光を諦めて、部屋で、過ごすことにしたの。二人で過ごせば、すぐに夕食の時間になるだろうって。


 夕食の時間になったので、私達は、制服に着替えて食事の場所に移動したわ。


 私達は、昼に大量の肉料理を食べたので、それほど、お腹が空いていなかったの。出された料理は悪くはなかったのだけど、ほとんどを残してしまったわ。


 何故か、エイコが、私達に声を掛けて来たの。本当、厭だわ。


 「どこか、具合でも悪いの?」


 「「大丈夫です」」


 私達は、同時に、声を出していたわ。本当に、気が合うのね。


 「でも、二人ともほとんど料理に手を付けていないわよ」


 あんたには、関係ないでしょ。黙っていてよね。


 「昼に食べた肉料理が多くて、まだ、余りお腹が空いていないのです」


 テルースは、エイコに丁寧に答えている。


 あら、テルースったら、エイコに、優しいわね。私が、エイコを嫌いだって、知っているはずなのに、何故? そんなに丁寧に対応しているの? ひょっとして、気があるの?


 「そうなの。2人で、街に出かけたのね」


 テルースったら、何故、相手をするの? もう、話すのを止めて! 私は、心の中で叫んでいた。もう少しで、思念伝達で、声を掛ける所だったわ。


 「はい、外で、昼食を取りました」


 「わかりました。そういうことなら、大丈夫ね」


 「はい、大丈夫です」


 「それじゃ、食事を終えて、部屋に戻りましょう」


 エイコは、係に声を掛けて、残った料理を下げて貰っていた。それから、皆は、それぞれの部屋に戻って行ったわ。


 私は、仕方がないので、自分の部屋に入って、ベッドで、じっとしていたの。そしたら、今日も、エイコが、私の部屋に来て、私の事を監視し始めたの。もう、イヤ、イヤ。


 私は、寝たふりをすることにしたわ。エイコの相手なんか、したくないわ。そしたら、エイコったら、勝手に私の寝ているベッドに入って来たのよ。


 私は、じっとして、寝たふりをしたいたわ。そしたら、私が、静かにしているのをいいここに、勝手に私の身体の上に乗って来たの。それでも、私は、何もしないで、じっとしていたわ。


 本当は、どうしていたらいいの。突然、昔の事を思い出したわ。あの厭な思い出、エイコが私の家に家庭教師でやって来た時の事を。


 また、あの時の事が繰り返されるの? 私は、抵抗することさえできない。でも、今は、テルースがいる。だから、前のように、心が折れることはないわ。


 いつの間にか、私は、寝てしまっていたみたい。そして、私の身体も、エイコの思っているようには、成らなかったみたい。それで、エイコは、私のベッドから、消えていたわ。


 私は、あのエイコから、解放された。これからは、自由よ。

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