第30話 シーニ王国の都市ファースト

 私達は、朝食後、すぐに、馬車で出発したの。今日は、シーニ王国の都市ファーストで、一拍して、翌日朝早くから、ファースト魔法学院に見学に行くことになっているわ。これは、急に決まったようで、引率の先生達も慌てているようね。先方への連絡は、ゴールド魔法学院長から、既に行っているって。


 今日宿泊するホテルは、普通のホテルで、食事も普通だったわ。やはり、ミヤーコ王国が特殊だったのね。


 今日も、また、エイコ先生が、私とテルースの間に部屋を取っているの。何故、テルースは、だめなの? 貴族って、そんなに大事? あっ、そうだ。 テルースが貴族になれば、いいんだわ。


 私は、部屋で、昼食の時間を待って居る間、そんな、事ばかり考えていたの。そしたら、また、頭の中で、テルースの声が聞こえて来たの。


 「ユイカ、聞こえている?」


 「えぇ、聞こえているわ。今、テルースの事を考えていたのよ」


 「僕も、ユイカのことばかり、考えた居た」


 「何故、テルースは、貴族じゃないの?」


 「何故って、貴族か、同課は、生まれつきだよ。仕方がないよ。でも、僕も、貴族と言うことになっているよ」


 「えっ、でも、エイコ先生が貴族じゃないって言っていたわ。あれって、嘘なの?」


 「うーん、どちらも、正解だけどね」


 「どういうこと?」


 「ちょっと、複雑なんだ。今度、会ったときに説明するよ」


 テルースは、何故か、話辛そう。どんな、秘密があるのかしら。何故、今、言ってくれないの。


 暫くして、昼食の準備が出来たと、案内が来たわ。皆で、一緒に、食事をとって、少し、休憩してから、ファースト魔法学院へ向けて、出発するみたい。今回の見学は、短時間で、終わるみたい。多分急に、決まったことだからかな?


 私は、部屋の隅に、テルースから、教わった転移魔法用の魔法陣を描いて置いたの。そして、テルースを待ったわ。


 「お待たせ」


 テルースが、私が書いた魔法陣の上に現れた。


 テルースは、また、スキル探索で、エイコ先生の様子を感知しながら、私を抱きしめた。


 私は、エイコ先生が急に部屋に入って来ないか、気が気でなかったわ。でも、昨日みたいに、テルースの事を信じることにしたの。


 でも、やっぱり、見張っていることを知っているので、身体を強張らせていたみたい。テルースは、硬くなった私の身体を解き解すように、抱きしめてくれたわ。それで、少しずつ、私は、テルースに身を任せることができたの。そう、すっと、力が抜けたの。


 テルースは、右手で、私の頭を撫でながら、軽くキスをしてくれたの。少し、薄い唇が、私のふくよかな唇に合わさり、動き出したの。でも、ゆっくりと、ゆっくりと、動いていたわ。

 

 テルースの唇は、私のほほから、耳に動いて、耳元で好きだよと囁いてから、そっと、部屋を出て行ったわ。


 私は、直ぐに、思念伝達で、テルースに連絡を取ったわ。


 「テルース、急に、どうしたの?」


 「ごめん、我慢できなかった。でも、食事だよ」


 「分かったわ」


 私は、思念伝達を切って、皆が待って居る食堂に向かったわ。食堂では、もう、他の人達は席についていて、私を待って居たみたい。


 「すみません。遅くなりました」


 エイコ先生が、私を睨みながら、お小言だ。


 「もう、何時になったら、大人になるのかしら」


 「すみません。でも、私は、もう、大人です。何でも、自分で、決めることができます」


 私は、エイコに対しては、つい、反抗的になってしまう。もう少し、我慢しなくてはって、思うのだけど、どうしても、止めれないの。


 「さて、食事をしながらでいいので、今後の予定を聞いておいてくださいね」


 ユリーマ先生が、皆に説明を始めたわ。


 それによると、今日の晩御飯は、各自で、自由に取ることになっていて、明日の朝まで、自由時間だって。


 私は、テルースと一緒に、街に出かけて、夕食を食べてから、部屋に戻ることにしたの。2人で、楽しい時間を過ごしたのに、部屋に帰ってきたら、今日も、エイコが、いるのよ。それも、勝手に私の部屋に入っているの。


 「エイコ先生、部屋を間違えています」


 当然、私は、抗議したわ。でも、だめ。エイコは、全く、聞く耳を持っていないの。


 「いいえ、間違えていませんよ。私は、貴方の両親から、両行先のことを一任されているの。だから、この部屋も、私が、自由に使えるのよ。分かったかしら?」


 私は、黙って、着替えて、ベッドに潜り込んだわ。でも、今日は、思念伝達ができるのよ。だから、一人っていうわけじゃないの。


 私を監視してもだめよ。頭の中までは覗けないでしょ。私は、エイコに勝った気になったわ。でも、それは、アマかったの。


 エイコったら、私の手首を縄で括って、その端を自分の手首に括ったの。そして、私のベッドの中に入って来たの。私は、すっかり、昔の自分に戻ってしまったみたい。蛇に睨まれたカエルの様に、頭の中まで、エイコに浸食されてしまったようで、テルースの思念伝達は、いつの間にか、立ち消えてしまっていたわ。


 これって、悪夢の再来かしら、もう、だめよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る