第28話 イキシ魔法学院の見学
イキシ魔法学院での見学は、余り面白いものでは、なかったわ。魔法に関することよりも、校舎や施設の説明に多くの時間が取られて、どんな勉強をしているのか、あまり、見ることが出来なかったわ。
でも、テルースは、面白そうにしていたの。どうしてかなぁ? イキシ魔法学院の教師に何度も、質問をしていたわ。それも、置かれている調度品や陶器などの飾り物についての質問ばかり。
もう、こんな見学直ぐに止めて、ホテルに戻りたいわ。何の為に、こんなことやっているの? 私には、分からない! 私達のデンロン魔法学院にとって、どんなメリットがあるのかしら? 確か、デンロン魔法学院は、ゴールド魔法学院長が最近作った物で、これまでの他の国の魔法学院とは違って、国営ではないって、聞いたことがあるわ。
でも、何故、いままで、国営の魔法学院がなかったの? 変ね、他の国の魔法学院って、歴史があるものばかり。
それなのに、ヤガータ国では、最近で来たばかりって、どう考えても、変ね。でも、誰に訊いたら教えてくれるの? あの厭な先生はだめよ。それなら?
「ユイカ、どうしたの?」
「えっ、何が?」
急に、テルースが、声を掛けて来た。いつの間にか、私の横に居る。
「さっきから、怖い顔をしているよ」
「何でも、ないわ。テルースには、分からないわ」
「言って見てよ。これでも、結構知っているんだから」
テルースったら、私の事を放っておきながら、今になって、優しくして、直ぐには、許してやらない。
「テルース、貴方は、私より、変な置物の方が好きなのね」
「えっ、何を言っているの? ユイカの事が好きに決まっているだろう」
「それなら、行動で、示してよ。これまで、私のことなんか、眼中になかったくせに!」
「ユイカ、何を怒っているの?」
テルースが、私の顔を覗き込んだ。そして、優しく微笑んだ。もう、その顔を見せないでよ。ついつい、許してしまうわ。
「それなら、私のことだけを見てくれる? ここの学院の先生に変な質問ばかり市内でね。いい?」
「変な質問では、無いんだけどなぁ。分かったよ。もう、質問は、しないよ」
「それなら、許してあげるわ」
私は、周りを見回した。また、私の事を監視していないか、気になった。テルースの腕を取って、歩きたいのに、それが気になって、出来ない。
「ねぇ、あの先生の居場所が、わかる? 私の事を監視していない?」
「ちょっと、待ってね。調べるよ」
テルースは、スキル持ちだ。色々と持っているみたいだけど、余り喋らない。まあ、当然だけど。得意な魔法やスキルを知られると、いざという時に不利ななるから、できるだけ、秘密にしたいって、ことね。
直ぐに、テルースが、私の方に向き直って、囁いた。
「大丈夫。今、ここの先生達と、応接室で、休んでいるよ。今、僕たちの周りにいるのは、この学院の先生が1人だけだよ。他は、生徒だけだよ」
「良かった!」
私は、直ぐに、テルースの腕を取って、自分の身体をテルースに押し付けた。テルースの腕が、私の胸に当たっている。私は、テルースの顔を覗き込んだ。どう? うれしい?
「急に、どうしたの?」
「いいでしょ。誰にも、見られていないのなら」
「僕は、いいけど、ユイカは、こんな僕でいいの?」
「どうして、そんなこと言うの?」
「だって、ユイカの家は、貴族だろ」
「そうよ。でも、そんなこと、関係あるの?」
「僕は、平気だよ。でも、ユイカが困らないかなぁって、思うことがある」
「貴族っていっても、私の家は、それほど、裕福ではないの。だから、色々と、制約があるの」
「何? 何か、困っていることがあるの?」
「また、今度話すわ。こんなところでは、話せない」
「分かった。でも、こんな僕でも、役に立てることは、あると思うよ。これでも、結構裕福なんだ」
ちょっと、周りを見渡したけど、どうも、他の生徒から、離れてしまったみたい。私達2人だけになっている。
「テルース、他の生徒は?」
「大丈夫だよ。教室で、魔法の演習を見学しているよ」
「そう。それなら、いいの。テルースって、魔法やスキルを使うのに、声を出さなくてもいいんだ」
「内緒だよ。ユイカだけの秘密にしておいてね」
「分かった」
そうか、テルースは、無詠唱で、魔法が使えるのか。それを隠すために普段は、詠唱をしているんだ。でも、私には、隠さないんだ。私の事を信用しているんだ。そう思うと、うれしくなった。そして、抱きしめたくなった。
「テルースは、魔法をどこで、勉強したの?」
「勉強? 特に、勉強したって、記憶は、ないよ」
「でも、普通、最初は、教えて貰うわ」
「そうだね。師匠がいたよ。自分の事を賢者って、言っていたけどね」
「そうなの? 凄いね」
「でも、最初だけだよ。教えてくれたのは、初級魔法も、自分で、見よう見まねで、覚えたんだ。どちらかというと、必要に迫られて魔法が使えるようになったんだ」
「苦労したのね」
「そうだね。別に苦労だとは、思っていないけどね」
「ねえ、テルースの両親は、何しているの?」
「あれ? 言わなかったかな。僕には、両親は、いないよ」
「早くに亡くなったの?」
「うーん、どういったらいいのかなぁ」
「また、ゆっくり教えて、そろそろ戻りましょう」
「そうだね」
私達は、結構、打ち解けて、いままで、嫌われると思って聞かなかったことも、聞けるようになったわ。でも、ここでは、少し、不味いわね。こんど、2人キリになった時に、続きを聞かせて貰うわ。
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