第47話 崩壊

穂千木玩津は私の探していたプレイヤーだ。奴はキングの部下で用心棒、最強のプレイヤー、前に弟の茂雄を倒した男であり、弟の仇だ。


「君たちは細切れにして魚の餌にしてあげます。」、新社長が恨みのこもった声で唸った。


穂千木は両手にレーザーブレードを構えてこちらに近づいてくる。まるで殺人マシーンが近づいてくるようだ。

「エマちゃんはここにいて、花をお願い」。かなはアイテムボックスからトンファーを取り出すと、両手に構え、それから深く深呼吸をした。いつの間にか戦闘用のスーツを着ている。呼吸を整えると、周囲が水を張ったように静まり返った。エマは目の前にパチっとした衝撃を感じたらしい。それから体に少し寒気を覚えた。まるで雨上がりの深い森の中にいるような感じにおちいったと言う。なぜか不思議と気持ちの落ち着く空間だったらしい。これが、かなが極限に集中した時に作り出す領域だ。勝負は一瞬だった。


エマは身動きもできず呆然と2人を見守っていた。穂千木はレーザーブレードを凄い速さで上下左右から叩き込む、連撃である。集中したかなは武術の達人と化している。かなは舞を舞うかのようにレーザーブレードの攻撃を全て受け流していく。おそらく彼女の周りでは時間がゆっくりと流れている、穂千木の攻撃のスピードに対応している。穂千木のレーザーブレードの軌道にかなのトンファーが先に反応するようになった時、強烈なカウンターのキックが入った。


穂千木は後ろずさった。かなのカウンターは相手の攻撃の威力をそのまま利用して相手に返す。かなの得意とする戦いだ。穂千木は少し焦ったようだ。雄叫びをあげてレーザーブレードをかなに叩きつけた。かなはそれを右手のトンファーで流すと、左手のトンファーを持ち替えて穂千木の顔面に叩きつけた。右手のトンファーを回転させて腹を殴るとバランスを崩した穂千木は片膝をついた。かなは軽くジャンプして膝に片足を乗っけるとその勢いで顔面を蹴り上げて宙返りした。3連撃だ。穂千木はその場に倒れてうずくまった。


思わずエマから歓声が上がった。かなは再び間合いを取ると、額の汗を拭った。手応えはあった。しかし攻撃を仕掛けたかなの方が疲れて汗をかいている。呼吸が乱れている。かなの中ではとっくに勝敗は着いているはずなのに、まだ決着が着いていない。これはなんでだ?穂千木は立ち上がるとニヤッとした顔をした。これで勝敗は着いた。


穂千木はレーザーブレードを捨てると、格闘戦に出た。かなは穂千木の反撃に少し驚いた。呼吸を整えて落ち着く。相手の攻撃はよく見える。いける、かなは相手の攻撃を受け流そうとトンファーでガードすると、穂千木はトンファーごと殴りつけた。かなは少しよろめいた。何度も重い攻撃が続く。相手の攻撃を見てしっかり受け流すのだ!かながトンファーを構えると、穂千木はトンファーを握ってかなの腕を開いた。穂千木の回し蹴りがかなを吹き飛ばした。穂千木はかなの前にゆっくりと歩を進めた。かなの力を見切ったのは、穂千木の方だったのだ。穂千木はかなの首元を掴んでそのまま宙づりにしてしまった。

穂千木は片方の手でかなのスーツをビリビリに破いてしまった。「これ以上抵抗出来ないように辱めを与えてやる」、穂千木はそう言うと彼女の上半身を露わにした。かなは抵抗できずぐったりとうなだれている。


「いいぞー、やってしまえ!」新社長が嬉しそうに小躍りしている。


穂千木が彼女の下着に手をかけたその時、モニターの向こうで金属が削れるようなけたたましい音が鳴り響いた。ジャックがスクエアガーデンに真っ二つの姿で貼り付いている。ジャックの前には黒い衣装を着た男が宙に浮いている。男はジャックに何か言うとジャックの首を鎌のような物ではねてしまった。男は文書のUSBメモリを空中に放り投げると、死神の鎌がそれを美味しそうに飲み込んだ。死神の鎌から四方に黒い稲妻が放たれると、ニューヨークの街は再び停電した。ジャックが作動したスピーカーは黒い放電で停止した。死神の鎌は回転しながら飛んでいくと、自由の女神のソフトクリームを美味しそうに食べだした。男の笑い声が町中に響いた。彼がジョーカーだ。


ジョーカーはモニターを覗き込むと、モニターに三日月型の目と頬まで避けた大きな口が映った。人間の顔ではない。ジョーカーはモニターに顔をのめり込ませると、モニターが湾曲し顔型に変形した。次は手を、それから足をモニターにのめり込ませると、這い出るようにモニターからこちらの世界に移動してきた。おそらく瞬時にゲートを作成し空間転移できるのだ、ジョーカーはあらゆる世界に移動できる権限が与えられている。


ジョーカーはこちらの世界に現れると、死神の鎌が彼を追って空間を割いて現れた。死神の鎌から黒い放電が発生し、あらゆる物体それからホール全体の破壊を始めた。雷はフレスコ画に当たると絵画に描かれた小天使たちを黒焦げにしてしまった。新社長は黒い放電を受けるとギャッと叫んで消失してしまった。穂千木は黒い放電を片手で受け止めてはじき返した。牧田かなとエマの前にはミラーが出現し、稲妻を跳ね返した。

穂千木はジョーカーを見ると、まるで昔の知り合いに会ったかのように大きな笑い声をあげて、戦闘を始めた。ホールは放電の影響で音を立てて崩れようとしている。ジョーカーと穂千木玩津が交差する度にホールが振動で揺れた。私とエマは花を連れてゲートを潜り、元の世界に戻った。

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