第145話 古びた木刀

聖世紀1211年夏 ユミルバ 魔の森 アベル5歳


アベルは素朴な疑問を世界樹にする。


[世界樹様の加護ってどんな力なの?]


姿は見えなくても世界樹が嬉しそうにしているのがよくわかる声で答える。


[ほほう、リトルドラゴンよ知りたいか。ワシの加護はのう、まずあらゆる土地や人や物を浄化する力じゃ。病気や呪いの状態を元の自然な姿に戻すことのできる力じゃ。そして植物を自在に操作することのできる精霊が使う植物魔法が使えるようになるのと、動物や魔物と普通に話せるようになるというあまり日常生活や戦闘には必要ない加護じゃがな。もろてくれるかいのう。]


アベルはとても喜んで興奮しながら世界樹に答える。


[嗚呼、世界樹様、世界樹様の加護は最高じゃないですか。これでユミルバのみんなを健康な状態にできるし、ユミルバの畑の作物も安心ですね。そしてオールドとハンとも今までニュアンスで意思疎通していたのをちゃんと言葉として理解して話すことができるようになります。本当にありがとうごさいます。ユミルバヤやいるんな人の役に立てるように上手く使っていきます。ありがとうございます。]


世界樹も嬉しそうにアベルに答える。


[そうかそうか、そうじゃな、いろんな人や街を助けてあげなさい。まぁ上手く好きなように使いなさい。リトルドラゴン。]


黒龍が世界樹に答える。


[リトルドラゴンの為に本当にありがとうございます。世界樹様。]


黒龍も笑顔で喜んで森の奥に向かって深くお辞儀をしている。

アベルも一緒にお辞儀をする。


[世界樹様、有り難うございます。]


機嫌の良い世界樹がアベルに提案する。


[えっとのう。なんか世界樹様という呼び方はのう、なんか他人行儀で距離があってちっとも嬉しくないんじゃ。んーそうじゃ! わしのことを人間世界みたいにじいちゃんと呼びなさい。良いか忘れるんじゃないぞ。ほれ、リトルドラゴン呼んでみい。]


アベルも元気に世界樹の要望に答える。


[わかりました。ありがとうじいちゃん。]


世界樹が本当に嬉しそうに答える。


[そうそう、ええのうええのう。ここ最近は、ずっとこの世界を道連れでもう枯れて死んでやろうと思っとったが、これでまた少し生きる楽しみが増えたわいのう。]


黒龍が世界樹に笑いながらツッコむ


[世界樹様、世界を道連れに枯れるなんてあまり物騒なこと言わないで下さい。]


黒龍のツッコミにお構いなく世界樹は話を続ける。


[あっそうじゃ、リトルドラゴンは普通の人族じゃから、龍みたいに角や牙や爪をもたぬのじゃったな。よし、それではワシがリトルドラゴンに特別に爪や牙の代わりにになるようにワシの枝から作った木刀を授けようぞ。]


アベルは大喜びしたが

チラッと黒龍を見て本当に木刀をもらっていいか目で確認する。

黒龍はアベルを見て大きく貰いなさいと頷いている。

世界樹の言葉は続く


[この世界樹の木刀はのう、お前の強さに合わせて成長するこの世界に1本の唯一無二の神剣じゃ。リトルドラゴンの成長次第では勇者の聖剣や魔王の魔剣にも負けんように成長するぞ。それにワシの力で溢れておるから、悪霊に憑依された人間の悪霊だけを斬ったり不浄なる者を浄化したりもできるぞ。認識障害が付与しといてやるから普通の鑑定では攻撃力1の「古い木刀」としか表示されんから周りから馬鹿にされるかもしれんがのう、まぁ関係なく安心して思いっきり使え。リトルドラゴン以外の者はこの木刀は重過ぎて持ち上がらんようにしといてやるでな。]


アベルもワクワクして嬉しそうに答える。


「ありがとう。じいちゃん。僕、一生大切に使います。」


すると世界樹が改まってアベルにお願いする。


「それでのう。リトルドラゴンにワシからひとつお願いがあるんじゃ。リトルドラゴンがもっと強くなったらでええからのう、この魔の森の奥におるワシに会いに来て欲しいんじゃ。でものう、ワシのいる場所は魔境で厄介な魔物が沢山住んでおってそいつらを倒さないとワシには会えんでな。本当に強くなってからでええからのう。いつか会いにに来てくれんかのう。]


アベルは元気よく答える。


[はい、僕、じいちゃんにいつか必ず会いに行きます。]


[あっ・・・でもその前にその中間地点にあるアルベルトの家にもリトルドラゴンを待ってる奴が眠っているでな、記憶が戻ったら会いに行ってあげなさい。焦らんでええからのう。これは約束じゃ楽しみにしてるぞ。よし、それでは木刀と加護をそっちへ送るぞ。いくぞ!!! ほれ。]


黒龍が龍語で叫ぶ


『リトルドラゴン、気をつけろ!』


アベルとドラゴニュートが素早く後ろに飛ぶとさっきまでいた場所で大きな音がした。


『ドッカン!』


爆音と共に凄い勢いでアベルの目の前に大きな土煙が上がって

地面に2メートルくらいのクレーターができた。

砂埃が晴れるとそのクレーターの真ん中に持ち手に布の巻かれた

一本の古い木刀が刺さっていた。


アベルは大きな音にびっくりしてドキドキした胸を抑えながら叫ぶ。


「びっくりした!じいちゃん豪快すぎるよ。」


地面に刺さった木刀から小さな光の玉が現れて

ふわふわとアベルの額に入り込んだ。

するとアベルの体がうっすらと二秒ほど輝いて

世界樹の加護を受けることができた。


アベルの中だけで世界樹様の声がする。


[強くなって会いにおいでリトルドラゴン。またな。たまに神託を出すでな。]


黒龍がアベルに目で促すとアベルは木刀に近づき恐る恐る木刀を握った。

アベルが握った木刀はアベルの魔力を感じると一瞬僅かに輝いて

アベルの身長に合わせた長さに変化した。


『黒龍先生、すごく馴染みます。』


アベルは鼻息荒く興奮して黒龍に話しかける。

周りのドラゴニュートたちはポカンとアベルを見つめているだけだった。


アベルは黒龍に木刀を見せながら龍語で話す。


『世界樹様にお礼を言わなくちゃね。早く会いに行けるといいな。』


黒龍は改めて嬉しそうに木刀を握るアベルに龍語で説明する。


『リトルドラゴン、これはな凄い事なんだぞ。本当に世界樹様に感謝しないとな。普通はエルフの王様でない限り、世界樹の加護なんて貰うことはできないんだぞ。それに世界樹の木刀なんて持ってる奴ははこの世界にリトルドラゴン以外1人もいないぞ。』


クリシアも驚きを隠せない顔でアベルに話しかける。


『リトルドラゴン様、異世界から来た勇者ですらそのような武器を持っておりませんわ。それにそもそも世界樹関連のアイテムというのは、高位の魔法使いや王族が大金払って小さな枝を手に入れて、価値のある装飾品の魔法杖として加工して飾ったり、錬金術師がエリクサーを作る為に必要な葉っぱを手に入れるのも葉1枚白金貨1万枚っていうくらい希少にな相場のモノなんですよ。今、リトルドラゴン様の持つ世界樹様の木刀の価値はちょっと計り知れませんね。どこの国の王様も持っておりませんわ。』


アベルは木刀をじっくりと眺めて龍語で答える。


『うぁなんかすごいのもらっちゃったね。』


黒龍はアベルの頭を優しく撫でながら


『この森には、親父と同等の本当に強い魔物がウヨウヨいるから、早く倒せるようにならないと世界樹様に会いに行けないな。』


アベルは少し考えてから答える。


『そうか・・・頑張らないといけない理由がまた増えたね。ハン、オールド。』


アベルが二匹を召喚するとアベルの影からハンとオールドが現れる。

ハンはアベルの隣にオールドは左肩にスタンバイする。

アベルがハンとオールドに言葉が理解できるようになったと説明する。


【あのね、世界樹様の加護を貰って、君たちとちゃんと話せるようになったよ。】


ハンは驚いてアベルを見つめて答える。


【それは良かった。今までアルベルト様もアベル様も私の俺の言ってる事をニュアンスで感じるだけだったのでそれは凄い事だよ。世界樹様に感謝だな。】


オールドは笑いながらアベルに


【それは素晴らしいですね。それはとても良いですね。私もアルベルト様やアベル様に何時も細かいニュアンスが通じないもどかしさを感じていましたからねぇ。それは良いですね。世界樹様に感謝ですね。】


2人が喜んでくれてアベルも嬉しかった。


【これから、また改めてよろしくね。】


二匹も嬉しそうに答える。


【はい】



その夜、夕食後にナデルとイベルマとガナルとラーシャに

魔の森で世界樹様の加護と木刀をもらった話をした。

植物魔法と動物たちと話すことが出来るようになったと言うと

ガナルとナデルは盛大にお茶を噴き出していた。


イベルマとラーシャは、世界樹の木刀に驚いてアベルの持つ木刀に

何回も頬ずりしていた。


アベルのせいで聖女様のイメージがどんどん壊れていきそうな気がして怖い。

するとガナルが真剣な顔で改めてアベルに問う。


「アベルよ、お前は龍王様と水龍様と世界樹様の加護を手に入れた。そして今の時代には必要ない物騒な武器3つ手に入れた。「龍王様の短剣」「国宝魔導銃アンブラ」「世界樹の木刀」そして10才で天才アルベルトの知識を手に入れる。そして15才で龍の力を手に入れる。アベルよ。改めて問う。お主はその力を使ってこの世界をどうするつもりじゃ。」


アベルはニコニコしながら当たり前のように答える。


「そんなの決まっているよ。僕は冒険者になって世界中を旅するんだよ。」

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